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「エロティック・マッサージ、アリマスカ?」

大学へ入学したばかりの春、新宿を歩いていていたら、外国人に声をかけられた。

「エロティック・マッサージ、アリマスカ?」


いきなりこんなことを聞かれたもんだから、思わずびくっとしてしまった。

(知らん知らん!何聞いてんねん、東京っておっかけねぇ街だなぁ……)

僕は「知らないです」と答えてすぐに立ち去ると、その外国人はまた別の人に話しかけていた。

「エロティック・マッサージ、ドコニアリマスカ?」



いやいやいや、誰も教えてくれへんやろ~と思っていたら、

「あーそれなら、ここ真っ直ぐ行ってあそこ曲がったその先にありますよ」

とマクドナルドの場所を聞かれたかのように、普通に答えていたのである。


(えええっ!!!知ってるの!?)



耳元が弾ける。

背中で声を聞いていたのだが、思わず振り返って3度見した。いや、もうガン見だったと思う。



ここで僕の中にいる、"中二病のリトル俺"が喋りかけてきた。


「おい、小僧。このままでいいのか」
「人生変えたくて上京したんじゃないのか」
「迷ったら笑える方へ、だろうが!」



身体の奥底で何かが煮え立つ。

厳しい厳しい受験戦争を耐え抜き、念願叶って初めての一人暮らし。ついに来た東京。好奇心には勝てない。



外国人を尾行することにした。



探偵やスパイになった気分だった。この先に必ず手がかりがある。謎を解く鍵が、犯人をつきとめる証拠が、この世界を救う知略知慮が。


(未成年だったのでほんとすみません、二度としてません。あ、あと外国人の"エロティック・マッサージ"の発音がめちゃくちゃ良かったです。)



大学生はお金がない。だが時間はある。


・慶應のキャンパスのある日吉駅(横浜市)から田町駅(港区)まで自転車で走る
・屋上から見つけた自動販売機を地上で探す
・渋谷駅前からドン・キホーテまでの道のりで目に入ったお寿司屋さんは全部入らないといけない
(※渋谷は回転寿司が多く、かつドンキまではいろんな行き方があるので、どのルートが一番お店に入らなくてすむのかあれやこれやと作戦会議になる)


とさんざん友達と無意味なことをやってきた。



(この外国人に付いて行けば……この先には……かの有名なエロティック・マッサージ屋さんがあるんだ…!)


「この世の全てをそこに置いてきた」


そんなことを言われた気がした。



初めての尾行。迫りくる好奇心。押しよせる性欲。

恐る恐る外国人に付いていく。

路地裏に入る。雑居ビルが立ち並ぶ。さっきまであんなに人がわんさかいたのに急に人気(ひとけ)が無くなる。

不安と後悔と昂奮。震える足、高まるボルテージ。


怪しい螺旋階段がある。外国人がすっーと吸い寄せられるようにお店があるであろう2階へと続くその階段を上っていくと、

雑居ビルのそこにはネオンカラーの小さな文字で


「ヌクドナルド」




と書かれた看板があったのだった。




性風俗経験のない19の僕は足がすくみ、これ以上はさすがに進めないと、"未成年のキケンな冒険譚"はここであっけなく終わった。


その後、高まる感情を抑えながら、どうやって帰路についたのか不思議と覚えていない。


しかし、あの時ほどぞくぞくとした経験はなかなかなかったなぁとこの歳になって思う。

子どもの頃のまだ見ぬ世界へのキラキラとした好奇心ほど魅力的なものはない。

秘密基地に憧れるのも、自分たちしか知らない初めての世界がそこにはあったからなのではないだろうか。





もう無くなっちゃったのかなぁ、ぬくどなるど。




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女風のお兄さん|性のメンタリスト
もう少しお仕事をがんばりたい日はチロルチョコを買います。精一杯やりきった日はご褒美にHäagen-Dazsを買います。ここまでお読みいただきありがとうございます。貴方様に支えられて文章を紡ぐことができました。

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