伝統文化継承・体験の試み

〜文化庁の伝統文化親子教室事業について〜

本記事では、子どもがアートに触れる機会を国としてどのように確保し、どのように予算が付けられているのかを調べ、アートと公的資金について考察する試みの一部です。ここでは、文化庁の伝統文化親子教室事業について取り上げています。
(なぜ子どもがアートに触れる機会が必要なのか、については以下のnoteを参考にしてください!「アート×子ども事業、公的にはどんなものがあるの?」)

海外から友人が日本に遊びに来たときに、どこに連れていき、何を紹介するか。日本にあまり慣れていない友人であれば、これはそんなに難しい問題ではないでしょう。神社仏閣や日本庭園に行ったり、お茶を飲んだり、はたまた歌舞伎や相撲を観に行ったりするかもしれません。
僕もデンマークから友人が来たときには、歌舞伎を観にいき、根津〜上野を歩いて桜を見ました。「日本ぽいもの」を紹介しようと思った時に、戦後日本の象徴である科学技術館ではなく神社や歌舞伎座へと駆り立てるものはなんなのか、と思ったりもします。

歌舞伎

最近はナウシカの歌舞伎もありましたね

さて、他の国と同様、日本にも「日本らしさ」を構成するものの一つとして伝統文化があります。では国としては、どうやってそれらの伝統文化を継承し、次世代の担い手を育成しようとしているのでしょうか。
一つの公的な取り組みとして、文化庁による文化芸術を担う次世代を育成する事業が挙げられます。その中には、現在の新進芸術家を支援する枠組みと、将来の担い手である子どもを支援する枠組みが設けられています。
そして後者の子どもを支援する枠組みには、特に伝統文化に焦点を当てた「伝統文化親子教室事業」という事業があります。

子供たちが親とともに、民俗芸能、工芸技術、邦楽、日本舞踊、茶道、華道などの伝統文化・生活文化等を体験・修得できる機会を提供する。また、これまで体験機会がなかった地域の子供たちにも、地方公共団体が中心となり、地域の指導者の活用等により、体験活動機会の充実を図る。(文化庁HPより)

2019年度の文化庁全体の予算約1167億円のうち、約66億円がこの事業に当てられており、その下で「教室実施型」と「地域展開型」の二つの事業が行われています。

①教室実施型

伝統文化の振興を目的としている団体が行う、小学一年生から中学三年生を対象とした、夏休みや放課後を利用して伝統文化を体験してもらう取り組みを支援する事業です。放課後子供教室や土曜日の教育活動と連携し、体験した伝統文化を発表する機会なども設けています。
全国で毎年3000件以上の教室が開催されており、例えば2019年度は、渋谷区では4つの子ども将棋教室が採択されていたり、文京区では日本舞踊、華道、囲碁、琴・三味線、狂言、和太鼓、剣道、和装など合わせて11件の事業が採択されています。

②地域展開型

2018年度より始まった新しい取り組みで、地方公共団体が事業を行います。この事業では、国や地域の伝統文化に焦点を当て、上の教室実施の事業とも連携し、伝統文化と地域の関係についても理解が深まるような取り組みが行われています。また特に地域の課題解決や障害者・高齢者に関する取り組みも望ましいとされています。
2019年度は17の自治体で20の事業が採択されました。例えば京都市では、親子で京都の食文化や生活文化を体験することができる体験型/講座型の事業を行っています。

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日本舞踊や華道などを例にとっても、日本の伝統文化と言っても小さい頃からあらゆる国民が身近に感じているわけではありません。日本の伝統文化の担い手不足というのは少子高齢化だけが理由ではなく、そもそも日頃から伝統文化との接点がないため、知ることができていないということも理由として挙げられるでしょう。
だからこそ、学校で、親子で参加できる伝統文化体験を国が提供していることには意味があります。私たちも、子どもの頃に課外活動で体験した日本文化がそのまま現在の日本文化の認識を形成しているのではないでしょうか。子どもたちが将来直接的に伝統文化の継承に関わるわけではなくても、心のどこかに印象として持っておくことが大切なのです。

子どもがアートに触れる機会、という枠の中では伝統文化の体験は公的に広く行われています。クールジャパンとして売り出したり、地方創生の一環として用いるだけでなく、このように地道ではあるが確実な体験・継承が今後も継続されると良いと思います。

(文 鬼澤綾)

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