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【書評】「担当になったら知っておきたいプロジェクトマネジメント」伊藤大輔

システム開発プロジェクトのチームマネジメントを担当している立場で、我が身を振り返るのに大変良い書籍だった。
IT業界で10年以上勤務し、SI案件に2年ほど従事しているが、プロマネ、PMOの立場の人々の動き方がこの書籍によって明確に評価できるようになる。そして表題の通り何らかのプロジェクトに所属している以上は一読していることで共通の理解を得られるため、本書に限らずプロジェクトマネジメントに関する知識はどういった参画形態であれ必要であると改めて感じた。

プロジェクトの基本理解

プロジェクトとは何であるかという定義について、冒頭で明確な買いがある。それは、未来不確定性を持った行いを指すということだ。
業務に勤しむあまり忘れてしまいがちだが、プロジェクト計画は誰も知らない未来に向けて放つものだ。工数見積もりは工程前半後半で発生するインシデントや仕様変更で変わる事を、前提とは言わずとも、変更に対応可能な準備をすることがプロジェクトマネージャの仕事だ。

多くの場合はこの点が誤解されているように思われる。プロジェクトは予算が計画されるが、予算を超える仕様変更に対しての免疫が多くの場合少ないように感じるからだ。これは実体験からの経験則であり、予算を超えるとマネージャが責められるわけだが、マネージャは未来予知者ではない。例えばITシステム開発のプロジェクトの費用見積もりに、冬にインフルエンザによるパンデミックが発生することを予期した計画を行っているプロジェクトがいくつあるだろうか。毎年当たり前のように疾患するこの事象を当たり前にリスクとして計画の一部に取り入れなければならないが、説明上見積もり根拠項目として明記できないという感覚がほとんど一般的なのではないだろうか。※本書には例として提示されている。

プロジェクト計画と仕事感覚

計画には最もページが割かれており、本書に従って精緻なマネジメントが出来るチームは大きな問題は起きないだろうし、あらゆる試練を乗り越えられるだろうというのが率直な感想だ。

もう一つはまずこの書籍の内容に従って計画され、プロジェクトマネジメントが成されているプロジェクトがかなりの割合で少ないだろうという感想で、理由はプロジェクトマネジメントチームの工数は計り知れないからだ。ことIT業界は生産性のない業務に対する理解が厳しい風潮にあるように伺え、エンジニアリングから離れた職種ほど嫌われる傾向にあると思っている。マネージャがプログラムのひとつも書いて貢献すればよいのだが、それはそれで本来の仕事ではなく調整事項に重点を置いてほしいという周囲の声もあるだろうから板挟みに合うだろう。これは私が10人程度のチームを見るような立場となって分かったことだが、プロジェクトは日々新たな調整事項を生み続ける。定常業務に終始することはあり得ない。常に変化し続ける未来しかないため、誤解を恐れず言えば日々トラブル対応に応じているといった感覚でも大きくズレてはいないのではないかと思っている。つまり応用問題の即回答が頻繁に求められる難易度に身を置くことになるため、プロジェクトマネジメント自体の工数を事前に正確に掴むことはおそらくほぼ不可能だ。

これは、本書冒頭で語られる未来不確定性を有するというプロジェクトの定義自体に当てはまり、この問題を制御する手法がリスク管理である。リスク管理についても本書は丁寧に解説されている。

ただしここでもう一つ大きな要因として、プロジェクトに対するプロジェクトメンバーの理解が得られているかどうかという点が挙げられる。まずはプロジェクトとは定常業務ではなく、新しいシステムを生むための活動であるということ。日々マネージャは新たな問題と渡り合い、予定の作業は条件が変わる可能性が高まり、条件が変わることで前工程の成果物にも影響が生じる。これをプロジェクトメンバーが理解していない場合に、マネージャとの衝突が発生する。

なぜ、予定通りではないのか、作成した手順をなぜ変えなければならないのか、ドキュメントの修正が多いのはなぜか、仕様が決まり切らないのはなぜか。

全て説明することはできるだろうし、マネージャには説明責任がある。説明なしには人は動かないからだ。ただし、メンバーには自身の動機づけのためにプロジェクト自体への理解が必要だ。あなたは自転車や自動車、電車や飛行機といったある程度の仕組みや信頼性が理解できる乗り物に乗るだろうが、一切合切どういった仕組みで動くか分からない謎の乗り物に乗りたいだろうか?それが生計を立てるための生業であったとしたら、どこまで慎重に理解を得たいだろうか。

プロジェクトは誰も知らない未来を創造する活動だ。但し、プロジェクトという活動は人が作ったものである。発足の背景を読み、利害関係を理解し、未来に貢献することが、プロジェクトへ参画する者の意義である。

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