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異語り 061 林間学校

コトガタリ 061 リンカンガッコウ

小学生の息子が宿泊研修に行きました。(緊急事態宣言のため、延期になっていた)
テレビっ子がいないと家の中がとても静かです。

林間学校といえば、今も昔も怪談の鉄板みたいなもの、スマホやネットの普及で少し変わってきたかなぁとも感じますが、ベースとなる話は変わっていないように思います。

自分自身では体験することはなかったのですが、林間学校の夜の約束として「友達のお姉ちゃんの友達の……」的な、出どころも不確かなお話は聞くことができました。(約40年程前の話になりますね)


自分の通っていた小学校では、林間学校は毎年同じ所に行くことになっていました。
隣県の湖畔にある研修施設で、中規模のバンガローがいっぱい並んでいました。
そこに8人から10人くらいずつの班に分かれて泊まることになります。

子供だけでお泊まりなんてなかなかない機会にテンションも上がりますが、朝から寝る時間まで、結構みっちりとスケジュールが組まれているので、実際に子供たちだけでバンガローに入ったのは、就寝時間の1時間ほど前になってからでした。

夜イベントの肝試しとキャンプファイヤーを終え、気分はウキウキのまま布団を敷き詰めます。
消灯時間の見回りが来た後。お待ちかねのフリータイムが始まりました。(ちゃんと布団には入ってましたよ)
大きくて有名な湖ですから、悲恋の昔話から現代の事故までネタになりそうな話題には事欠きません。
そしてクラスに1人か2人は怖い話好きな子がいるものです。
ちょうど私たちの班にもそんな子が1人いました。


「何年か前の子らのほんまに体験した話やねんけどな」
豆球だけの明かりの下で布団から出した頭を付き合わせてコソコソと小声の話を聞きます。


せっかくの林間学校やのに、あいにくの雨模様で楽しみにしとったいくつかのイベントが変更になってしもた。
特に夜のイベントが何もできんくなって、それぞれのバンガローで過ごすだけになった。
文句混じりのおしゃべりをしてたら先生が来た。
「これから怖い話してやるから、男子のバンガローに行くぞ」
怖い話は苦手な方やねんけど、ひとり残されるのはもっと嫌やからみんなと一緒に外に出た。
どうやら他の班にも同様の声掛けがされてたみたいで、なんこもの懐中電灯の光が光とざわめきが暗い湖畔に響いてた。

どうやら肝試しの代わりにって担任やら引率の先生が気い利かせてくれはったみたいやった。
電気はつけんと、懐中電灯の明かりだけの部屋の中でみんなで肩を寄せ合って怪談を聞く。
怖かったけど、みんなと一緒やったから最後まで話も聞いてられた。

バンガローに戻る頃には雨も止んで、少し星も見えてた。

でも、みんなで布団に入る頃になるとまた雨音がし始めた。
それがだんだん強なっていく。
屋根にあたる雨の音はうるさいし、時々強い風がドンって当たって壁が揺れる。
とてもやないけど寝てられへん。
8人でひとかたまりになって、布団をかぶって震えてた。

ドンドンドンドン

戸を叩く音が聞こえてきた。

「先生~!!」
みんなで一緒に布団から飛び出してドアへ駆け寄った。


ドンドンドンドン


ドアを開けようとしていた手をひっこめた。


ドンドンドンドン


誰ともなくお互いに手を握り合ってた。


ドンドンドンドン

「「「きゃーーーーーー!」」」
誰かが上げた叫び声に釣られて次々と悲鳴が上がる。


ドンドンドンドン


目の前のドアからではなく、部屋の奥の窓から聞こえる。


もうみんな声も上げられへんし、布団にも戻れへんし、抱き合ったままじっと息を殺して時がすぎるのを祈り続けた。


空が明るくなり始めた頃、ピタリと雨風の音が止んだ。

窓の外にも光が見え、やっと少し体の力が抜けた気がした。


「徹夜なんてしたの初めてやわ」
誰かがこぼした呟きに皆が同意して、「さっさと外に出てしまおう」ということで一番に朝食会場に乗り込んだ。

安心したんか急に襲ってきた睡魔と戦いながら朝食を詰め込んでいると
「お前らの班だけはよう寝てたなぁ」と先生に声をかけられた。
みんなで首を傾げてると
「何回かのぞきに行ったけどぐっすりやったぞ」
昨夜の怪談会の刺激が強すぎたんか、夜中に何件か悲鳴騒ぎがあり、先生方は見回りの回数を増やしたそう。
マスターキーでそっと中を覗いた時に、うちの班は全員静かに眠ってたらしい。
自分らも「嵐の音が怖くてずっと起きてた」と主張したけど、
「昨夜はいい天気だったぞ? みんなで一緒の夢でも見てたのか?」と流されてしまった。

確かにバンガローの周りには朝方まで雨が降っていたようなあとは見当たらへんかった。
「あれ、夢やったんやろか」
8人全員が同じ夢を見たんか? 
狐につままれたような気分でバンガローへ戻っていく途中、入り口の反対側を見て固まった。
扉の反対側。部屋の窓の下に大きな楕円形の水たまりが二つあったから。


みんなで「ヒーッ!」となっていたところで、タイミングよく二度目の見回りに来た先生が扉をあけ、大声を上げてしまったのもいい思い出です。

息子は帰ってくると、「昨日は暑くてみんな全然寝られなかった」「ずっと起きてた」と言ってました。
さて、何かあったりしなかったかな?
つい後日談を期待してしまします。

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