「ケーキを切れない非行少年たち 宮口幸治」を読んでのエッセイ

今から40年前、私は大学卒業後に、地元に戻ることにした。それを知った実家の近所に住む方から、学習塾開設の依頼を受けた。その時から、35年の間、小中学生に教える機会をもらった。
ある年の秋、中1の女子2人がやってきた。
「数学が全くわかりません」
「全く?」
「はい、全く」
「何年生の時に、勉強をするのをやめたの?」
「小2かなぁ。」
「小2?(まじかぁ)」
「そうです」
「九九は大丈夫?」
「九九はできます」
「それはよかったぁ」
私には、以前、中学生に九九から教えた経験があったのだ。

それから週一回2時間。
小2の掛け算の応用からやり直した。
2人とも、本当に頑張ってくれた。
できるところから始めたからか、どんどんわかるようになるのが面白かったようだ。
中2の終わりには、なんと追いついたのだ。追いついたどころか、勉強がしたいと思うようになっていた。
志望高校を目指し、5教科の勉強をしたいという2人には、進学塾へ移ってもらった。
一年後、2人は見事に志望校合格を勝ち取っただけでなく、その3年後には、1人は銀行に、1人は事務職に就職を決め、嬉しい報告に来てくれた。

長い間、様々な子供たちを見させてもらった。
週一回1時間でも、きちんとわかるまで教えて貰えば、確実に伸びる。
「できない」子供達の多くは、わかるまで教えてもらうチャンスがなかっただけだ。

街の小さな「算数教室」は、子供達の「できる」がいっぱいに詰まった場所だった。
算数には、たくさんの問題がある。それら一問一問が成功体験の積み重ねになる。
答えを教えず、何度も何度も、自分で解けるまでやる。
「やればできる!」
というこの時の体験を、大人になった今も、忘れずにいてくれるに違いない。
答えは一つでも、考え方は無数にある。
「自分が、考えやすい方法でいいんだよ」
ゴールに達する道はいくつもあり、自分にぴったりな道は必ずみつかる。どの道を辿っても、認めてあげられる大人でいよう。

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