「再生可能エネルギ」は何が「再生可能」なのか

 「物事には良い面と悪い面があります。」

というのはよく言われます。さらに付け加えると、

「ある人にとっては良い面が、別の人にとっては悪い面となる」

事もありますし、同じ人にとっても

「時には良い面であっても、別の時には悪い面になる」

事もあります。そもそも、

「良い」「悪い」

という二値的な評価ができるのかという疑問もあります。

 だから、利害が発生する問題は解決が難しいし、他人の価値観も理解し難い事があるのです。

 でも、

「一時の良し悪しの判断だけでは、物事は測れない」

ということを認識しておくだけでも、いろいろな物事を受け入れやすくなります。

 「再生可能エネルギ」の問題は、まさにそれを念頭に置いて、フラットな立場で考えなければ、全容を理解するのが難しいのです。

 ということで、エネルギ問題についての続きです。前回の記事はこちら。

●まずは現状把握から

 昨年の9月に、こんな資料が資源エネルギー庁から出されています。

国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案

 最初から、なかなか衝撃的な事が書かれています(下図)。

画像1

 なんと、世界全体の電源容量を見ると、

「再生可能エネルギによる発電設備が、石炭も抜いて最も大きいものとなった」

ということでした。しかも、石炭の増加率は飽和しているのに対し、再生可能エネルギの増加率はほぼ一定です。

 ちなみに、日本の一般電気事業用(いわゆる旧「電力会社」)の発電設備容量が 約260GWです。太陽光発電の設備利用率が、平均値で 13~14% 、風力発電では陸上で約20%、洋上で約30%なので、世界中の再生可能エネルギによる発電能力は、すでに日本の電力需要を十分上回るものとなっています。

 これは、つい20年ほど前までは考えられない事でした。水力はもう開発し尽くしたと言われていましたし、バイオマスは蒸気や温水などの熱利用がいいところでした。ましてや、

「太陽光発電だけで、1件の家の電力を賄うなんて夢のまた夢」

というのが、一般的な認識でしたからね。いかにテクノロジーの進化が、世の中の常識をひっくり返しているかがわかるでしょう。

 しかし、ここまで再生可能エネルギの技術が開発され、普及したきっかけは、やはり

「2011年の東日本大震災に伴う福島第一原発の爆発事故」

である事は、間違いありません。

 現在、ちょうど広島と長崎の原爆投下から75年が経ちましたが、それ以上に世界中にインパクトを与えた出来事だったかもしれません。シュタインズ・ゲート風に言えば、まさに

「世界線が変わった」

と言えるほどのインパクトです。

●消費はまだまだ化石だが、再エネの伸び率は大きい

 もちろん、「エネルギ消費量」で見ると、まだまだ化石燃料の割合が大きいです。

 国際エネルギ機関(IEA)のデータを見ると(下図)、

("Total primary energy supply by source" を選んでください)

画像2

2017年の世界のエネルギ総消費量は、だいたい 14,000,000 ktoe となっています。

 "toe" は "tonne of oil equivalent" の略で、「石油換算トン」のことです。これは、

1t の原油を燃やして得られるエネルギ量を 42 GJ/t

として、

「エネルギを原油の重量で表した単位」

です。だから、ジュールで表すと、だいたい

 14,000,000×10^3×42×10^9 = 588×10^18 J = 588 EJ(エクサジュール)

です。これだとスケール感が分かりづらいので、いろいろ比較してみます。

 中国の年間総エネルギ消費量:約140 EJ
 日本の年間総エネルギ消費量:約15 EJ
 東京の年間総エネルギ消費量:約650 PJ(ペタジュール)
 新宿区の年間総エネルギ消費量:約30 PJ
 アメリカ人一人当たりの年間総エネルギ消費量:約280 GJ
 日本人一人当たりの年間総エネルギ消費量:約150 GJ
 成人一人当たりの年間エネルギ摂取量:約3.5 GJ

 テーマからは外れますが、人間が1日に摂取するエネルギ量から考えると、いかに人間が、食物以外のエネルギを必要とする動物であるかが分かります。

 さて、そのエネルギ源の種別の割合ですが、やはり一番大きいのは「石油」で、その次が「石炭」「天然ガス」と続き、化石燃料だけで全体の 70~80% を占めているのが現状です。

 その中で再生可能エネルギは、「水力」と「バイオ燃料」がエネルギ消費量と同じペースで増加し、割合としては水力が 2~3%、バイオ燃料が 9~10% で推移しています。太陽光と風力は、1~2% と割合は少ないですが、注目すべきはその著しい伸び率です。

 2007年に 82,017 ktoe であった太陽光と風力は、10年後の2017年には 256,830 ktoe となっており、割合で見ても、0.6% から 1.8%。10年で約3倍に増加しています。

 では日本はどうかというと、2007年頃の水力を含めた再生可能エネルギ供給量は約 1.5 EJ 、2017年では 2.2 EJで、量で見ると1.5倍。割合で見ても1.7倍です(データは以下のリンク参照)。

 もちろん世界と日本では、環境や事情が違いますが、この世界の潮流に取り残されている事は否めません。ましてや「技術立国」を自負する国としては、胸を張れる数字になっていません。

●そもそも「エネルギ消費」とは

 エネルギを消費すると言っても、エネルギが消えてなくなるわけではありません。どうなるかというと、最終的には「熱」になります。

 では、何故「エネルギ資源が不足する」という問題が起こるのでしょう。

 人間がエネルギを消費するのは、移動をしたり、モータを回したり、照明したり、通信したりと、何らかの物理的な「仕事」をするためです。その仕事を得るために、燃料を燃やしたり、発電をしたりするのです。

 その仕事を得るためのエネルギには、いろいろな形態があります。

 石油や水素などの「化学的エネルギ」
 雷などの「電気エネルギ」
 電波などの「電磁エネルギ」
 風力や水力などの「力学的エネルギ」
 原子を構成する「核エネルギ」

などなど。そして、「熱(エネルギ)」もその一形態という事になります。

 人間がエネルギを消費する際は、その時必要な形の形態にエネルギを変換しています。例えば自動車であれば(下図)、

画像3

エンジンの燃焼室でガソリンを燃焼させて、

化学エネルギ → 熱

に変換します。そして、

エンジンのピストン~クランクシャフト~カム~ギア等を経て、タイヤを回転させ、

熱 → 運動エネルギ

に変換します。最終的に止まるときは、

タイヤのディスクをブレーキパッドで挟み、

運動エネルギ → 熱

に変換します。

 このとき、人間に有用な形のエネルギである「仕事」と「熱」では、物理量の単位は同じエネルギですが、熱力学的には等価ではありません。というのは、

仕事は100%熱に変換する事は出来る

のですが、

カルノーの定理により、熱のエネルギ量は100%仕事に変換する事は出来ない

のです。これについては、熱力学の第二法則を以下の記事で説明しているので、参考にしてください。

 簡単に言うと、エネルギを消費する事は、最終的に熱の形態に変換するのに等しいという事です。そして、熱は温度の高い方から低い方にしか移動せず、必ず拡散するので、エントロピが増大します。

 我々が、

「エネルギ資源がある」

という状態は、

「エントロピの低い状態」

の事を指している事になります。そして、エネルギ資源が足りなくなるのは、

「エントロピが増大するから」

という事も出来ます。

 地球を仮に「閉じた系」と考えると、その中のエントロピは増大し続けるしかありません。だから、人類が宇宙開発を行い、他の惑星の資源を獲得したり、地球外に進出する事は、

「地球のエントロピを減少させる」

「よりエントロピの低い環境で人類を存続させる」

という意義があると言えるのです。

 さらにその意味では、「エネルギ資源の枯渇問題」と「エネルギ消費による地球環境への影響の問題」は、表裏一体であると考えられます。

●熱として捨てていたエネルギを回収するのが再エネ

 では、「エネルギ消費」の観点から再エネを眺めてみましょう。

 「太陽光」「水力」「風力」「地熱」は全て自然が生み出すエネルギですが、放っておけば熱として拡散します。

 例えば太陽光については、地球に到達する太陽光エネルギは、大気圏で170~180 PW(ペタワット)の大きさとなります。世界の全発電設備容量の、約15,000倍の規模です。

 そのうち、雲や大気で反射されるのが22.6%、吸収されるのが22.7%で、地表に届くエネルギは、54.7%の約 95 PWという事になります(下図のNASA資料より)。

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 これは何もしなければ、入射エネルギの6.7%は地表で反射され、48%は吸収されて、植物の栄養や熱となります。太陽光発電は、この地表に降り注ぐ約95PWのエネルギの一部を、電力に変換しようというものです。

 水力は、山の上から海に向かって水が流る事で、
  位置エネルギ → 運動エネルギ
となりますが、流れる途中で粘性摩擦や衝突により、
  運動エネルギ → 熱
のエネルギ変換が起きます。
 風力も同様に、粘性摩擦で
  運動エネルギ → 熱
と変換されます。
 地熱についてはそのまま、地表を通じて大気に熱が拡散していきます。
 バイオマスについては、一部は動植物の栄養にできる部分もあるので、全て熱として捨てるとは言えません。しかし、例えば動物の死骸や枯れ木などは、腐敗して発酵する際に熱が出ますし、メタンガスが発生すれば、そのガスは放っておけば大気に拡散して宇宙に逃げていきます。

 つまり、もともと自然界には、地球のエントロピが増大する過程があり、その間に人間がある装置や仕組みを導入して、有用なエネルギとして取り出すのが、「再生可能エネルギである」と言えます。

●ようは速度の問題

 それに対して、「再生可能でない」エネルギは、化石燃料であれば、本来長期に渡って地中に固定されているはずの化石を、わざわざ掘り起こして熱に変換している事になります。また原子力も、物質として長期に固定されているはずの核エネルギを、熱に変換して拡散している事になります。

 人間のエネルギ消費は産業革命以降、エネルギ消費量を増加させてきたわけですが、それはまさに

「地球のエントロピ増大を加速させる活動」

であったと言えます。

 一方、再生可能エネルギは、もともと自然が持つエントロピ増大の速度を、できるだけ変えることなくエネルギを利用することで、人類の生存戦略を探る活動とも言えます。

 ようするに、エントロピ増加の速度の違いです。さらに、その目的も異なります。

 非再生可能エネルギの目的は、

「大量生産」「大量消費」

です。それに対し再生可能エネルギは、

「生存環境維持」「経済活動持続」

と、目的が根本的に違います。

 だから、再生可能エネルギについて一番言われるのは「コスト」や「費用対効果」の問題なのですが、従来と同じ方法で非再生可能エネルギと比較すれば、

合わないのはある意味当たり前

なのです。

 最近になって、世界規模の気象変化や災害が相次ぎ、ようやく人類の価値観が「経済至上主義」から変化しつつありますが、エネルギ問題の解決の一番の難しさは、この

「考え方を変える必要性」

にあると言えます。

 だから、国連でSDGsが採択されるという動きにもつながっているのです。

(SDGsについての過去記事↓)

 次回は、個々の再生可能エネルギについて、特徴や問題点を考えたいと思います。

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