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2019年の働き方本20冊 TOKYO WORK DESIGN WEEKにて

2019年11月18日から24日まで渋谷ヒカリエにて開催されたTOKYO WORK DESIGN WEEK 2019 にて2019年に出版された本の中から、今年のイチオシ働き方本を選び展示しました。合計20冊選び、それぞれにコメントも書いたので会期終了とともにこちらに転載します。是非ご覧下さい。


サードドア/アレックス・バナヤン/東洋経済新報社

何かを始めたいときや、何かを実現したいとき、一つの手段に固執してしまうことはないだろうか。本書は全くのコネクションゼロからビル・ゲイツにインタビューをしようと思いたった一人の学生が、数々の出会いと失敗を重ねながらも「サードドア」をこじ開け、それを実現していくノンフィクション。読み物として面白く、達成したいビジョンがあるならば、あとは意思の問題なのかもしれないと思わされる。意思があるならばいくらでも手段など探せるのだ。


自分で「始めた」女たち/グレース・ポニー/海と月社

本書では様々な出自や職種を持つ、100人以上の「自分で始めた」女性のインタビューが納められている。好きなことを仕事にするということには苦労はつきものらしく、役に立つキャリアや仕事のアドバイスだけでなく、仕事の立ち上げ期の苦労話や、仕事で犠牲したものといった話題も赤裸々に綴られる。苦労こそあれ、前向きで生き生きとしたその姿からは働くことの楽しさが滲み出ている。


文化人類学の思考法/松村圭一郎、中川理、石井美保・編/世界思想社世界思想社

私たちを取り巻いている文化や環境といった、いわば当たり前に享受しているものが、他者から見たら当たり前のものではない、ということは往々にあり得る。グローバル化が進み、情報が溢れ、多様な働き方が実現されつつある現代において、他者への想像力が必要になることは言うまでもない。文化人類学は他者と自己の「当たり前」を解きほぐすものであり、本書はその思考法を学ぶための道具箱だ。


ニュータイプの時代/山口周/ダイヤモンド社

社会が変われば、当然ながら求められる能力も資質も変わってくる。本書では社会のVUCA化や正解のコモディティ化など、世界のトレンド分析を下敷きに、これからの社会に求められる人材「ニュータイプ」の要件を既存の価値観「オールドタイプ」と比較しながら解説。巧みな分析から提唱される
「ニュータイプ」という造語は、納得感と共に意外と好意的に受け止められる。これからが面白い時代になるのではないかと思わされる。


岩田さん 岩田聡はこんなことをはなしていた/ほぼ日刊イトイ新聞/株式会社ほぼ日

日刊イトイ新聞に掲載された、任天堂の元社長・岩田さんのことばを再構成したもので、彼の仕事論、経営論、リーダシップ論、ゲーム論が詰まった一冊。高校から任天堂の社長に就任するまでの半生の話は、ゲーム黎明期に第一線で活躍してきた一個人の体験談として貴重で興味深く読める。優しく語りかけるような岩田さんのことばには、誰もが共感できるところ、背筋を伸ばされるところがあるはず。

ついやってしまう体験のつくり方/玉城真一郎/ダイヤモンド社

「人を動かす」ことの困難さは誰もが仕事で直面する永遠不変のテーマだが、そのヒントは「ゲーム」にあるのかもしれない。本書は元任天堂の企画開発者の著者がマリオやドラクエなどゲームデザインを題材に人間の動かし方を解きほぐした一冊。グラフィカルにデザインされた本書の構成は見事に考え抜かれて作られており、タイトルを体現しているが如く、まるでゲームをに熱中するように「つい」楽しく学びながら読み進めてしまう。


純粋化機械経済/井上智洋/日本経済新聞出版

テクノロジーの進歩は、常に私たちの社会や生活を変えてきた。有史以来、新石器、工業化の次の大分岐、「AI時代の大分岐」がこれから起こるとし、人工知能が私たちの社会に何をもたらすのかを人工知能と雇用、不要階級とベーシックインカムといった今注目の議論も盛り込みながら、歴史的観点、経済学的観点から論じた一冊。人工知能などテクノロジーのトレンドを学ぶこともでき、骨太な本ながらこれからの働き方を考えるには必読。


AI時代の労働の哲学/稲葉振一郎/講談社

機械が人間の仕事を奪うのではないかという恐怖は、産業革命期に広がり機械破壊運動・ラッダイト運動を引き起こした。昨今の人工知能の発展も同様に「人間から仕事を奪うか」という議論を巻き起こしている。テクノロジーの発展はいつだって人間の仕事を変えてきたが、本書ではそんなAIの時代において、労働とは何か、資本主義とは何か、機械が雇用や労働にどう影響していくのかを考えることができる。


管理ゼロで成果はあがる/倉貫義人/技術評論社

「マネジメント」と聞いた時に、ピラミッド型の上位下達の階層組織が一番に思いつく人は多いのではないだろうか。一方本書では「管理をなくすことが究極のマネジメント」と言い切る。それは逆説的に聞こえるようだが、読み進めていくとその独自のメソッドが高い成果を生み出すことが想像できるようになる。「管理」されることは創造性のブレーキになるかもしれず、自律性と自由な働き方が良い結果を生み出すのだ。


スタンフォード式人生デザイン講座/ビル・バーネット、デイヴ・エヴァンス/早川書房

人生とは中々予測できるものではない。仕事も同様で、様々な要因から行き詰まることもある。本書は問題解決の手法でお馴染みの「デザイン思考」を「ライフデザイン」と称して、その対象をプロダクトではなく、個人の人生に応用している。ライフデザインは、予め予測して備えるといった逆算思考ではなく、視点を変え、アイデアを出し、プロトタイプを作りながら考えていくものだ。人生とは、即応的に自らデザインしていくものなのだ。


ハーバードの個性学入門/トッド・ローズ/早川書房

平均に基づいて人々を評価する平均主義は19世紀に二人の科学者によって発明され、テイラーに引き継がれると興隆を極めた。個性を重視せず労働者を交換可能な「平均人」とみなし、生産作業の効率化を図るテイラー主義は工場のみならず、教育などあらゆる分野で応用され、現代でも尚人々に強い影響を与えている。しかし、創造性が重視される現代にあっては平均主義は時代遅れではないか。平均思考を脱却するために必読の書だ。


プロティアン/田中研之輔/日経BP社

かつてキャリアとは多くの人にとって、「一つの組織で昇進するための尺度」だったらしいが、職業人生よりも企業の平均寿命の方が短いであろう現代にあっては信じがたいことだ。本書では、社会の環境の変化に応じて柔軟に変わることのできる変幻自在なキャリアを「プロティアン・キャリア」とし、その必要性と実践方法を説いている。キャリアは組織に預けるものではなく、自ら選び取っていくものだ。


未来を生きるスキル/鈴木謙介/KADOKAWA

本書は社会学者の著者が社会の変化を解説しながらどのように未来に向かえばいいかを指し示すこれからの希望の話。扱うテーマは多岐に渡っているが、その中でも一番強調しているのが「協働」の可能性だろう。「特別な誰か」ではなく「ふつうの人」を含めた多様な人々が異なる価値観や能力を持ち寄って協働することが、新しいことを生み出すのではないかとしている。「協働」とは、これからの未来を生きるための働き方であり、生き方なのだ。


他者と働く/宇多川元一/NewsPicksパブリッシング

転職が当たり前になり、復業が推奨され、組織外の人々とも協働する機会も多くなってきた現代において、ますます「他者と働く」というテーマは重要になってきた。「同じ釜の飯を食う」訳にはいかず、ハイコンテクストな文化は軋轢を生みかねない。本書では、相手の置かれている枠組みを「ナラティヴ」と呼び、「対話」によって彼我のナラティヴの橋を架けることで様々な課題が解決できると説く。現代人必須のメソッドではないだろうか。


問い続ける力/石川善樹/ちくま書房

冒頭の「では派」と「とは派」を巡る話が、とても面白いので、まずはそこから立ち読みして欲しい。本書は、「とは派」に憧れた予防医学者の石川善樹さんが、様々な分野で活躍されている「達人」訪ねた対談と問いをめぐる論考で構成されている。巻末には小さな問いをつくり、習慣化させる仕組みと方法論も収録。良い問いを立てることができれば考えを深められる。新しいモノゴトを生み出せる人は、問いを続けることができる人ではないか。


なぜオフィスでラブなのか/西口想/堀之内出版

本書は、11の小説を手掛かりに、公私混同(オフィスラブ)の過去と未来を読み解くなんともユニークな一冊だ。労働団体職員という著者の出自も関係しているのだが、キャッチーなタイトルとは裏腹に、オフィスでの恋愛模様を描くだけではなく、女性の雇用や労働の問題といった話題にも切り込んでいく。オフィスラブを題材にした、男女の働き方の歴史を読み解く働き方本でもあり、大変面白く、興味深くスラスラと読めてしまう。


イノベーターズⅠ・Ⅱ/ウォルター・アイザックソン/講談社

本書はコンピューターの発展史であり、それを支えたイノベーター達の物語だ。偉大な発明は全て一人の天才が創造した訳ではなく、実に多くの人間が関わっていたことがわかる。それは、多種多様な人々が国境や世代を越え、アイデアを参照し、研究を引継ぎ、技術を発展させていく、コラボレーションによる創造だ。「イノベーションの根幹はチームワークにある」というのが本書のコアメッセージであり、現代的なテーマだと言える。


WiRED Vol.32 DIGITAL WELL-BEING/WIRED編集部/コンデナスト・ジャパン

良い仕事をするには、個人の力や創造せが十分に発揮される必要がある。そこで注目なのが「ウェルビーイング」というキーワードだ。定義するのが難しいが、ウェルビーイングとは簡単に言うと「よく生きている」状態であるらしい。心身ともに良い状態にある事が、良い仕事の結果に繋がるだろう。WIREDvol.32では、ウェルビーイングの意味を問い、その可能性を提示している。日本にはウェルビーイングが必要だ。


自己紹介2.0/横石崇/KADOKAWA

自己紹介とはなぜするのかとか、どういう意味があるのかといった本質的な事は、本書を読むまで意外と考えてこなかった。著者の横石崇さんは自己紹介を自分と相手の信頼を創造する場としており、とても感心させられた。TOKYO WORK DESIGN WEEK主宰の横石さんらしく、働き方の潮流と変化が自己紹介論と織り交ぜられており、それ故に単なる自己紹介ハウツー本に終わらず、横石さんの仕事論になっていて。とても興味深く読める。

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