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そのチキンはもう子供のものになった

「久しぶりにケンタッキーが食べたい」とママが言うと、長男は「それがいい!そうしよう!」とはしゃぐ。ほとんど食べたことないくせに、一丁前に。生意気だ。

マイク越しに「6ピースとビスケットとポテト」と伝えるママ。コールスローはなにかの餌みたいで好きじゃないと却下された。色々謝れ。

6ピースを買っても(あの部位)は一つしかない。そして(あの部位)はいつだって子供が食べるものだ。家族で食べる場合、大人はそれを最年少者に譲らねばならない。
Adult must give (THE chicken) for child. 



あれは小学校中学年ごろかな。家の近所にケンタッキーができた。もう30年以上も前の話。当時は電車に乗っていく都会にしかなかったのに、それが自宅から歩いて行けるところにできたことで地域でも学校でもかなり話題になった。すごく並ばないと買えない。こんな美味しい鶏肉があるんだと知った。この白いおひげのおじいさん、すごいなと思った。

家族で食べるんだから6ピース。帰路では、ああ6個も(あの部位)が入ってるのかと思うとドキドキが止まらなかった。

でも開けてびっくり。(あの部位)は1つしかなく、残りの5個は別の部位なのだ。え!ケンタッキーって逆に(あの部位)以外あるの!?

母親を責めた。「なぜお店のお姉さんに(あの部位)だけを6個で、と指定しなかったのか」と。

「そんなん知らんわ」と一蹴されたが、僕のお皿には当然のように(あの部位)が置かれていた。それは僕が子供であり、しかも末っ子だからだ。

一番美味しく、食べやすい(あの部位)は、そういう立場の子にのみに与えられる。真ん中を貫く一本の太い骨だけで構成され、赤身でジューシー。食べやすさの極み。これぞまさにTHE ケンタッキー。

末っ子のみが口にすることができる(あの部位)のチキン。3兄弟の真ん中、もちろん長男長女は一生口にできない。2個ほど入っている油分の少ない胸肉部位は、末っ子以外の人間が、水分の多いコールスローと一緒に食べるもの。
そう(教えられたわけではないが)勝手に解釈して生きてきた。



厳しいしつけ。親に敬語を使わせる。鉄拳制裁も当たり前。甘口のカレーなんて作らない。ケンタッキーの(あの部位)は大黒柱の父である私のもの。

親が食べる(あの部位)を羨ましそうに見ながら、「大人になったら(あの部位)食べたい」と子供達が思う。それも立派なしつけだ。

そういう親になろうと決めていた。

でも実際はどうだ。


「ふくちゃん、これ一番美味しいところだから食べてね。1本しかないやつ。食べやすいし、持つとこにティッシュ巻いてあげる」


とか言って、今日も胸肉をコールスローなしで食べるのだ。

ああなんてダメな父親になってしまったんだろう。。


息子かわいー!

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