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なぜラッパーはやたらと親に感謝するのか|HIPHOP文化から理由を探る

「育ててくれた親にマジ感謝 今日からは巻くのやめるぜガンジャ」。

………お粗末な韻をぶっ放したところで、さてラッパーという職業の方々はやたらと親に感謝するイメージがあるのは私だけだろうか。

手を合わせながら「サンキューマイマザー」と歌うのは、いつだって平べったいキャップをかぶって、ちょっと髭生やしているヤツだ。

HIPHOPはもともと白人の中流階級のメインストリームに対して、アフリカ系民族が起こしたサブカルチャーだ。そこには若干カウンターカルチャー性もあって、特に「ギャングスタ・ラップ」というHIPHOP誕生から10年後くらいに出てきた文化は、アングラ臭すら漂うちょっと危ないカルチャーである。今でもラッパーがだぼだぼのジーンズにサングラスで大麻を吸っているのは、このギャングスタラップが源流である。

こうして書くと、一見、親に感謝なんて伝えそうにないコミュニティだ。しかし彼らはやたら親に感謝する。ことあるたびに母にありがとうを伝える。「もはや他人行儀だな」というくらい家族への愛を歌う。

ではなぜ「ラッパーは親に感謝する生き物」というイメージが定着したのか。今回はHIPHOPカルチャーの基本を踏まえたうえで、ラッパーが親に感謝する理由について考えていきたい。

HIPHOPカルチャーとは

そもそも「HIPHOP」とは何なのか。ラップとの違いについて知らない方も多いと思うので、簡単にHIPHOPの基本を押さえておこう。

HIPHOPが生まれたのは1970年代のアメリカだ。当時は中産階級の間でディスコが大流行。若者たちはみなサタデーナイトフィーバーしていたわけだ、sしかしアフリカ系アメリカ人の貧困層はお金がなく、踊りたくても踊れなかった。

特にニューヨーク州のサウスブロンクスという西成より治安が悪い、いわゆる「ゲットー地区」ではディスコに行けない連中が公園に集まってターンテーブル回したり、ダンスしたり、スプレー缶でグラフィティを描いたりする。

これが「ブロックパーティー」というコミュニティであり、ここで生まれたDJ、ダンス、グラフィティ、ラップなどを総称して「HIPHOP」というカルチャーが生まれたわけだ。

時代的背景でいうと、1960年代のアフリカ系アメリカ人の解放を求める「公民権運動」があって、「自由」を標榜したヒッピーが出てき始めたのもある。HIPHOPとHIPPIEの「HIP」は同じ意味で「新しいムーブメント」とか「かっこいいこと」みたいな意味があるんです。世界的に「サブカルチャー」という言葉が生まれたのはこのころだ。

ヒッピーたちのことに関しては以下の記事でも簡単に解説しています。

HIPHOPカルチャーのキーワード

さてこの通り1970年代に生まれたHIPHOPは、最初アフリカ系アメリカ人のカルチャーだったわけだ。初期(オールドスクール)のスター・Sugarhill Gangがこんな感じ。

見ての通り、カーディガンとか着てるんです。今のいわゆるラッパーのファッションとは大きく違うのが分かる。ここからラップがちょっとアングラの文化になったのは「ギャングスタ・ラップ」というジャンルが流行ったのが大きいでしょう。

背景はまた別の記事で詳しく紹介しますが、簡単にまとめると「ギャングとして本気で街を荒らしていたアフリカ系アメリカ人がラッパーとしてデビューしていく」んです。日本でいうと「若頭が演歌歌手デビューする」みたいなイメージで大丈夫です。

つまり「HIPHOP」という文化はアフリカ系アメリカ人、またはギャングとしてのコンプレックスが背景にある。だから他の音楽ジャンルよりもメッセージが多くて、なんか複雑なんですね。

ラップの主なメッセージ

・地元レペゼン
アフリカという土地へのプライドに起因
・金を稼いでるぜ
貧困層のコンプレックス→ギャングとしての成功に起因
・薬物やっちゃってんだぜ
ギャングとしての振る舞い・反体制・ヒッピー文化に起因

で、ここに今回紹介する「親に感謝アピ―ル」が入ってくる。

そもそもラッパーは本当に親に感謝しているのか

「ラッパーはそもそも親に感謝しがちな生き物なのか」については前提として紹介しておくべきだ。なぜなら「親に感謝する」という行為は人として当然だから。そりゃそうですよ。ラッパーだけじゃないです。もちろん、HIPHOP以外にも両親への感謝を歌う曲はかなりあるもの。

そこで、さまざま調べると、ラップの親の登場率はかなり高いことが分かった。ちなみに沖縄出身歌手も高い。またアメリカでは「Mamas' Song」というラップソングのジャンルがあるようだ。ギャングスタ・ラップ界の殿堂・2パックの「Dear MaMa」はその筆頭だといわれている。1995年リリース。

また1999年代には伝説的ラップユニット、ウータン・クランのメンバーであるゴーストフェイス・キラ、ギャングスタの代表格、スヌープ・ドッグも母親に対する愛を歌っているほか、2000年代に入るとカニエ・ウエスト、ナス、ジェイ・ズィー、リルビーなども続々と発表している。本当に枚挙にいとまがない。

では日本ではどうなのか、と言うとまちがいなくDragonAshとZEEBRAの「greatull day」の影響は大きいだろう。「俺は東京生まれHIPHOP育ち」のイメージが強いが「父から得た揺るぎない誇り 母がくれた大きないたわり」「カバンなら置き放っしてきた高校にマジ親に迷惑かけた本当に」みたいなZEEBRAの歌詞がある。またフックの歌詞には「Thank you father,mother,and my friend」も登場する。

このほかにも山田マン、童子-T、K DUB SHINEなどの今では大御所になったラッパーたちも親への感謝を歌っている。このほかHIPHOPというより、J-RAPに近いが、メジャーのラッパーたちの曲にも言うまでもなく両親の登場率は高い。

ラッパーがもつ共同体意識と、マイナスからの成り上がり文化が「両親への愛」につながる

ではここまでを踏まえてまとめだが、なぜHIPHOPアーティストは両親への愛を叫ぶのか。長谷川町蔵×大和田俊之さんの「文化系のためのHIPHOP入門」を読むと、とても面白い解釈をしていた。

そもそもゲットーやギャングスターから生まれたHIHOPというカルチャーは「共同体意識」がめちゃめちゃ強い。他人を「ブラザー」と呼ぶくらいだ。仲間内にしか通じないハイタッチとかある。これが家族への愛につながっているのではないか、と。

これはすごく分かるし、greatful dayがmother、fatherとfriendを並列で書いているのもうなずける。

またもう1つ。日本の代表的なラッパー・ANARCHYの過去のインタビューを読むと「今の(なりあがった)自分がいるのは家族がいたおかげ。だから母親には感謝をしている」という言葉があった。

ANARCHYの母親は彼が幼いころに離婚をして家庭を去っている。ラッパーはHIPHOPの創成期から、基本的には「マイナスを背負っていた時期から成りあがって、今の自分を肯定する」という構図がある。恵まれなかった時期に育ててくれた親に感謝をするという行為によって「今の自分を肯定する」というのも理由の1つであるはずだ。

日本のHIPHOPはもはや独自のカルチャー

さて、今回は「なぜラッパーはやたらと親に感謝するのか」という話をした。ラッパーというコミュニティの共同体の強さ、そして何より生まれから既にハンディキャップを背負った者たちの「中流階級への反骨精神」がこの背景にはある。

ただ日本では明らかに独自のラップ文化があるとも思っている。これはもう何度も繰り返されてきたジャパニーズHIPHOP問題なのだが、日本のラッパーたちってものすごく高学歴なんですよね。もちろん、日本のゲットー。神奈川川崎出身のBADHOPやANARCHYなどはいる。しかしKREVAやZEEBRAは慶応ボーイだしRHYMESTERは早稲田。悪そうなやつはだいたい他人だったんじゃ……。

これが「日本のラッパーはださい」と言われる理由の1つなのですが、あくまでアメリカ標準の話なんでね。昨今、ラップブームがやってきて、もう終束している感もあるが、もはや日本のラップは独自の文化なのだと考えたほうがいい。「フェイクだろ」というツッコミは違うのではないか、と思っていて、2019年にDOTAMAが「大麻撲滅キャンペーン」の顔になって炎上した時も私はサイプレス上野派だった。

なんかいろいろ調べて本を読んでいるうちに「ラッパーっていろいろコンプ持ってて大変だな」と思っちゃったのが正直なところである。ライブハウスで働いていたときにも思ったが、音楽界隈はとかくカルチャーに縛られ過ぎている気もする。もっとガンガン新しい文化を生み出してもいいじゃないか……なんて。おやおや本筋から脱線しはじめましたので、今日はこの辺で締めましょう。カルチャー云々ではなく、普通に親に感謝することは大切なのでね。今日は寝る前にやんわりと両親にありがとうLINEでも送ってみましょうか(照)。

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