研究室生活

修論を書き終え、修論発表スライドも教授にチェックしてもらった今、私は19年間に渡った(浪人の1年間を含む)学生生活をほぼ終えようとしているわけです。あとは高々3分の質疑応答を耐えしのげばいいだけ。3月に大阪で学会があるので、修論関連のことがらが終わっても解放感に入り浸る、ということは出来ないのですが。

なにはともあれ、今回は研究室生活について話したく存します。学部移行で悩む1年生、あるいは、これから研究室を迎えようとする人間たちに対して、なにか1つでも伝えられたら本望です。

まず私は”怠惰”の権化そのものです。やりたくないこと以外に本腰を入れることはありません。そんな人間が、実験に追われると悪名高い応用化学科には行った理由ですが、それは打算以外の何物でもありません。メカノクロミズムを研究したいとか、環境浄化触媒の開発をしたいとか、そんな高尚な理由は1つもありません。化学が潰しが効きそうだったのと、就職に困らなそうだったからです(実際いわゆる大企業に秒で内定もらえます)。

本来私はきっと理学部向きの人間です。長い数式の意味を汲み取ったり、現象を一般化したりするのが好きな人間で、理学部数学科に行こうか最後まで真剣に悩みました。世の中に役立つなんてことに毛頭興味などなく、意味深長すぎて意味の無い(正しくは意味のなさそうに見える)事象に興味を抱いてきました。

そんな私が化学(触媒)を研究し始め3年間たった今何を思うかといえば、研究は全体的に見て楽しいものだったということです。以下延々と研究を楽しいと思うに至った理由を話していきますが、結論から言うと、これは1つに自分の研究が上手く回ってくれたこと、2つに自分の所属する研究室が自主性を重んじてくれたことにあります。

まず1つ目ですが、研究を楽しいと思えるためには、研究が上手く回ることが必要です。うまく研究テーマを回せるかどうかは運と労力にかかってきます(労力をかけても運に恵まれなければ研究は進みません)。これはエジソンも言ってましたね。Genius is one percent inspiration, ninety-nine percent perspiration.です(inspiration ; 閃きとperspiration ; 汗で韻を踏んでてかっこよい)。実験系に進む以上、ある程度(週5で毎日最低3時間程度の実験量)の労力が少なくとも必要となることを覚えておいてください。労力を費やすことは研究がうまくいくための必要条件であって、十分条件ではありません。ここ(頑張っても結果が出るとは限らない)に研究がしんどいと言われる理由があります。

どれくらいの確率で研究が上手く回るかは、きっと分野によって異なるので数字として表すことは良いことではないかもしれませんが、うちの研究室を見ている限りでは40%くらいです。これを高いとみるか、低いとみるかは人によるでしょう。高いと思えるなら実験系にいってもきっとやっていけます。低いと思うなら、実験系はやめた方がいいかも知れません、しっかりと心が荒んでいきます。

かくいう私は新規テーマを与えられ、右も左もわからないB4の時に右往左往するばかりか、死にそうになっていましたが、修士になって新たな現象を発見でき、自分のテーマを来年度以降も引き継がれるものに至らしめることが出来ました。(参考までに、基本的に引き継ぎテーマの方があたりをつけやすいのでうまくいきやすく、新規テーマは運要素がより強くなる)つまり、私は運よく研究をうまく回せ、未来に種をまくことが出来たわけです。

研究がうまくいくというのは、やはりうれしいことで、研究が一度うまくいけば、研究というのはきっと楽しくやりがいのあるものになります。

そして2つめの要素ですが、これはとっても大事です。化学系の実験系研究室はコアタイムなるものが十中八九設定されておりまして、自分の知る限り最短でも平日10:00-17:00は研究室にいなければなりません。有機系に行くと、平日9:00-21:00,土曜9:00-18:00とかです(後付け理論まみれの有機に興味もありませんでしたが、このコアタイムを見て有機系なんかに行ってたまるか、という確固たる意志が芽生えました。ちなみに有機系に進むのは意識の高い人間か成績の悪い人間のどちらかです。研究室を選ぶときには決して一時の意識の高さを発揮してはいけません。ちゃんと吟味してくださいね)。

うちの研究室は平日10:00-17:00がコアタイムですが、実質的に有名無実化しております。私は大体早くても11:00に遅かったら14:00くらいに研究室に行きます。これに対してお咎めを食らうことはなく、やることをやって結果を出してくれてれば説教を食らうことはありません。

つまりコアタイムで学生を拘束しようというよりも、自由に来て思うだけ研究をしてくれ、というスタンスなわけです。

また、この主体性を尊重するスタンスは研究室運営にも表れていて、基本的にコアタイム中に何をしようが自由です。実験をしてもいいし、DAZNでサッカーみててもいいし、後輩と食っちゃべってってもいいし、何しても何にも言われません。なので、自分の考えるように実験を組めるのです。

もちろんこのスタンスは研究の進め方にも表れて、基本的に研究の方向性を定めるのは自分です。教授たちからあれやれ、これやれという指示を頭ごなしに受けることはありません。これはB4みたく入りたての人間にはしんどい環境だと思いますが、自分で問題意識を持ち、論文を読み実験を組み立てられるようになったら天国です。主体的に研究と向き合えるわけで、やらされてる感を覚えることなく、自分が自分の思うように実験ができるのです。自分が主体的に研究を進めていくなかで、世界で誰も知らない発見を出来た瞬間ほど悦に入れる瞬間はありません。

これは学生実験と大きく異なります。学生実験は答えが決まっていることをやらされるわけで、そこに主体性はほとんど存在しません。学生実験にうまくいくいかないなんて要素は存在せず、ただただ実験方法に従って淡々と受動的に実験をし、実験が終わったら淡々とレポートを書かされるのです。

なので学生実験が苦行であるのは当然であって、それは、あなたに実験系の研究が向いていないことを必ずしも意味しません。

話の着地点が見出せなくなってきたのですが、とりあえずキリがいいので今回はいったんここで終わりにしようと思います。

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