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三河宇宙造船所 宇宙への軌跡 第23回「おい、衛星 さぼんな」

1966年 7月17日 日曜
三河6.1号は人工衛星「星1号」
地球上空200km~140kmの範囲で赤道上空を周回。低軌道への人工衛星の投入に成功した。
その後、三河宇宙造船は各種企業からの調査依頼、渥美半島から遠方の空と宇宙《ソラ》を飛び、その調査結果を送信し・・・。
「また、通信圏から外れて・・・」 向井乃秋は北極点の調査、その結果を渥美半島の三河宇宙造船へ送信しようと衛星を中継を開始しようとするが"OFF LINE"とインジケターは示し続けている。
「この役立たず」とジェット機 Mika1 ヘルメットの中の声は籠っていた。

社内
ー 航空機格納庫 通称「鳥たちの巣」 -
「初の人工衛星打ち上げが目 的 だったんだ。そこに付加価値、いや君らはそれを通常だと思っているんだろうが初めての結果にどこまで当然として求められるんだ」とフォン博士。向井乃秋の詰め寄る要求に回答を表す。
「それは判る。判るというのは想像出来るという意味で。通信網を確保し後々に使用する計画はあるが予算と時期の兼ね合いがあるんだ」と、フォン博士は宇宙飛行士達に社内の開発計画の大枠を匂わせ、我々が考慮配慮していないわけではない含みを込めた回答を行う。目標への達成、その後に満たされない後方支援に苛立つ飛行士たちの一人、向井乃秋が代弁したことになるが、その言葉へのフォン博士からの反論、彼女はこの博士への回答を上回ろうと発言をすることを控えた。
相手の立場もあるが自身の要求が極点上空で見た低い軌道の太陽のように、ぐるぐると周り続けることだと無意識において理解し始まっていた。要求がいつからか愚痴に繋がることを。

1966年 10月28日 金曜
ー ロケット組立棟 オフィース 通称「反重力」 -
ロケット組立棟からこのオフィースへ近づく足音は苛立っていることを表すタンタンタンの連続の後にごくごく短い「ッ」が含まれているが、その音をジーン・カーマンは聞き取ることは無かった。オフィース内の机上に足を投げ出しラジオから流れる音楽に耳を任せ、アメリカで購入した成人向け雑誌に読みふっけていたためである。
ラジオから突然ノイズが。
「うんあぁ・・・」と眉間に皺を立て雑誌からラジオを睨むジーン・カーマン。その時、外から扉が勢いよく開き睨んでいたラジオから音を立て開かれた扉を見るジーン・カーマン。
"Moin" 声を掛けるがその相手は歩みを止めず眉間に皺を立て此方へ近く。
「Moin じゃねえよ」とフォン博士。
「は?」とジーン・カーマン。不穏な空気を感じ、手にしていた雑誌からは力が抜け、机上に向けゆっくりとふんわりとした女性的な柔和な自由落下を始めたところにフォン博士が両開きに開いたアメリカ人女性の裸体写真ページをバイアス、やや斜めに、そして男性的にその雑誌を内側から叩く。成人向け雑誌はそのエネルギーを受け、数式や開発品名などが書かれたホワイトボードの"R(何かかいてあったんだが、視界を雑誌が覆い読むことは出来なかった)"
その謎の数式などが書かれたホワイトボードへ向けて成人向け雑誌が飛んで行く。ジーン・カーマン、彼は柔らかそうな裸婦写真が遠くへ飛んで云ったさまを目で追い、「アメリカへ帰国した」そう思った瞬間に怒りに満ちたフォン博士の声。
「あれはなんだ!」
「?」
「あの醜いブス!」とオフィース窓向こうに見えるロケット建設棟内の人工衛星「星2号」を指さし、大きな声を上げるフォン博士。
「発注し・・・」 「発注って要求書は書いたが、あんなのをロケットの。FXXX」 ラジオから甘いピンク色の声で唄う日本の女性歌手の曲が流れている。
以前はあの美しい形のようなことを言っていたのに・・・。とジーン・カーマンは頭の中に浮き上がったそれを反論としてぶつけようかと考えたが、火に油を注ぐとその考えを飲み込み、「落ち着け」の意図、掌を見せ代弁。隣の席に置いた鞄から角2茶封筒を取り出し、その書類止めのぐるぐると巻いた紐を解く。
茶封筒から取り出した書類は新たなエンジンの設計図。
別の茶封筒からは新液体燃料タンクの図面。それをフォン博士へ渡し、更にに別の角2茶封筒を取り出し、フェアリング対応可能仕様書を手渡す。
「次の通信中継衛星。設計までを外注化し、その図面からフェアリング対応可能かは既に発注済み。フェアリングをも外注に設計から作成依頼を出してもいいんだが、『どこまで出来るか』ということを君に見せてからコッチで作るか、取引先へ発注をかけるかを確認したほうがいいかと思って。エンジンは君の『要求仕様書に近づけた』と発注先から聞いている。燃料タンクについて一々確認することはないだろ?」と勝ち誇った笑みを見せるジーン・カーマン。
頭越しに決められたその結果だけを渡され「あとはお前でなんとかしろ。じゃあヨロシク」と過去の体験から想定していた予測と異なり、悪くない。物事の進め方に大きく呼気を輩出し時に出た音も含め、その後にぼやいた「悪くない」を強調し、「すまない」とフォン博士は言った。
口を真一文字にしその答えに応えるジーン・カーマン。
フォン博士はホワイトボードへ向け飛んで云った雑誌を拾いに向かい、その間に座席から立つジーン・カーマン。
フォン博士は露になった女性の写真が掲載された雑誌を紳士のように優しく拾い上げると、ジーン・カーマン、彼は既に立っていた。乱雑に開いたページを閉じ、彼に謝意の意味も含みこれを持ち主に返そうとする。
「いや、いいんだ。もう。よければ君に」とジーン・カーマンは言いオフィースから退席した。

1966年 12月15日 木曜
アメリカ。カートゥンの巨匠が死去。
日本時間ではその翌日にあたる12月16日に新エンジン、新液体燃料タンクが納品される。
人工衛星打ち上げに向けロケットの組付けと、フェアリング設計が開始。
重工業、自動車産業の推移。生産と改良の繰り返しから強度、そして軽量化、形状加工の技術蓄積と更にその技術の流用及び技術の加工が繰り返される。流体力学。理想値と実現可能不可能。工業産業の裾野の広がりは凄まじく、アメリカの後を追い続けていた日本はそのモチーフに近づきつつあった。

三河宇宙造船。その工業界の一端。
フェアリングの実験と改良が繰り返される。そして1966年から翌年へ。

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写真:三河6.2号 透けて見えてるところが魅力ですが、実際に飛行する時はまた別ですよ

1)RE-L10 プードル 液体燃料エンジン 一基搭載
2)FL-T800 燃料タンク 二基搭載
3)Mk1 クルーキャビン 一基搭載
4)AE-FF1 耐空力防護シェル 一基搭載

1)について
二つで一つ。オスメスつがいのわんわんエンジンはトイプードルじゃありません。力強い加速を見せます。
2)について
燃料タンク本体の重量を抑え、強度も維持する加工技術バンザイ。
3)について
こんなものも作ってたんですね。これで君も独りじゃない。更に二名も積載可能。孤独を愛する宇宙飛行士の敵。
4)について
薄映りする中身は魅力に詰まってる。餃子の皮を包むような有機的設計を出すと発注先の生産者から「おい、これ! どう作んだよ! おめえがやってみろ」と加工業職人に怒られるのは工業界あるある。下請けいじめは辞めましょう。

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写真:星2号 人工衛星 わたしは前回よりこの丸っこいこれは好きです

1)星2号について
通信中継衛星。RSC使用により細々とした軌道変更が出来ますが、「月に行け」とかそういうのは無理ですよ。根性論では軌道変更出来ないってなんで判らないんですか?

1967年4月20日 木曜
人工衛星打ち上げ、目標軌道高度が決定される。
・地球赤道軌道500km上空へ投入
人工衛星実質1基では通信可能な領域と、通信を行いたい場面のジレンマを解消すべく、前回の星1号比較、高硬度へ投入し衛星中継アクセス時間を向上。
後々に通信網を確立すべく、その狭間を補う。
更に次なる計画も発表される。
・衛星投入後、地球赤道軌道250kmにて宇宙滞在
・宇宙空間で宇宙船2基を接近させる

1967年8月30日 午後1時
三河6.2号
https://www.youtube.com/watch?v=PxNPJstFvWQ&feature=youtu.be


次回予告「2基のモチーフ」


バイクを買うぞ!