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ハラスメントの意味は広い

息苦しさのようなものを感じることが増えた。
あっちでも、こっちでも、いつも周りを気にしていなければいけないような空気感が、年々重くなっていくのを感じる。フリーランスの私でさえそうなのだから、組織に属している人は恐らくもっと息苦しい。その息苦しさの原因は、アップデートできていない経営者の錆びた概念をベースとしたハラスメントにあると思う。


錆びた概念が引き起こすハラスメント

ハラスメントという言葉が定着した感があるにも関わらず、する側とされる側の乖離が埋まらない。むしろ増えていると思えることが多い。

そもそも harassment は「疲れ果てさせる」「苦しませる」こと
というのがコアな語源なので、実際にはかなり広義。嫌がらせ、迷惑行為と訳されることが多いのは、訴訟大国アメリカを真似たからではないかと思うが、それが話をややこしくしているように思う。

厚生労働省の定義やよくある研修内容を見ても、根本原因に触れていないので、ハラスメントをする側の意識や考え方が変わらない。それ以前に、ハラスメントに気づかない。だから訴訟を起こされようが、研修を受けようが、労働基準監督署への相談件数が増えようが、ハラスメントはなくならない。

経営コンサルタントとして多くの組織に関わってきて思うのは
 ●本来ハラスメントとはどういうことか
 ●ハラスメント構造とはどういうことか
 ●どういうハラスメントが起きているか
 ●なぜ、そうなってしまうのか
科学的理論に基づいた、根本背景から理解を広める必要があるということ。


経営者の高齢化

ハラスメントが起こる背景にあるのは社会全体の高齢化ではあるが、何より大きな影響を与えているのは、経営者の高齢化であると言える。

日本企業の社長の平均年齢は60.3歳。欧米などの平均52~53歳と比べても高く、年齢別構成比を見ても、60代、70代はそれぞれ20%台。

図1.社長の平均年齢(2022年3月帝国データバンクレポートから引用)
図2.社長の年代別構成比(2022年3月帝国データバンクレポートより引用)

今60代の経営者が若かった30年前は、パソコンが普及し始めたばかりの頃(Windows1.0は1985年に発売)。通信手段のメインは電話とFAX、急ぎの件はポケベルで呼び出されていたわけで、今とは社会システムが大きく異なる。

その頃に30代だった人の多くは、組織のなかで段階的に昇給し、管理職という立場になっていくと、実際の業務に携わる機会がぐんと減る。起業して事業を拡大してきた人にも、同じことが当てはまる。それでも大して困ることなく事業がまわり、売上があがっているうちは、意識や知識のアップデートをしなくなる。

60代になる頃に大きな時代の変化を認識しても、30年の空白を取り返すのは難しい。なにしろ脳は意識的に使わなければ、加齢とともに少しずつ萎縮が進み、物覚えが悪くなったり理解が遅くなったりする。何より、30年積みあげ続けた「常識」や「概念」は、新しいことを否定し跳ね返す。

年齢構成(図2)から推測すると、企業を率いる経営者の多くが、過去の遺産のような価値観、人生観、仕事観と、非科学的な経営手法のまま、良くも悪くも事業を継続させている。それはつまり、ハラスメントのない職場を見つけようにも、選択肢が少ない社会環境にあるということになる。

結果、転職しても同じようなことが起こり、若い世代ほど苦しめられ、疲れ果てバーンアウトする確率が高くなる。

高齢な現役経営者の古い概念が、組織で様々なギャップをうんでいること、それが原因で業務が円滑にまわらなくなっていることを、漠然とではなく理論的に理解している人は社会全体を見渡しても少ないように思う。それがさらなる深刻なハラスメントを引き起こし、事業存続が危うくなってきている企業も少なくない。


責任転嫁する経営者たち

この十数年で、本来、経営者が考えるべきことまでも、スタッフや外部委託先に丸投げをする、責任転嫁経営者がとても増えた。社会の流れがそうなったからではあると思うが、ハラスメントのなかでも深刻な問題だと思う。

<例えば>
経営コンサルタントとしてリアルに困るのが、新規事業を立ちあげるから何か提案してほしいと漠然と言われること。こういう場合の多くは、経営者自身が答えをもっていないので、何をどう提案しても決まることはない。決まったとしても、必ず提案した道から外れて目的を見失い、上手くいかないことが多い。経験からそうなるとわかるので、丁重にお断りをする。

断れるのは外部の人間だからであって、スタッフとなるとそうはいかない。経営者にしてみれば、給料払っているのだから、新規事業を考えさせるのは本人の成長にもなるなどと、丸投げする理由を本人なりに固めている。

スタッフはと言うと、日々経営者をよく見ているので、考えたところで進まない、上手くいかないことは身をもって知っているが、断らせないこともわかっているので、黙って従うことになる。

それがもし上手くいけば、経営者は自分の手柄のように言うが、失敗すればスタッフのせいにする。こんなハラスメント構造は、以前からよくあったものの、多くの場合が中間管理職によることが多かった。

ところが今は、経営者が堂々とやってしまう。
経営者の姿勢が企業風土に影響する。経営者の器以上の人材は育たないとも言われるように、経営者の姿勢、考え、言動は組織に大きく影響する。特に、経営者が事業の目的を見失うと、様々な矛盾が生じ、やがて内部から崩壊し倒産、もしくは廃業へとなる可能性が高まる。

日本の中小企業の多くが今、このような危機的な状況にある。
もちろん全ての中小企業がそうではないし、経営者の世代、業種業態、規模によっても事情は違う。比較的年齢の若い経営者のもとでは、起こりにくいことではあることからも、ハラスメントに経営者の高齢化が関係していることは否定ができない事実ではないだろうか。

それを綺麗な言葉で覆い隠すかのような、もしくは訴訟を前提としたかのうのような「嫌がらせ」「迷惑行為」などと言っている場合ではない。


さらに取り残されることになる

経営者によるハラスメントは、労働基準法はキッチリ順守、給与の遅配もなく、高給ではないとしても安定した収入が保障されている環境のもと、悪意なく行われるので質が悪い。

経営コンサルタントとして関わっていても、この状況を解決するのは容易ではない。なにしろ経営者自身が、根本的な原因を見たくない、知りたくないと無意識のうちに拒否をする。

変わらなければいけないと思っていても、変わるのは自分ではなく、スタッフであり外部委託先だと思っていることも多いので、根本的な原因に気づいてもらうまでに時間がかかる。

それは誰にでもあてはまる。
人のせい、社会のせいにしている方が楽だから。

経営者がこうなってしまっては、これからますます変化をする社会のなかで、存続することが難しくなっていく。お客様からも、スタッフからも選ばれなくなっていくだろう。


未来のために備えること

残念ながら、日本の多くは中小企業。そこで働く人たちは、労働者の99%を占める。中小企業も様々だし、全ての企業でハラスメントが起こっているわけではない。とは言え、息苦しさや、やりがい搾取されてる感を感じながら働いている人は多い。

中小企業の定義(中小企業庁サイトより引用)

生活のため、家族のためと、今は我慢するしかないと思っている人たちに、いずれくるであろう今とは違う未来のために、備えておいてほしいと思うのは、論理的な思考を、習慣化させること。

日本で育った人の多くは論理的に考えることが苦手なことが多い。
だからディスカッションが成立しにくく、今だに会議が会議の体をなしていない企業も多い。

これまではそれでも何とかなった。
良く悪くも、空気を読む、忖度するなど日本特有の企業風土のままで良かったが、外資が増えるであろう今後、なるべく快適に、スキルと可能性を存分に発揮して働ける環境を整える中小企業も、少しずつだが増えていく。

その時に備えて今やるべきは
 ●知識を身につけること
 ●学を得ること
 ●疑問を抱く ⇒ 調べる ⇒ 考える のサイクルをつくること

知識も学も、何ら荷物になることはなく、大学や大学院に行かなくても身につける方法が今はたくさんある。疑問を抱き、調べる方法も同じくたくさんある。

ただ、気をつけたいのは誰かの意見を鵜呑みにしないこと。
一つの疑問を調べる時は、それに関する複数の意見や考えを知り、さらに調べて自分で考え自分の答えを持つことが、これから必ず身を助けることになる。

フリーのコンサルタントではあるが、マクロとミクロの視点で社会を見て、独立、公平、平等のスタンスでクライアント企業に関わってきた経験から、そう思う。


※追記
これまで関わってきた経営者のリアルながらも、ほんの一面にすぎません。98%を占める中小企業が、日本を底から支えていたことも、日本経済をまわす一端を担ってきたのも中小企業経営者です。その功績は計り知れないし、真似できないこともたくさんあり、尊敬の念があることは加えておきます。

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