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あの日の空はいつもより蒼い

今日もまた彼を好きな私のまま生きている。
なんで?とかって言われてもきっとわからない。
一人で寝るには広すぎるダブルベット、使っていないことがわかる少し冷たくなった片側。
寝たときと寸分たりとも同じ風景に、私は少し嫌気が差した。

「おはよう」
誰も返事をしないことをわかっているけれど、癖のように言ってしまう。
brrrr brrrr
彼からの連絡かと思って携帯を見ても、友達からのメールでしかない。
「おはよー☆彡!なみ、あのさ今日夜空いてる?大っ事な話があって、聞いてくれない☆彡?」
私は端的に「空いてる。場所は?」
と返事を書いた。
どうせ彼は帰ってこない。
彼の夜ご飯の準備なんてしなくても、、、いい、よね?
prrrr prrrr
メールではなく電話の着信音が鳴る。
「ごめん、彼ピとデートになったから夜のご飯なしで。ほんとスマソ」
「いいよ。彼の分の夕飯、今作っとく必要なくて良かったわ」
「なみ、新しい彼氏出来たの?よかったじゃん、亡くなった雄太くん?よりも今生きてる人を好きになったほうがいいじゃん」
雄太が死んだ?
私は思わず握っていた携帯電話を落とした。
なんで私が知らないのに由美香は知ってるの?
私は突然、孤独感に苛まれた。
辺りを見回すと、彼とのおそろいのペアリングが2つ一緒に置かれていた。それだけじゃなく、一番目立つところにはこの部屋には大きすぎるほどの、仏壇があった。
「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああ」言葉が決壊したように溢れてきた。
なぜか涙は出てこなかった。
慰めるように、後ろから雄太の声が聞こえる。
「そばにいるから」
私は涙ながらに「うん」と言った。

「なみ、大丈夫?」
「うん、もう話し終わったよね?じゃあ切るね」
「ねぇ、なみ!ちょっと待ってy」
友人となんていつでも話せる。
ただ今は、雄太の声を味わっていたい。
雄太と最期の思い出がほしい。

「なみ。僕はね、なみをずっと近くで見守ってるからね」
後ろから抱きしめられる感覚とともに彼はそう言った。
ふわりと腕が離れた。
「私もずっと好きだよ」

「僕もだよ」


(了)

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