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アフィリエイト広告の責任は誰が負うか(消費者庁の改正指針等)

令和4年6月、消費者庁は「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」と「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」の改正版を公表しました(以下「管理措置指針」、「インターネット留意事項」と表記します)。

これらの改正は、2021年6月から行われていた「アフィリエイト広告に関する検討会」の報告書の提言を受けたもので、消費者庁のアフィリエイト広告に関する考え方を示す、実務上重要なものです。

さて、今回の改正の報道においては「アフィリエイト広告について、広告主が責任を負うことが明記された」との記載を多く見かけますが、景品表示法上の表示主体(表示をしたとされる者)については、いくつか気になる記載もございます。

そこで、今日は、アフィリエイト広告における表示主体について、管理措置指針等の記載を整理して考えてみたいと思います。

なお、今回の改正については、講じるべき措置の内容や、その例の追記も非常に重要ですが、この点は本稿では割愛いたします。
また、本稿ではアフィリエイト広告の詳細なご説明も割愛いたしますが、消費者庁が一例として、以下のようなビジネスモデルを挙げていますので、ご参考までに掲載いたします。

「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」図4 アフィリエイトのビジネスモデル(ASPが仲介する場合の例)

1.表示主体の原則:広告主

(1)指針等の記載

まず、改正後のインターネット留意事項には、以下のような記載があります。

アフィリエイトプログラムを利用した広告についても、広告主がその表示内容の決定に関与(注6)している場合アフィリエイターに表示内容の決定を委ねている場合を含む。には、景品表示法上は、広告主が行った表示とされる。
アフィリエイターはアフィリエイトプログラムの対象となる商品・サービスを自ら供給する者ではないので、景品表示法で定義される「表示」…を行う者には該当せず、したがって、景品表示法上の問題が生じることはない…。

「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」
4(2)

(注6)景品表示法上の表示主体(表示をしたとされる者)については、裁判例(東京高判平成20 年5月23 日(平成19 年(行ケ)第5号))において、以下のように示されている。
「表示内容の決定に関与した事業者」が法4条1項の「事業者」(不当表示を行った者)に当たるものと解すべきであり、そして、「表示内容の決定に関与した事業者」とは、「自ら若しくは他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した事業者」のみならず、「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」や「他の事業者にその決定を委ねた事業者」も含まれるものと解するのが相当である。
そして、上記の「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」とは、他の事業者が決定したあるいは決定する表示内容についてその事業者から説明を受けてこれを了承しその表示を自己の表示とすることを了承した事業者をいい、また、上記の「他の事業者にその決定を委ねた事業者」とは、自己が表示内容を決定することができるにもかかわらず他の事業
者に表示内容の決定を任せた事業者をいう
ものと解せられる。
※上記の裁判例の「法4条1項」は、現行の景品表示法の第5条に該当する。

「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」
4(2)注6

(2)若干の検討

これらの記載の論理は、比較的明快です。

すなわち、裁判例上、景品表示法上の表示主体は「表示内容の決定に関与した事業者」であり、この「表示内容の決定に関与した事業者」には、以下の三者が含まれるとされています。
 ①自ら若しくは他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した事業者
 ②他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者
 ③他の事業者にその決定を委ねた事業者

そして、③の「他の事業者にその決定を委ねた事業者」は、自己が表示内容を決定することができるにもかかわらず、他の事業者に表示内容の決定を任せた事業者をいうとされています。

これを、アフィリエイト広告に当てはめてみますと、広告主が、自ら決定できる表示内容についてアフィリエイターに決定を任せている場合、③に該当し、表示主体になります。
一般に、アフィリエイト広告において、表示内容を広告主が決定することはほぼなく、アフィリエイターに委ねることが多いでしょう。
そのため、多くの場合で、表示主体は広告主になります。

上記整理は「アフィリエイト広告に関する検討会」の当初から消費者庁が示していたものであり、裁判例に当てはめれば自然な結論でもあります。
ここまでは明快であり、アフィリエイト広告に関わる方は、まずは、この点を抑えることが重要と考えます。

2.表示主体の例外:アフィリエイター(?)

(1)指針等の記載

ここから、やや難解な記載の検討に入ることになります。
まず、管理措置指針には、以下のような追記がされています。

(注5)…また、アフィリエイターの表示であっても広告主とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にあるものについては、通常、広告主が表示内容の決定に関与したとされることはないと考えられる。

「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」
(注5)第二文

(2)若干の検討

この管理措置指針の(注5)第二文は、読み方が難しい一文です。

「1.」の裁判例に当てはめて考えてみますと、例えば「広告主とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていない」場合、広告主は、「他の事業者にその決定を委ねた事業者」には該当しないという読み方になります。
しかしながら「やり取りが一切行われていない」場合と、「委ねた」場合の違いは、この記載からは読み取りにくいところです。

この点、管理措置指針とインターネット留意事項は、パブリックコメント制度により、一般の意見とそれに対する消費者庁の考え方が示されています。
当然、この点にも質問があり、上記の一文と、「「アフィリエイターに作成を委ねた表示」の違いが読み取れない」との意見も出されています。

しかしながら、これに対する消費者庁の回答は、判然としません。

「アフィリエイターの表示であっても、広告主とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にあるもの」とは、「広告主が表示内容の決定に関与した」とはされない場合を例示したものです。いずれにせよ、アフィリエイターの表示が広告主の表示とされるか否かは、個別の取引実態に応じて判断されることとなります。

「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」の一部改正案に関する主な御意見及び当該御意見に対する考え方 15頁

ただ、少なくとも、消費者庁は、アフィリエイト広告において、広告主が、表示主体とならない場合を想定していることは明確です。
そこで、管理措置指針等とパブコメから、表示主体の区別に役立つと思われる記載を整理してみます(消費者庁は、あくまで一般論として回答している点にご留意ください)。

表(筆者作成)

(3)ポイントの整理

これらの記載を見ても「やり取りが一切行われていない」場合と「委ねた」場合の関係を明確に整理することはやや難しいように思われます。
しかしながら、現時点で、以下の点はポイントとして挙げられると考えます。

  • 広告主がアフィリエイターに感想を投稿してもらう場合

まず、パブコメには「一般論としては、商品又は役務を供給する事業者が表示内容の決定に関与していない限り、一般消費者である購入者が事業者の供給する商品・サービスについてSNS等に感想を記載する場合、当該購入者が記載した感想そのものが当該事業者の行う表示とされることはない」との回答があります(管理措置指針パブコメ10頁)。

上記回答からしますと、感想を投稿させるタイプのアフィリエイト広告について、広告主は表示主体とならないようにも思われます。

ただ、別の箇所には「御指摘の「自社製品の経験、感想の記載を委託している場合(アフィリエイターによる生配信等を含む)」において、それらの記載が優良誤認等の不当表示に該当する場合…当該事業者[筆者注:広告主]が不当表示を行ったとされることになります」(管理措置指針パブコメ11頁)との回答もあります。

一見矛盾した記載とも読めますが、前述の裁判例の基準に照らしますと、基本的には、アフィリエイターに感想の投稿を委託した場合は、「他の事業者にその決定を委ねた事業者」に該当すると考えられ、広告主が表示主体になることが多いと思われます。
※ 1つ目の回答の趣旨は不明ですが、「表示内容の決定に関与していない限り」という広範な留保が付されており、広告主の委託なく、消費者がハッシュタグ付きで感想を投稿するようなケースを想定しているものと思われます。

  • 広告主が表示に関する情報のやり取りを行わない場合

前述のとおり、管理措置指針によれば「広告主とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にあるもの」は、広告主が表示主体になりません(管理措置指針(注5))。

これを読みますと、「広告内容に口を出さなければ、広告主は表示主体にならない」とも思えますが、そうではありません。
パブコメにおいて、「広告主が「アフィリエイターやアフィリエイトプロバイダに表示内容を丸投げ」した場合」は、広告主が表示主体であるとの考えが示されているためです(管理措置指針パブコメ16頁)。

これらの記載は2つの点で難解です。
第一に、前述のとおり、管理措置指針のいう「表示に係る情報のやり取りが一切行われていない」場合に、裁判例のいう「他の事業者にその決定を委ねた事業者」(表示主体)に該当しない理由が明らかではありません。
第二に、「丸投げ」の場合が「表示に係る情報のやり取りが一切行われていない」に該当しない理由も明らかではありません。

この点は、現状は基準が明確とは言い難く、今後の事例の蓄積や消費者庁の発信が待たれるところです。
私見としては、裁判例からしますと、基本的には、広告主が責任を負うべき結論となること、「3.」で後述する問題から、広告主の広告と認められないような場合は限定的に解される可能性が高いように思われ、その前提で対応を検討すべきと考えています。

3.残された問題

残された問題として「仮に広告主が表示主体ではなかった場合に、誰が景品表示法上の責任を負うのか」という点があります。
言い換えますと、不当表示があった場合に、景品表示法上の措置命令・課徴金納付命令等のペナルティを誰が負うのか、ということです。

「当然、アフィリエイターだろう」と考えたいところですが、景品表示法は「事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない」と定めています(法第5条第1項柱書)。

そのため、インターネット留意事項4(2)に記載されているとおり、「アフィリエイターはアフィリエイトプログラムの対象となる商品・サービスを自ら供給する者ではないので、景品表示法で定義される「表示」…を行う者には該当せず、したがって、景品表示法上の問題が生じることはない」と考えられます。

そうしますと、広告主が表示主体ではない場合、例外的な場合を除き、表示主体は「いない」という結論になるように思われます(アフィリエイターが物理的な表示主体だが、景品表示法上の責任は負わない)。

この結論から考えますと、「広告主が表示主体ではない」と認定される場合は、かなり限定的になるのではないか、とも想像されるところです。

4.終わりに

以上、今回の指針等の改正内容のうち、表示主体に関する記載やパブコメで示された消費者庁の考えを概観いたしました。
記載の解釈が難しい箇所もあり、今後の事例や消費者庁からの発信も注視する必要があるところです。

前述のとおり、今回の改正については、講じるべき措置の内容や、その例の追記も非常に重要ですが、その前提として、表示主体に関する理解のお役に立てば幸いです。

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