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新型コロナから学ぶ、IT&メディアリテラシーvol.2|テーマ「和牛商品券」

炎上している「和牛商品券」ですが、メディア・リテラシーの観点で、よい教材なので、仕組みを解説してみたいと思います。

大元の発信は、日本農業新聞による、こちらの記事です。

日本農業新聞=JAを母体とする、農業従事者向けの新聞

まず、メディア・リテラシーにおいて大切なのは、発信者のスタンスを確認することです。

「日本農業新聞」ってなに?聞いたことないよ?読売とか朝日じゃないの?という方、けっこういらっしゃると思います。会社概要のページに、以下のように記載されています。

日本農業新聞は1928年「市況通報」として発行を開始、2002年8月には、農業協同組合法に基づく「農協組織」から、オールJAを結ぶ株式会社となりました。創刊90周年を迎えた日本で唯一の日刊農業専門紙、食と農の総合情報メディアとして現在に至っています。

つまり、JAを母体とする、農業従事者向けの新聞です。業界新聞というやつ。

「誰が、誰に向けて発信しているのか」は、極めて大切な情報

和牛商品券へのニュースの反応で多かったものに「なぜいま和牛(贅沢品)なんだ。他にやることがあるだろう」、というものがあります。

まず、この問題を考えるにあたって、「誰が、誰に向けて発信しているのか」は、極めて大切な情報で、ここが抜けてしまうと、適切な判断ができなくなってしまいます。

これ、ちょっとソースを探し出せなかったのですが、ここ1ヶ月くらいの間に、畜産に従事している若手が書いたnoteで、「牛肉の買取価格が、原価を下回ってしまっていて、やっていけない。ブランド化できていて高値で直接販売できる個人以外は壊滅しかねない」という内容を見ました。

贅沢品の代名詞のような和牛ですが、畜産農家は、他の産業の大半がそうであるように、経営体力がないのが実態なのでしょう。

おまけに、コロナによって、消費もされなくなるとなると、買取価格がさらに下がる、または値段がつかなくなるという事態になり、業界としてはまさに死活問題なわけです。

とすると、業界が生き残りのために、自民党の農林部会に働きかけるだろうことは当然。JAも噛んでいると見ていますが、どうでしょうか。

話題の記事は、ロビイングの成果が、こんなふうに出ました、という業界内への成果報告的な意図のあるものだったのだろう、と推察されます。

利益誘導を批判するのは建設的ではない(私見)

なお、外側から見ると、「利権だ」「利益誘導だ」という批判になるわけですが、政治というのはこういうものです。

言うなれば、保育園増やせ、だって利益誘導です。

もちろん、裏で金が動いているんじゃないかとか、汚職に繋がっているのであれば問題ですが、業界がヤバいので対策お願いします、という働きかけは、業界外の人が批判するのはちょっとどうかな、建設的じゃないんじゃないかな、というのが個人的意見です。

そんなところにお金と時間使うな、というのであれば、ここに使え、と自ら働きかけるしかない。

これ、誰にでもできるんですよ。

地元の国会議員の事務所に遊びに行って、意見を伝えてください。

秘書、ときには議員本人と話せるときもあります(やったことあるよ。割と気軽に話できる)。

きちんと記事を読むとわかる事実3つ

もう一つ、メディア・リテラシーにおいて重要なのが、きちんと原典や情報ソースに当たる、ということ。最低限、記事の中身くらいは読まなきゃいけない。

↑の日本農業新聞の記事、中身をしっかり読んで、正確に理解している自信あるよという人、どれくらいいるでしょうか。

もちろん、読んだ方もたくさんいらっしゃるでしょう。

が、意外に多くの人が、見出しだけ、SNSで見かけただけ、ザッと見ただけ、炎上している(読者の注目を集められる)から出た後追い記事だけ、しか見ていないはずです。

特に、後追い記事や、他人のSNS投稿しか見ていない人は、要注意。

これら後追いメディアの発信スタンスは、「業界から農業従事者へ」ではなく、誤解を恐れずに言うと「炎上を面白がる人に、炎上しやすそうな情報を届けよう」です。

そこまで極端ではなくても、メディアにより、自分たちが抱えている読者が興味を持つように、情報を取捨選択・編集を行ったうえで、発信を行います。

個人も、他人が反応してくれるような要素をピックアップして、発信しますしね。

なので、事実の正しい理解のために必要な情報が十分ではない場合がほとんどです。

今回のケースでは特に調べていませんので、気になる方は見てみてください。

で、↑の日本農業新聞の記事ですが、中身を読んでみると、

・牛肉「など」品目を限った商品券で〜とあり、和牛のみが対象でないこと
・他の分野でも商品券の発行を求める意見があり、調整が難航するかもしれないこと
・政府への提言前の、党内案であること

という事実が読み取れます。

日本農業新聞の読者層がいちばん反応する=「牛肉」(推察)

私は農業・畜産業に詳しくないのでわかりませんが、おそらく、業界内では、牛肉が売れない問題について、懸念が広がっていたのではないでしょうか。

そこで日本農業新聞としては、中心読者のみなさんが興味があるだろう「牛肉」「和牛」というワードを全面に押し出した、と私は読みます。

ここでどのようなワードを選ぶかは、メディアの腕の見せ所で、読者にとって興味のないワードを並べても、読者の注目を集めることができません。見られないなら稼げず、経営が成り立ちません。

誤解を生まないよう全部書けばいいじゃん、という意見もあるかもしれませんが、効率の良い情報整理ができないなら、メディアの存在意義はありません。

実際、1から100まですべて書いた記事は、長くて読みにくく、誰にも読まれないはずです。

また、牛肉だけが対象になっているわけではない、というのも、抑えておくべきポイントでしょう。

予算はある程度限られるなかで、こっちに使ってほしい、いやあそこに分配したほうが効果的だ、という綱引きがされているのが現状です。

他のことは検討せずに、和牛商品券だけの話が進んでいる、ということではありませんし、農業だけでなく他分野でも様々な対策の検討は進んでいます。

いま出ている情報を丁寧に検討できれば、あくまでも、日本農業新聞が、抱えている読者層がいちばん「牛肉」に反応するだろう、という判断ものとで、あのような発信がなされている、という枠組みが見えてきます。

蛇足:商品券アホかの意見について

自民党内では岸田政調会長は一貫して現金給付派、二階幹事長は商品券派で、綱引きをしている、と、今朝の新聞に書いてありました。

私はまあ、それぞれの立場に一理あると思うので、政治判断に任せてもよいかな、と思いました。

気になる方は調べてみてください。すべては自分で調べる、原典やソースに当たる、がメディア・リテラシーの第一歩ですので!

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