「食餐人から食散盡へ」

WEDNESDAY PRESS 052

9月の中旬に師匠の佐藤隆介さんが永遠の旅に出られた。
佐藤さんは、東大卒業後「博報堂」にコピーライターとして入社、三年ほどで退社、あとはフリーのコピーライターとして「懐石サントリー」などの名作を残す。「NOW」という男の雑誌の編集者時代に池波正太郎さんに担当となり、十年以上通いの書生。料理と酒と器だけのことを書かれた作家である。

思えば僕が22歳に知己を得て以来、47年間にわたり、数え切れないほどの薫陶を受けた。最後の葉書は8月半ば。「おぬしとの不思議な縁は五十年になるかな、四十年後半か」と書かれていた。それに対して「四十七年です。五十年まではお付き合いください」と返信をした。それに対して返信はなかった。

ある時、師匠から届いた手紙。
「たかが手紙、ましてや葉書など・・ではあるが、どうせのことなら、もらった人がうれしがるようなものでありたい。物書きである以上は。」と書かれていた。
差出人は虎魚とあり、受取人にである僕は「食餐人」となっている。師匠はいろいりな人に渾名をつけていた。
この「食餐人」は、食に関する仕事をする人間にとってはありがたいのだが、関西人にはやや重い感じがして、「食散盡」と文字を変えてしまった。食べ散らかし盡す、のほうが自分にはふさわしいような気がしていた。

昨年の誕生日には「生盡久宇」という篆刻が「少し早いが形見!だ」と頂いた。そこには「『久宇』はむろん『食う』。久遠の宇宙と同じく食の宇宙も無限だから、この二字を当てた。自分だけの葉書を作って、せっせと書け」と書いてあった。以来、手紙や葉書は書き続けている。

師匠の逝去をきっかけに、そろそろ「食散盡」から「食餐人」がふさわしい人生を送りたいとも思い、「食餐人」に変える日を楽しみにしている。

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