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異語り〜コトガタリ〜

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【現代怪談】 日常に紛れ込んだ微かな異の物語を綴っていきます。(毎週木曜日更新)
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2020年11月の記事一覧

異語り 017 生前葬

異語り 017 生前葬

コトガタリ 017 セイゼンソウ

真面目で生一本な祖父が生前葬をすると言い出した。
しかも袖摺れの大将がいる料亭を手配済みだという。

四月初めの少し冷たい催花雨の中、滋賀県の湖畔にある料亭に親族一同が集まった。

祖父母は赤い毛氈と金屏風の前に座り笑顔でお迎え、葬儀というよりは色節の趣だ

「このたび集まってもらったのは、余命宣告を受けまして……」

祖父の唐突な告白に寧静が保てずそっと席を立

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異語り 016 紙魚

異語り 016 紙魚

コトガタリ 016 シミ

懐かしい風景の夢を見た。
小学校の頃家族旅行で行った、宮崎県の都井岬。
なだらかな草原と青い海、小柄な馬がのんびりと草を食んだり寝転んだりしている

ただ思い出と違い風景には白い影が立っていた。

夢は毎日見るわけではなかったが、影は見るたびに近づいてきた

緑と青の景色の中、大きくなっていく白い影

何度目かの夢見の後、目覚めと同時に全身の毛が弥立つ。

次に見る時あ

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異語り 015 シチゴサン

異語り 015 シチゴサン

コトガタリ 015 シチゴサン

北海道の七五三は10月です
今年は海外からの観光客もなく、北海道神宮の参道は晴れ着に包まれた稚児連れの家族が目立ちました。
なれない草履に苦戦しながらも、まだ色節の自覚や気負いのない無邪気な笑顔があふれています。

神門の裏に小さな扇子が落ちていました。
七五三の子が落としたものでしょう。
すぐに警備の方が気づき、慣れた様子で詰め所脇に据えられた盆の上に置かれまし

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異語り 014 已己巳己

異語り 014 已己巳己

コトガタリ 014 イコミキ

千葉に住んでいた頃にやっていたSNSは、三桁ほどフォロワーがついていた。

日々の食事や親子コーデ。娘が作るビーズアクセサリーやお絵かきなどを気の向くままに投稿していた。

中にはしつこく絡んでいる人もいたが、返信は顔見知りのみと決めていたので大きなトラブルはなかった。

ある日、娘の映画デビューに東京の映画館まで親子コーデでお出かけした。
鑑賞後声をかけられ振り

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