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ぼっちの女子中学生がスペースワールドのラッキー君に救われた話

中学生の頃、私はそこそこのぼっちだった。

いじめられているわけではない。男女共にクラスメイトと話すことに抵抗はなく、授業でグループを組んでもそれなりにそつなくやれていた。

仲のいい友達もいた。
でも、その友達にはみんな私より仲のいい親友がいた。
私はどの友達にとっても「3番目くらいに仲のいい同級生」だった。

休み時間は喋るけど、休日に遊ぶほどじゃない。
運動会で勝った時に流れでハイタッチはするけど、授業中に回ってくる手紙は私宛じゃない。
そんな感じ。

話しかければ入れてもらえるけど、それまでその子たちの間に流れてた空気とは別物になる。それがいたたまれなくて、次の授業の準備をするふりをしてスッと抜けることがほとんどだった。
おかげで違和感なく抜ける技術だけが上達していった。

そんなだからいつも手持ち無沙汰なような、寄る辺ない感覚を抱えて過ごしていた。

さて、中学2年になると修学旅行がある。
行先は福岡のスペースワールド。遊園地なんてないド田舎の中学生にとっては大きすぎるくらい大きなイベントだった。
「○○ちゃん、一緒の班なろ!」という声がそこここで飛び交う中、私はうっすらとした嫌な予感を抱えてきょろきょろしながら座っていた。

そして実際、ひどい有様だった。
スペースワールドでの自由行動中は必ず2人以上のグループを組むように言われていた。自由意志に基づくグループ決めはみるみるうちに進行し、既に内定していた身内グループに入っていけなかった私はオロオロしている間に見事あぶれた。

困った私が目をつけたのは、隅の方で仲良く修学旅行のしおりを開いていた二人組だった。

SちゃんとKちゃん(仮)。
Sちゃんは他クラスにいる私の友達の部活仲間。
KちゃんはそのSちゃんの幼馴染。

絶妙に希薄な繋がりしかないその二人の中に私は恐る恐るお邪魔することにした。
幸い、喋ってみると二人は私と近い気質をしていて、好きな漫画の話もできた。すぐにあだ名で呼ぶこともできるようになった。
これなら楽しい修学旅行になるだろうと、私もやっと期待に胸を膨らませたものだ。

しかし、たかが中学生の読みは甘かった。

修学旅行当日。
近所のどローカルなビジネスホテルが知りうる限り一番高い建物だった田舎の中学生に、スペースワールドはものすごい場所だった。
この敷地内が全部遊ぶ場所と思うとめまいがしそうだった。

「Sもいるし当日合流しよ?」と嬉しいことを言ってくれた他クラスの友達は、そんなこともすっかり忘れたような顔で運動部女子たちの軍勢の中にいて、とてもじゃないけど一緒に回る空気ではなかった。

いや、そんなこと気にならない。私にはスペースワールドを一緒に回る「友達」がいるのだ。
この日のために買ってもらったリュックを背負いなおし、読み返しすぎてシワシワになったしおりを握りしめ、「どこから回る?」と笑顔で二人の方へ振り返った。

そこに二人はいなかった。
早速迷ったのかと思って見渡しても、別の班の子たちがキャッキャとはしゃいでいる姿ばかり。
遠くで先生がテニス部女子に絡まれて笑ってるのが見えた。

置いて行かれたんだ、と実感がわいたのは少し後になってからだった。
悪気はなかったと思う。さしずめ初めてのテーマパークでテンションが上がって、「行こう行こう!」と手を取り合って走っていってしまったんだろう。

今の私ならいっそ好都合と好きなアトラクションを無限ループしたところだが、まだそこまでぼっちを愛していなかった私にとっては世界から音が消えたような事態だった。

どうしようもなくて、とりあえず事前に貰ったパンフレットを眺めながら休憩所のような広場へ向かった。

「どっこいしょ~!」とわざと声を出してベンチに座ってみたことを今でも覚えている。
割と元気だった自分の声を聴く限り、まだ大丈夫だと思った。
でも、「修学旅行はSちゃんとKちゃんと回るんだ」と大はしゃぎで言ったら、「よかったねえ」とカバンを買ってくれた母親の顔が浮かんでしまって、もうどうしようもなかった。

途方に暮れる、ってこんな感じなのかなぁとぼんやり考えながらパンフレットを一文字一文字丁寧に読む。このカラフルで広い敷地内を友達と相談しながら回るってどんなに楽しいだろう。
パンフを読むのもあっという間に飽きた。学校の人以外知り合いのいない、寄る辺なさの固まりみたいなこの場所にたった一人で、あと何時間こうしていればいいんだろう。

そう思っていた時、ふと隣に大きめの気配を感じた。
横を見ると、やたらアメリカンな顔をした着ぐるみが立っていた。スペースワールドのマスコットキャラクター・ラッキーラビットだった。

ディ●ニーランドで言えばミ●キー級の主役じゃないか。なんでこんな人気のないところにいるんだ。
脳の処理が追い付かず、呆けた頭でそんなことを思った。

ラッキーラビット(以下ラッキー君)はその職務上当然喋らない。でも「よう兄弟、こんなところに一人でどうした?」みたいなジェスチャーをしてきた。無言で表現できる人ってすごい。

なんて言えばいいだろう。「置いていかれて」?「はぐれちゃって」?
でも、それを言葉に出してしまうといよいよ実感が湧きそうになるので、私はなりそこなった苦笑いのような表情で「いやあ、そのう、へへ」という何も得られない返しをしてしまった。

ところがラッキー君はすごかった。
制服の中坊が一人でぼんやりしていることの意味を瞬時に把握したのだろう。「そうかそうか」と頷くモーションをしたかと思うと、私の頭をぽんぽんと撫でてくれた。
ふわふわしたでっかい手だった。

その瞬間、自分が死んじゃいそうなほど落ち込んでいたことをようやく知った。
その2ポンにめちゃめちゃ救われてしまったからだ。
だいぶ涙が出そうになったけど、さっきよりはマシな顔で「ありがとうへへへ」とお礼を言えたと思う。

その後、体感では結構長い間、ラッキー君は私とジェスチャーゲームで遊んでくれた(多分5分くらいだったと思うけど)。
やがて「あれラッキー君じゃない?」という声が聞こえ、テニス部やバレー部の女子班がひとかたまりになってやってきた。その中にはさっきの友達もいて「SとKは?」と聞かれたけど、割と平気な気持ちで「わかんない」と答えた。

そのうち「あ、いた」と言いながらSちゃんとKちゃんもやってきた。
ちょっと気まずそうだったので、やっぱり二人で遊び倒していたのかもしれない。

「どこ行ってたのー」と言うので、いやこっちのセリフだよと思えるまでに私は回復していたが、ひとまず「見失っちゃってー」と言うにとどめた。
ちょろいもので、正直、これでもう一人になることはないだろうと思うとだいぶホッとしていたからだ。

ラッキー君はそのまま流されるように人の多い中心部に行ってしまって、それから帰るまで見かけることはなかった。

もう17年も前の話だ。
キャストさんの入れ替わりなんて何回もあっただろうし、スペースワールドは数年前に閉園してしまったから、あの時私と遊んでくれたラッキー君に会うすべはもうない。

でもあの数分間、私だけの親友になってくれたスペースワールドの人気者のことを私は忘れない。
君に救われた女子中学生は、あれから老後の約束をするような親友ができたし、最近は何の因果か小さな町でマスコットキャラクターの中の人をやっています。

サンキュー。



追記:
2023年、北九州市市制60周年記念として、ラッキー&ヴィッキーをクラウドファンディングにて復活させるクラファンプロジェクトが発足。
見事達成し、各地でグリーティングに登場しているらしい。
思い出にちょっとだけ色がついて嬉しかった。


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