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ちょうど2年前に感じたジュニアの課題。【ジュニサカ特集/2018年4月】

まだ"認知"という言葉すら日本サッカーであまり知られていない状態だった。

2年前は、ヨーロッパサッカーも"情報"という意味でようやく国境がなくなりつつあり、各国で体系的に構造化された理論が自由に行き交い始めていた。一方、日本ではそういう流れを察知していたのも一部だけに限られていた。たとえば、footballistaがWEBに力を入れ始めていて、ポジショナルプレーや5レーン理論などの用語を拡散し、少しずつ国内に「戦術的なサッカーの解釈が重要である」ことを感じている人が増えつつあった。

そういう流れを読み、2018年の年明けから「ジュニアサッカーを応援しよう!」のWEB編集長に「毎月1テーマを掘り下げる特集をしましょう」と企画書を用意して口説き、実現したのが4月からだった。

もちろん、第一回目のテーマは「ジュニア年代の課題」。

これ以外にスタートを切るテーマを、私は思いつかなかった。なぜならこれはWEBでしか実現できない「ネガティブなテーマ」だったからだ。今でこそJFAと関係を持ったメディア媒体も、批判的な記事を発信するようになったが、その頃は"ご法度"の雰囲気が漂っていた。

当時、私は「サッカー界全体がより良く成長するためには、真っ当な批判が必要だ」と、ジュニアでもネガティブな記事も書き始めていた。

だから、「ジュニアサッカーにはこういうテーマが絶対に必要だ」と熱心に説得し、WEB編集長も一緒になって戦ってくれることを覚悟してくれた。今も本当に感謝している。それは少なからずジュニアサッカーの進歩に貢献した思いを持っているからだ。

その編集長の思いに報いるためにも、一発目の記事が大事だった。

それで考えたのが、ジュニアを取材し始めてから長年思い続けていた「中盤を活用できないゲームの組み立て」を、ある程度の戦術的な観点を持たせた上で警鐘原稿を綴ることだった。当時は「ジュニアで戦術を語ると蕁麻疹を起こす」コーチが多かったため、あえて触れないようにしていたが、私の中ではこのタイミングで解禁した。

実は、この課題は全体大会に出場するようなクラブはかなり解消している。当然、レベルが下がるほどその課題を抱えているクラブはまだ多いが、日本サッカー全体が「戦術的」な見方をできる人が増え、ジュニアのコーチたちも進歩したので、私はここ10年くらいで随分と解消されると思っている。

ただ、この年から開催された「U-15 キリンレモンカップ」でレアル・マドリードを取材すると、日本とはかなりの差があった。やはりジュニアからの積み上げ方に大きな差があり、そのことは決勝で敗れた現湘南ベルマーレで監督を務める浮嶋敏さんも語っていた。

特に私が感じたのは、フィジカルコンタクトという意味でも練習からゲームに近い状況を作り、すべての面でインテンシティを高くトレーニングすることの重要性だった。それは監督も同じ意見だった。

また第三弾で伝えたかったのは、ザックリいうと「選択肢を作る側がサッカーでは重要だよ」ということだった。

これは現在もジュニアが抱える大きな課題だが、コーチも「ボール保持者絶対主義」的な価値観を持っている人が多く、ボールを中心にサッカーを見がち、分析しがちだった。

ただ、サッカーにおいて試合に勝てない多くの原因はボール周辺で起こる半径5m内の選手の不備もあるが、それ以外の選手たちの立ち位置だったり、予測した対応だったりにさまざまな原因が潜んでいる。

その事例の一つとして、第三弾はジュニアのコーチたちにも認識しやすいポイントを自分なりに探って原稿を書いたことを覚えている。

そして、その流れで「サッカーがチームスポーツである」ことをジュニアサッカーのコーチたちに認識してもらうために、第三弾は"攻撃"に焦点を当てたので、第四弾は"守備"をテーマにジュニアの課題を語った。

ちょうど「ダノンネーションズカップ」で兵庫の西宮サッカースクールがチーム全体で見事な守備を披露していたので、彼らのプレーを事例に"切り替え"の早さの必要性とファーストディフェンダーとカバーについて記事を起こした。

今振り返っても、日本のジュニアは進歩していることもあるし、そうでないこともある。ただジュニアを本格的に取材し始めて7年以上が経つが、2019年度は「前進したな」と感じることがたくさんあった。それはひとえにジュニアのコーチたちの努力の賜物だ。

そのこともあったので、2月末にWEB編集長に「特集の打ち切り」を切り出されても抵抗することはしなかった。むしろ「前進した」と感じ始めた夏頃からは、私自身も「次の手を打たなければ」とジュニア専門メディア以外の媒体でも「ジュニアの記事を書く」ことに挑戦し始めていた。

なぜなら「ジュニアがもっと多くの人の目に触れて、様々な課題を指摘される環境を作る」ことが、さらなるレベルアップにつながると思ったからだ。

私を含め、たった数人しかいないジュニアサッカーの書き手(ライター)がギャーギャー騒いだところでその内容が"わかる"人の耳にしか届かないようでは、あまりにコーチの発奮材料が少ないと実感しているから。

そういう環境を作るためには、私は「ジュニアのコーチにとって常に毒や薬でなければならない」と覚悟を決めた頃でもあった。

写真提供=佐藤博之(@gajigajiro

【ジュニサカ特集/2018年4月】
第一弾 ▼  「U-15」と「U-12」年代のサッカーで起こっている「課題が同じ」なのはなぜか?
第二弾 ▼ 「練習したことは試合に出る」。湘南ベルマーレの監督と主将がレアル戦で感じた課題とは?
第三弾 ▼ ボールを持つ選手=主役ではなく、保持者外=主役の価値観がジュニア年代の指導に必要不可欠である
第四弾 ▼ 守備時のスペースと時間に対する感覚。そこにジュニア年代のさらなる成長の大きなヒントが隠れている
※タイトルは「ジュニアサッカーを応援しよう!」編集部がつけているため、本文の意図とズレが生じている場合がありますのでご了承ください

木之下潤

【プロフィール】
文筆家&編集者/「年代別トレーニングの教科書」「グアルディオラ総論」など制作多数/子どもをテーマに「スポーツ×教育×発育発達」について取材・研究し、2020年1月からnoteで「#僕の仮説」を発表中!/2019年より女子U-18クラブユースのカップ戦「XF CUP」( @CupXf )の公式メディアディレクターを務める/趣味はお笑いを見ること

▼ジュニアサッカーを応援しよう!
2018年4月〜2020年3月まで「特集担当」として企画から執筆までを行う。

「僕の仮説を公開します」は2020年1月より有料になります。もし有益だと感じていただけたらサポートいただけますと幸いです。取材活動費をはじめ、企画実施費など大切に使わせていただきます。本当にありがとうございます。