【第47回】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』連載中!
「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』
第47回
マンションへ続く坂道の途中まで来たとき、フロントガラスの向こうに人だかりがあるのが見えた。運転手がスピードを緩める。
「危ないなあ、道路にまで人がはみ出てる。なにかあったんですかねえ」
目を凝らすと、人だかりは新聞社やテレビ局などのマスメディアだった。腕に腕章をつけたり、テレビカメラを肩に担いでいる者がいる。
佐方は、被害者がSNSで久保の実名を出していたことを思い出した。おそらく閲覧者の誰かが個人の正義を振りかざし、加害者を断罪すべく住所を特定し情報をインターネットにあげたのだろう。
「ここでいいです」
佐方は坂の途中で、タクシーを降りた。当然のことながら、マンションには他の住人がいる。正門にタクシーで乗りつけ、マスコミに引き留められたら騒ぎになる。できる限り目立たない形で、自宅を訪問しようと思った。
しかし、佐方の配慮は意味がなかった。マンションはセキュリティがしっかりしていて、敷地に入るためには正門を通らなければならなかった。門の横には詰め所があり、なかに警備員がいる。なかへ入るには、警備員の許可が必要らしかった。
できるだけ目立たないように詰め所へ近づき、警備員に伝える。
「久保利典さんの奥さんに会いたいのですが」
警備員は厳しい目を佐方に向けた。
「あなたも報道関係者ですか。そうならお引き取りください。奥さんご本人からマスコミには取り次がないでくれと言われていますから」
どうやら舞衣のところには、すでに報道関係者からの取材が殺到しているらしい。佐方は名刺を差し出しながら、自分は久保の弁護人であること、本人から舞衣への伝言を預かってきたことを伝えた。
(つづく)
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