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異語り 062 予防接種

コトガタリ 062 ヨボウセッシュ

ワクチン(予防接種)はどれだけ有用性が高く、副反応が出にくいものであっても反対派がいるようで、今騒がれている新しいワクチンには結構な数の反対派と、様子見派がいるように思う。
子供を産むと、生後数ヶ月後からかなりの数の予防接種を受けさせることになる。
スケジュール管理もなかなかにややこしかった。
我が家の予防接種スケジュールも、ようやく息子の一種を残すのみとなった。
季節もののインフルエンザや、まだかかっていないおたふく風邪のワクチンも要検討案件なのだが、とりあえず落ち着いた気分だ。


自分が小学生の頃は、毎年インフルエンザの予防接種を学校で受けていた。
全校生徒が順番に保健室で打たれる。
今も昔も注射嫌いな自分にとっては地獄イベントでしかなかった(泣きはしなかった)
数日前からものすごいストレスを抱え、うつうつと執行日を待つ感じ(汗)
保健室近くの教室だった年は低学年生の泣き叫ぶ声も聞こえてきたと思う。

とにかく非常に嫌すぎたので、実は任意だと気が付いた小5の頃からは親に頼み込んで受けないという選択をすることにした。


予防接種当日は受けない人と体調不良の生徒は教室に残される。
受ける子は廊下に整列し、ぞろぞろと保健室へ移動していった。

そこから20分ぐらいすると1人また1人と注射を打たれた子が戻ってくる。
ヘラヘラしてる子や、じっと打たれた腕を押さえている子。
やたら「大丈夫だった」アピールをしている子など、それぞれ面白い。

6年生の時、昨年と同じように教室に残って生還者を見守っていた。
そして40分も経つと、ほぼクラス全員が揃った。


でも先生が戻ってこない。
子供としては、これ幸いとばかりにおしゃべりに興じていると、教頭先生がやってきた。
でも特に何の説明もなく、課題とあれこれを指示して戻ってしまった。

「先生、どうしたんやろね」
「さっきのあれちゃう?」
「あれって?」
「並んでたら急にAが座り込んで」
「ほんで先生が抱えて連れてった」
「保健室使えへんからどうか違うところに連れてったで」

そう言われればAはまだ帰ってきていなかった。

「貧血かな」
「なんかブツブツ言うとったで」
「俺Aの前やから聞こえたんやけど」

ボソリと声を発した男子に視線が集まる。
普段発表などもほとんど手を挙げない大人しいイメージの男子だったので、皆の注目を浴びて一瞬たじろいだように見えた。

「あいつ何言うとったん?」
「えっとー、……ずっと「カンカンカンカン」って言うてた……と思う」


予想外の言葉に会話が途切れた。


「なんやそれ」
「踏切の音か?」
「注射怖くて警報鳴らしてたとか」
なんとなく笑い話みたいになったところで、先生が戻ってきた。

Aはそのまま早退したらしい。

その後、Aは一週間学校を休んだ。


久しぶりに登校してきたAは、あの日のことはほとんど覚えていなかった。

「教室を出たあたりからすごい寒気がして、頭の中で誰かが「いったらアカン、いったらアカン、あかん! あかん!」って叫んでいた」と言う。
「そっからどんどん声が大きくなってよくわからんくなった」

気が付いたら病院にいて、2日前にやっと目が覚めたらしい。
身近に入院した子なんていなかったので、Aはすっかり英雄か勇者のような扱いになり、それ以上詳しい話は聞けなかった。


あの時、前にいた男子が聞いた「カンカンカンカン」は本当は「あかん! あかん! あかん! あかん!」だったのかもしれないと思っている。     Aが何かを止めたかったのか、Aに何かをやめさせたかったのか。

きっともう覚えてないんだろうなあ。


最近超簡単な(一時しのぎ的な)除霊方法として「ファブ○ーズをかける」なんて話を聞いた。
除菌成分が効くのか、消臭成分が効くのか、理由は知らないが多少の効果はあるそうだ。


もしかすると、予防接種にも似た効果があったりするのかもしれない。
疫病神などにはワクチンは天敵だろうし、体内での抵抗力を上げるわけだから一部の何かには脅威の存在になるかもしれない 。

でも、やっぱり注射はできれば打ちたくない。

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