見出し画像

007の原作者が海軍情報部で立案した作戦:「物語」の力で戦争に勝つ『オペレーションミンスミート』

実話を基にした映画で『シルクロード.com』という作品を観た。これは、違法な薬物など、通常の通販で扱えないブラックな商品の通販を、ビットコインを使って行う裏サイト『シルクロード.com』を作った男と、それを追いかけた刑事の物語。サイトを作った男も破滅し、捕まえた刑事も、捜査の過程に関わった汚職で破滅する。史実通りではなく、刑事はいろいろな個人のエピソードのミックスで作られたキャラだという。テーマとしては面白いのだが、刑事のキャラが架空なのであれば「なぜハッピーエンドにしない?」。

「究極の自由」を求めた天才エンジニアが、国家と対峙して破滅していく物語の主人公として、現場を愛し、手と足を動かしてサイバー犯を逮捕するアナログ刑事のハッピーエンドの物語であればものすごくスッキリしたのに。ただ、映画としてはどうかと思うが、事実としての興味深さはあった。モヤモヤとした終わり方さえ我慢すれば、観る価値がないとまでは言えない。そういえばカンバーバッチが主演した『クーリエ』という映画も、民間人がソ連のスパイをする話なのだが、史実に忠実で、主人公があまりに不幸になる物語なんだよ。これも、こんな話を映画にするか?という悲惨な物語。

事実がハッピーエンドにならな物語をどう映画にするかという脚色の問題だけど、タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・インハリウッド』のように事実を「いい方に」変更するということも考えてもよかったなあと。スパイク・リーの『ブラッククランズマン』も、やけに黒人捜査官に理解のある白人の警察署長とか、物語にカタルシスを与えるために史実を映画的に改変している。そういう映画の方が僕は好きかな。

ながながと、スッキリしなかった映画の話をしたのは、この『オペレーションミンスミート』が、史実に忠実で、しかもカタルシスがあるハッピーエンドの物語だということ。

ミンスミートというのはひき肉という意味で、死体に偽の重要書類を持たせて、ナチスに、連合軍がシシリー島ではなくギリシャに上陸すると思わせるという作戦の隠語になっている。

徹底的に描かれたのが、拾ってきたような身元不明の死体に、架空のキャラ設定をしていく話。生まれから、職業から、死因から、恋人との写真まで、映画のシナリオを書くように詳細にキャラクターを立てて、ナチスの諜報機関にキャッチされるように死体を海に捨てる。つまり『物語』の力で戦争に勝とうとした作戦のストーリーだ。さらに驚きの事実は『ジェームス・ボンド』シリーズの原作者のイアン・フレミングがこのときに海軍情報部にいて、彼がこの作戦の立案者であったことだ。素晴らしい才能を、適材適所に置くというイギリス軍の人事をみると、日本が破れたのは当然という気がしてくる。イアン・フレミングはこの映画のナレーションも担当している。

機密解除で全貌が見えてきたこの痛快な作戦を、作戦を考案した男のナレーションで再現するなんて、ちょっとワクワクするではないか。とても面白かったし、痛快だった。やっぱりナチスものは外さない気がする。

↑これが原作

この記事が参加している募集

映画感想文

読んだり、観たりしたコンテンツについて書くことが多いです。なのでサポートより、リンクに飛んでそのコンテンツを楽しんでくれるのが一番うれしいです。でもサポートしてもらうのもうれしいです。