見出し画像

【読者感想文】サラバ!(西加奈子 著)

忘れもしない、ぼくが小説に興味をもったきっかけは、高校時代に国語の模試に出てきた、宮本輝「星々の悲しみ」だ。
小学生の頃に図書館で借りた「ズッコケ三人組」くらいしか読書経験のないぼくは、その美しい文章に衝撃を受けた。そもそも「面白い・面白くない」以外に「美しい」と感じさせる文章が世の中に存在することに驚いた。

以来たくさんの好きな作家・作品に出会ってきて、ぼくの中になんとなく小説に対する固定観念のようなものが出来上がっていた。それは優れた作家ほど「直喩や暗喩」がうまいということだ。美しい情景描写や絶妙のたとえによって、人物像やその心理が、まるで炙り出しのように露わになる。その技術が高ければ高いほど読後の余韻も深いし、それを味わうことが読書の醍醐味のように感じていた。

そんな考えがまるっきりひっくり返されてしまったのが「サラバ!」だ。

この作品は、主人公の目線で「見たまま」のリアルな描写と会話のみでガシガシと進んでいく。そこに曖昧さや比喩表現などはかけらもなく、とても直接的でパワフルだ。宮本輝や村上春樹が「炙り出し文学」とするならば、西加奈子の「サラバ!」は「極太マッキー文学」といってもいいくらい、すべての輪郭がくっきりしている印象だ。

はじめのうちは、読み進めながらもそのスタイルに少し戸惑いを感じていたけど、文字を追うことでいきいきとした映像が浮かび上がってくる経験は新鮮で、すぐに快感に変わっていった。

ストーリーも、主人公である「歩」の成長とあわせて目まぐるしく舞台を変え、それぞれにユニークなキャラクターが登場し大きく展開していく。上中下の全3巻と大作なのだけど、初めから最後までフルスロットル。読むこちらも息つくヒマなく一気に走り抜ける感じだ。

家族や友との間に生まれる、愛と呼べそうな、でもそれだけではない複雑な感情。生きていく上で避けては通れない、孤独。嫉妬やゆがんだ自尊心。そして死。しかし最後に辿りつく光射し込む場所。歩の半生を通して、様々なものが渾然一体となった物語がまるでひとつの生き物のように縦横無尽に動きまわる。

「美しい」文章ではない。感想として「面白い」というのもなんだかそぐわない。なにか一言で表すとすれば「滾る(たぎる)」だろうか。自分の奥に眠る生命力のようなものに、直接ぶつかってきて激しく揺さぶりかける。そんな作品だった。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?