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ざっくりと理解するファイナンス(ローン)

これまでの仕事を通して学んだファイナンス(ローン)に関する考え方について、自分の頭の整理も兼ねてまとめてみます。
なお、私は銀行で働いた経験はなく、投資業務においてお金を借りる側の実務を経験したのみなので、下記説明は完全に私見であり、各用語や説明の内容の正確さは保証できません。あくまでも借主として、銀行との協議を通して学んだ私なりの理解でまとめていますので、こういう考え方をするんだなと「ざっくり」とイメージだけでも掴んで頂ければと思います。

お金の貸借は「信用」に基づいて行われる

お金を貸す/借りるという行為は「信用」に基づいて行われます。個人間でも法人間でも、貸す側は「相手がちゃんと返済してくれるであろう」と信用して貸すのです。その為、相手の信用力が低いと感じる時は「保証」や「担保」を要求して「信用補完」を行います。仮に貸した相手が返せなくなった場合でも、保証人による代位弁済や不動産等の担保を換金することで貸したお金の回収を図るのです。

貸す側としてローンを検討する上では、相手の何を信用して(何に依拠して)ファイナンスを行うのか、どうやったら回収の確実性を上げられるか、万が一のことを想定して仕組みや条件を検討することになります。

「信用」の源泉

何に依拠してファイナンスを検討するかというと、大きく3つの要素に分かれます。(もちろん、これが全てというわけではありません。)

 ①会社の与信 → コーポレートファイナンス
 ②不動産等のアセット → アセットファイナンス
 ③会社やプロジェクトの将来キャッシュフロー → キャッシュフローファイナンス

上記の内、②と③はより広義には「ストラクチャードファイナンス」のカテゴリに属するものであり、上記3つ(やそれ以外のもの)についてはそれぞれ明確な線引きがされているわけではありません。①のみで検討することもあれば、①と②の両方を勘案して検討するケースもあります。

例えば、(一般的によくある)会社が銀行の審査を経て借りるローンは①ですが、PEファンドが買収時によく使うLBOローンは①の要素と③の要素が(場合によっては②の要素も)あり、不動産ファンドが物件取得時に組成する不動産ローンは②の要素や③の要素を勘案して合わせ技一本という感じで融資の可否を検討することになります。

③のキャッシュフローに依拠したファイナンスは、借入人に実績や担保として使える(価値のある)資産がない時に検討されますが、代表例としては太陽光等の再生可能エネルギー関連のプロジェクトファイナンスです。
実績も資産もない相手に貸せるのか、と思うかもしれませんが、プロジェクトに内包されるリスクを精査し、それぞれのリスクへの対応策を整理して貸せる仕組みを作ります。
その為、①や②の場合に比べると、銀行も検討に時間をかけ、融資期間中のガバナンスの仕組みを細かく検討し、借入人に対する要求は厳しく、制約事項も多くなり、借入条件も厳しくなります。

融資のリスク(PDとLGD)

融資検討を行う時に気にするリスクは大きく2点あります。
Aという会社に対してお金を貸す場合を例にとると、借入人であるA社が返せなくなる(=デフォルトとなる)蓋然性はどの程度あるか(⇒会社の与信やキャッシュフローで検討)、デフォルトが発生した場合にどのように回収が可能か(⇒保証や担保で検討)、という点です。
前者はProbability of Default(PD)、後者はLoss Given Default(LGD)の観点です。

トヨタのような規模も実績も申し分ないと思われる企業であれば会社の与信のみで判断して無担保でポーンと貸しても良いと判断されるでしょうし、零細企業でも1,000万円の借入に対して担保として5,000万円相当の不動産が確保できるのであれば、「PDは高くてもLGDは小さい」として貸付可能と判断されることもあります。担保として提供できる資産を会社として持っていない場合、社長(オーナー)が連帯保証という形で個人として保証を入れて信用補完を行うケースもあります。
(連帯保証と通常の保証の違いは、「催告の抗弁権」、「検索の抗弁権」、「分別の利益」ですが、これはググれば分かりやすい説明があるので割愛します。)

リコースとノンリコース

ファイナンスを検討する際に、リコースノンリコースか、ということも検討ポイントの一つとなります。リコースは日本語だと遡及と訳されますが、簡単に言うと親会社やほかの財産や事業にまで銀行側が追及できるか否かということです。
例えば、Aという会社がBという子会社を作って事業を行い、Bが借入を行ってデフォルトが発生した場合、借入人であるBの財産の範囲内でのみ貸付人である銀行が請求できるのか(ノンリコース)、親会社のAに対しても返済を請求できるのか(リコース)ということです。

太陽光発電等のプロジェクトファイナンスやPEファンドによるバイアウトの際のLBOローン、不動産ファンドが活用する不動産ローンなどはノンリコースで行われることが多いです。
プロジェクト用の会社(SPC)を設立し、SPCを借入人として銀行から借り入れを行いますが、返済不能となってもSPCの出資者(スポンサー)へは遡及されず、SPCの持つ財産の範囲内で銀行は回収を図ることになります。借入との金銭消費貸借契約においては「責任財産限定特約」という形で盛り込まれます。

プロジェクトファイナンスと聞くとノンリコースと同義と勘違いする人は多いと思いますが、あくまでも「ノンリコースで組成されることが多い」というだけで、必ずしもプロジェクトファイナンス=ノンリコースというわけではない点は留意が必要なポイントです。
プロジェクトファイナンスであってもリミテッドリコース(限定的に遡及が可能)やフルリコースとなる場合もあります。銀行は一義的にはプロジェクトのキャッシュフローに依拠してファイナンスを検討しますが、対応策を整理しきれず銀行が負うことが出来ないリスクが残る場合にはスポンサーサポート契約の中において、「一定の条件下においては出資者(スポンサー)に遡及できる」と規定して融資を検討することがあります。

検討のポイント

上で触れた各ファイナンスについて、究極的には会社やプロジェクトから創出される将来のキャッシュフロー(が安定的に見込めるか)に依拠して融資検討を行うという点はどれも同じであり、返済原資となるキャッシュフローの確からしさを何によって確認するか、が異なる点となります。

コーポレートファイナンスの場合は事業計画の蓋然性云々よりも過去の実績や現在の財務の状況に重きを置いて、どの程度の金額でどの程度の条件ならこれまでの実績に基づくと融資しても大丈夫か、ということを銀行内の定型の審査フローに沿って(杓子定規に)審査が行われるイメージです。大まかにいうと、「過去から現在の実績」に基づいて信用できる先か否かを確認して融資検討が行われます。PDとLGDでいうと、PDが低いことを重視して判断されます。

アセットファイナンスの場合、対象資産が生み出すキャッシュフローに基づいて検討しますが、キャッシュフローから回収できない場合には対象資産を換金して回収することになる為、この場合に重視するのは資産の生み出すキャッシュフローの蓋然性よりも資産の担保価値であり、資産の流動性(換金のしやすさ)や評価額、登記等によって対抗要件を具備することが出来る資産か否か、が特に重視されます。(キャッシュフローの蓋然性を全く見ない、というわけではない。)PDとLGDでいうと、PDももちろん見るけど、LGDが小さければPDが多少高くてもOKという具合に判断されます。

プロジェクトファイナンスやLBO等のキャッシュフローファイナンスの場合、何よりも重要なのは将来キャッシュフローの蓋然性であり、事業計画の蓋然性や各種施策を推進・支援するスポンサー(PEファンド)の力量を評価して融資検討を行うことになる。
その為、キャッシュフローがある程度合理的に見込めたり、不確実性が低い事業の方がキャッシュフローファイナンスを検討する上では検討しやすくなります。PDとLGDでいうと、PDを重視して検討されますが、同時にLGDが小さくなるように設計して判断されます。(キャッシュフローファイナンスの難しいところは、案件の特性に応じてテーラーメイドで仕組み作りが必要となる点です。)

いまやプロファイの代表例となっている太陽光発電であれば、過去の日射量のデータからある程度合理的に将来の発電量や売電金額を見積もることができます。発電量は変動的ですが、ある程度の確度で合理的に見積もることができ、売電単価はFITで融資期間中ずっと固定になるので単価変動のリスクはありません。(基本料金課金のように政策変更によるリスクはあります。)
今後はFIPで単価も変動になる為、プロファイの組成の難度は上がると思われます。

最近多い事業だとSaaSなどのサブスクリプション型のビジネスモデルもキャッシュフローファイナンスを検討しやすい事業の1つと思います。
一定の顧客基盤があり、過去のデータからchurn rate (解約率)を見積もることが出来れば、将来のキャッシュフロー(=顧客数×単価)を予測することができます。
但し、単に計算上で合理的な見積もりができても、外部環境による影響がどの程度あるか(競合の存在、市場成長、事業の参入障壁)という点なども踏まえて検討が必要となる為、必ずしも「SaaSビジネスであれば融資検討が簡単!」というわけではありません。
キャッシュフローの安定性について、何を以って安定的であると判断するかは対象事業によって異なります。FITのように国の制度で守られていたり、スイッチングコストが高い、新規の参入障壁が高くて競合が少ない、等々。

PEファンドが投資検討を行う際に各種DDを行いますが、この辺りを検討時に調査するのがBDDであり、事業計画の蓋然性を確認する上では銀行等のレンダーもBDDの内容とそれに繋がる事業計画の内容を特に重視することとなります。
「SaaSビジネスのキャッシュフローに基づくファイナンス」は、LBOを検討する時と検討のポイントはほぼ同じであることから、PEファンドとしても狙っている領域であろうと考えています。

デフォルト時の対応

コーポレートファイナンスの場合は、そもそもデフォルトが発生しないであろう先へ融資を行い、デフォルトが発生した場合は会社の持つ全ての資産や保証人による代位弁済によって資金の回収を図ります。
アセットファイナンスの場合は、対象資産の換金によって資金の回収を図ります。
しかし、キャッシュフローファイナンスの場合、SPCの持つ資産の換金による回収は見込めず、ノンリコースであればスポンサーへの保証請求もできません。その為、基本的にノンリコースのキャッシュフローファイナンスの場合は、「事業を回してお金を回収する」しかないのです。
予め株式担保等(プロファイでは全資産担保が基本)を設定して、有事の際には担保を実行(ステップイン)して銀行がコントロールを得られるように設計します。銀行が新たなスポンサーとなって(または新たなスポンサーを連れてきて)事業を立て直して回収を図るしかないのです。

しかし、本音を言えば、恐らく銀行としても極力ステップインは実行したくないであろうなと思います。ステップインしても資産を換金して終わりではないので、新スポンサーとなって事業を回していくのはかなりの労力を要します。銀行としてもステップインが必要な事態を頻発させるのは望ましくないこともあり、融資契約の設計においては簡単にデフォルトが発生しないように様々な策を講じます。
融資契約でよく見られる財務コベナンツは、事業の不調の兆候をなるべく早期に把握して、手遅れになる前にスポンサーへ立て直しを要請する為に規定されますし、◯◯積立金等のリザーブもデフォルトまでの距離を稼ぐクッション的な役割として設定されます。(必要なリザーブを積んでない場合には配当の支払いが凍結され、会社内に資金が留まるように設計されます。)

投資検討時における融資契約のドキュメンテーションでは各種コベナンツ(誓約事項)の設計リザーブの設計が特に気を遣う項目となります。
何がどうなったらデフォルトになるのか、治癒期間はどの程度必要か、財務モデルを回しながら返済スケジュールやコベナンツ水準等を交渉していくのです。

ローンの契約書を読んだことがない人はJSLAのタームローン契約書のひな形を見てみると良いと思います。プロファイ等のローンの契約は基本的にこのひな形に沿って作られており、基本となる契約書の構成を理解しておくと実務で100ページ超となる契約書のドキュメンテーションをしていてもどこを見ればよいか、どことどこの条項を気にしなければいけないか、等が分かると思います。(JSLAひな形の各条項の解説は気が向いたときにでも書いてみます。)


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