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異語り 057 つなぎ直し

コトガタリ 057 ツナギナオシ

noteで怪談を書き始めて気がつけば1年が過ぎていました。
思うように外出できなくなった時期でもあり、直接人に会って話を聞く機会は減ったのですが、代わりに昔のことをよく思い出すようになりました。

毎週毎週怖い話ばかり思い出しているせいか、感覚(匂いや肌感覚)も鋭くなったような気がします。
人や場所、物に対しての好・嫌がはっきりと感じられるようになりました。
本質はビビリなので、間違ってもガチ恐怖体験はしたくはない。
鋭くなった勘を頼りに妖しげなものからはそっと距離をとるようにしています。


ところがこの夏休み、大事なこの感覚がぷっつりと切れてしまいました。
気づくまでに2週間ほどかかったため、はっきりとした原因はわかりません。
ですが、おそらくあの時の何かがと思うところはあります。

昨年に続き帰省も潰れ、プールもない夏休み。さすがに何もないのはあまりにも悲しいと思い、近場へ1泊2日の旅行に行くことにしました。
日帰りでも行けるところでしたが、少しでも気分が盛り上がればと宿を取り、夜までゆっくりと散策も楽しみました。
予想していたよりは人出がありましたが(一応観光地だったので)学校できっちり教えられている子供達は大人以上にしっかりと消毒やマスク着用を守っていました。
基本的に子供はとても真面目にルールを守りますよね、破るのは大体大人です。
見習わなくてはと思いました

ホテルもとても綺麗で大1日目1日目でした。

さて翌日。

ホテルから車で20分ほどの海水浴場へ向かいます。
天気は薄曇り。連日暑い日が続いていたので気温も水曜も高めで絶好の海水浴日和でした。穴場的な小さめの海水浴場で、海岸自体は300メートルほど。でもちゃんと海の家も開いています。
波は少し高めだと聞いていましたが湾内のさらに入り江のような立地なので遊ぶにはちょうどいいくらいです。水もとても綺麗で足下を泳ぐ魚の姿も見えるくらい。

でも、びっくりするぐらい人がいません。

我が家以外には5家族ほど
今回はただの海水浴というわけではなく、マリンスポーツに挑戦しようと予約をしていました。そしてどうやら他の家族も一緒に体験するみたいです。
体験の説明を受けるために一か所に集まると砂浜はがらんとしてしまいました。

(なんだろう、少し寒い?)

水着を着ていましたが、気温は朝から20度を超えています。
日差しこそ強くはないですが、風もほとんどありません。
ただ昨日の気温が異常に高かったのでそう感じたのだと思うことにしました。

説明も終わり、皆で海へ向かいます。
水温もびっくりするほどぬるく、温水プールのよう。
ぷかぷかと波間に漂うようとても気持ちがよかったです。

インストラクターに付いて皆で沖へと移動します。
遠浅の海で、下を覗くと波紋がついた砂底が見えました。

不意にグワンと脳が揺れたような感じがしました。

立ちくらみ?!

水深は腰の深さほどなので、足を下ろせば難なく立ち上がれるでしょう。
ちょっと慌てましたが幸いめまいはすぐに収まったので、タプタプと浮かんだまま周りを見渡しました。


ゆらり


ゆらり


心地よかったはずの波が、体の芯を揺さぶっているように感じられます。
胃の底に不快感が生じじわじわと広がり始めました。

(まさか船酔い? 海中で?)

空を見たり、顔をつけたり。ごまかそうと試みます。
完全な船酔いというよりは、うっすらと酔いそう。という状態。

ひどく揺れる船は苦手ですが、水中で酔ったことはありません。
むしろ海もプールも大好きなのに……。

初めての感覚に多少戸惑いも感じましたが、完全に酔ったわけでもなく、まだ体験中ということもあり1人陸に戻るという選択はできませんでした。

ただ、それから先あまり記憶がはっきりしていません。
海や景色の説明もされていたように思いますが、ただゆらゆら揺れる海面だけが思い出されます。


ぼんやりとした意識のまま体験は終わり、気が付いた時には家に帰ってきていました。

子供たちはとても楽しかったようで、さっそく思い出話に花を咲かせています。いい思い出になったのならよかった。

そう思いながらその日はみんな早めに布団に入りました。


翌日、まぁ予想通り全身筋肉痛でよろよろです。
初めてのマリンスポーツを体験したのですからこれくらいは想定内です。

ですが、体のだるさがなかなか抜けません。
1週間経つ頃には一日中眠いような症状まで加わりました。


何かがおかしい


あれこれと思いつくことを並べ、考えていると、この夏の旅行に思い当たりました。

あの場所がそうだったのか、出会った人がそうだったのか、何かをしてしまったのか、全く見当はつきません。
ですが、恐らくはあの時何かがあったせいで体の中のバランスが崩れてしまったのだと思いいたります。


昔から、原因のわからない体調不良の時は神社に参拝に行く癖があります。
早速参拝へ行こう! どうせならきょうりょくなところへ、北海道神宮へ!
とさっそく参拝向かい、御加護をお願いして帰ってきました。

さて、効果の程は?


うっすらとした気怠さは残っていますが、頭はスッキリとしました。
外れていた回線が繋がったような感覚です。
まだ繋ぎ直したばかりですから以前のように機微に飛んだ感覚は戻って来ていませんが、ほっとした安心感と安定感を感じます。

ご加護 ありがたし。


夏休みにマリンスポーツを体験した海岸は、特に心霊スポットなどの噂や怪談の類は聞いたことがありません。
(小さな集落なので情報が上がってこないだけかもしれません)

怖いので確認・検証には行きたくないです。

ただ、人の噂が上がらない場所であっても、ぽっかりと何かしらの穴が開いているのかもしれないと思い知った旅行になりました。

不安を感じたら直感を信じて退く勇気も大切ですね。以後気をつけます。

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