WWDC2020のDTMに与える影響を考える[2]

おはようございます。

さて、昨日は表題考察するにあたり「アップルとは過去を決して振り返らない企業である」ことを説明しました。

それを踏まえ、WWDC2020発表内容の影響を考察します。

■ARMアーキテクチャ/Apple silicon チップ(Aチップ)搭載のMacへの移行を発表

■macOS Big Sur 発表 OSナンバーは11.0へ

満を持して発表となりましたね。ついにアップルがインテルチップから独自開発のAチップ移行となります。これによりiOS、iPadOSとの垣根がなくなると言われています。そして、新OSはついにOS Xシリーズから進化し、ナンバーが11台に突入します。

しかしながら、Aチップ移行の、特にDTM環境に与える影響が非常に気になります。現行のIntelMacからAチップMacへは2年での移行を予定しているとアップルは発表しています。

過去PowerPCからIntelへの移行に実質5年かかった経緯から考えると非常に短いスパンだと言えます。前回、Intelへの移行にうまく切り替えられずアップルを見限りWindowsのみの開発に切り替えたベンダーがかなりいたことを考えると、今回のAチップ移行にても同様のことが大きく起こりそうです。

ただし、PowerPCからIntelへの移行時2005年頃というのはWindowsのシェアが非常に大きかった時代で、アップルを見限らせるにそれほど大きな危機を感じさせなかったことも事実です。その当時のDTM勢力図ではDAWのStudio Vision、Digital Performerの2大老舗DAWがCubase、Logicに完全に追い抜かれる引き金ともなりました。ベースアーキテクチャの変更によるベンダーへの影響は当然考えられますが、今回のAチップ移行に関しては、PowerPCからIntelへの移行ほどの影響はないと見ています。

その根拠はベンダーへの移行サポート環境が非常に充実していること。

・Universal2を内包したXcode12

・Rosetta2

と、それまでのIntelコードからArmコード(Aチップ用)への移行をスムーズにさせる環境を十分に整えています。基調講演ではMicrosoftとAdobeのUniversal2でのデモ動作が行われてました。MicrosoftとAdobeがArm版(Aチップ)macOS対応アプリを作り動かしているということは、主要なアプリの対応はこの発表の段階で済んでいると言えます。このことは、ユーザーから見てAチップMacへの移行は大きく見れば現状でほぼ問題がないと言えることを示唆しています。

では、DTM環境はどうなのか?ヒントは基調講演でのMAYAのデモ動作にありそうです。Universal2での開発が追いつかない古いソフトの救済措置としてRosetta2があります。これはバイナリトランスレーションで、Intel向けのアプリをArm向けにリアルタイムに変換しながら動作させる仕組みです。しかし、変換にCPUの性能を消費してしまうため、ネイティブアプリに比べて性能は低下します。実際、前回のPowerPCからIntelへの移行時に搭載されたRosattaでの動作は、ネイティブ環境と比べて50%ほどの体感パフォーマンスしかえられませんでした。さらにDTM環境にては、特にプラグイン系はRosettaが効かなく実質使い物にならないことが非常に多かったです。

しかしながら、今回の基調講演にてMAYAのRosetta2を通したデモでは非常にキビキビとした動作を見せていました。巨大3DソフトのMAYAであれだけ軽快な動作ができるというのであれば、CPUリソースがそれほど必要ないDAW系ソフトでの動作は相当期待できそうです。さらに、組み込まれている一連のプラグイン動作も、デモにMAYAを選んだことから相当に期待ができると思います。

■DTM環境への影響

問題があるとすればDTM系ソフトの特色として、CPUリソースの消費形態が画像/動画処理系ソフトと違うことが挙げられるでしょう。MAYAも含めて、画像/動画処理系ソフトはここぞという時にドカンとCPUパワーが必要となる「瞬間パワー」が重要になりますが、一方DTM系は物理モデル音源、そのプラグイン、音声処理、などの情報処理を常に必要とする「ダラダラ型」です。CPUリソースを動画系ほど利用しないとは言え、レイテンシーが命とも言えるDTM系の動きがRosetta2でどれほど足かせになるかは実際に動かしてみないとわからないところですね。

他には、iOS、iPadOSでのオーディオ規格で、それまでのiOS系でのInter-app Audioが廃止になり、AudioUnitに統合されました。逆に言えばこれでiOS/iPadOS/macOSの全環境オーディオ処理がAudioUnitに統一されたと言えます。これがVSTベースのベンダーに与える影響がどうなるのかが今のところ情報がありません。特に、今回の変更にてアップルから離れることを表明しているベンダーもいることをみると、Armネイティブ開発を続行するベンダーは、その規模、体力で少なくなるのかもしれません。そういった、今後レガシーとなる可能性のツールがどれほどRosetta2環境にて動作するかも正直今のところわかりません。

これも、MicrosoftやAdobeなどがその対応を早めて完了している事実を鑑みると、DTM環境において、特にサードパーティ製プラグインにおいては、そのベンダー規模によって今後残るか消えゆくかが決まりそうです。大量にサードパーティを積んで動かしている人にとっては、「今」の状態で動く環境を持続させておこうとするかもしれません。しかし、それほどサードパーティに依存していない環境の人、特にLogicユーザーならば、今回の変更はiOS/iPadOSとmacOSが非常にシームレスな環境になることが確実なので、その恩恵を大きく受けることが容易に想像できます。

よって、今後新しいAチップ搭載Macが出たらすぐに飛びつくのがいいか、それとも、今後あと少し出るであろうIntelMacの最新機種にて現環境の延命を図るのがいいかは、サードパーティ等のベンダー規模とその生き残りの未来をどう予測するかで選択が変わることとなるでしょう。

ちなみに、私は、Aチップ搭載Macの発売アナウンスがあれば即時購入いたします。



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