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放浪

 つい先日、旅に出かけた。行先は北海道、目的は北海道の最北端と最東端の制覇。所持金5万円。現地ではJRのフリーパスを使う…とまあこんな感じで出発したのはいいが、なんせ北海道まで在来線を乗り継いだものだから、北の地を踏むのに3日かかってしまった。

 某作家は、トンネルを抜けると雪国だったと仰ったそうだが、僕が行ったときは道民が倒れるほどの猛暑で、とても白銀の世界を創造することなどできなかった。まさか昭和の作家は札幌が東京より暑くなるとは想定していなかったろう。まさかエゾシカは自分の毛皮が邪魔になるとは思わなかったろう。10日間しか予定を空けることができなかったものだから、いわゆる弾丸旅行というやつで、宗谷・納沙布は勿論のこと、知床や釧路も地元民が仰天するほどスピイディにこなしていった。その中で留萌だけは特異な印象を持った。

 留萌市は北海道北西部に位置し、人口は令和3年時点で2万人弱、ニシン漁が盛んらしい。電車では旭川から普通電車で1時間半余り。一見すると漁業が盛んな町という普通の印象を受けるが、それで語り終われるほどの場所ではなかった。まず、電車が1両編成ワンマン運転3時間に1本。そこまでは良かったものの、冷房なしの窓全開、さらには獣道かと錯覚するほど、森の中を通る線路の上に乗って全力で駆け抜けるから堪らない。ようやく着いた留萌駅は閑散とし、鴉が喚き、駅の窓口はシャッターをおろす。ローソンはあるが他は何もない。着いたのが夕方だったのもあるかもしれないが、兎に角人すら見かけない。駅から徒歩30分。ひたすら歩き、お目当ての黄金岬キャンプ場着。岬が見えた途端、絶句した。

(今までに見たことのない美しい夕陽。美しい。ウツクシイ。彼女はあと20分ほどで落ちるらしく、今日一日の振り返りを行っているようだった。急いでカメラのシャッターを切る。海岸の先に浮かび上がる彼女。笑っているのか泣いているのか、全世界のニンゲンを嘲笑っているのか、それは凡人では想像がつかなかったが、肉眼情景でここまで感動したのは20年生きてきた中で初めてだった。彼女はやがて沈んでしまわれたが、オモカゲはもうしばらく、僕を楽しませてくれた。彼女はまた、12時間後に昇る。そして落ちる。この繰り返しがシゼンを感じさせてくれたのは自明だった。)

 この後キタキツネに荷物を荒らされて睡眠どころではなかったことはさておき、旅はいいなあと思う。ちなみに旅と放浪の違いは目的地があるかどうからしい。今回は意図せず、感慨深い思いをすることができた。これが「放浪」の楽しみであると、少し旅人の良さを齧ることができたのではないかと思う。


後述

北海道は良いところです。しかし、全体を満喫するには時間が必要です。間違っても本州旅行の感覚で行ってはいけません。あそこは日本であって日本ではないのです。時間さえあれば、野宿でなんとかなります。金より時間です。是非、一度。また、このようなご時世にもかかわらず僕の放浪をサポートして下すった道民に、この場を借りて御礼申し上げます。

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