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NPO創業者が安心して代表職を交代するには~NPO経営の事業承継を考える

日頃、NPOやソーシャルベンチャーを経営する方にお会いすることも多いのですが、みなさん情熱的に仕事に向き合われていて、いつも話に惹きこまれてしまいます。最近では、代表職を退いて新たなステージに飛び込む方もいらっしゃり、そのアグレッシブさに驚くこともしばしばです。
今回は、その代表職の交代について考えてみました。

1.代表職交代で組織が抱える7つの課題

非営利組織では創業して10年目と25年目が、しばしば代表者が変わりやすいタイミングと言われています。組織として、交代を考えたときに直面する課題があります。

課題1:支援者との関係
NPOやソーシャルベンチャーの創業者の多くは、その情熱や考え方からカリスマ性を備え、多くの人を引き付けてきました。応援してくれる関係者や支援者の方も彼/彼女のファンであることがあります。そのため、代表が交代することで、組織としては多数の支持者を失う可能性があります。

課題2:知名度の変化
組織のイメージが創設者としばしば同義にされます。彼/彼女は、長年にわたって組織の顔をしてきました。そのため、交代後に組織としての印象や知名度が薄くなるかもしれません。

課題3:理事会の構成
理事は創業者によって依頼され、彼/彼女を応援する人で構成されていることがしばしばあります。そのため、交代時には承継プロセスを理事会としてサポートする熱意が乏しいかもしれません。

課題4:後継者の存在
組織の意思決定が創業者に集約し、後継者が十分に育っていない(またはいない)可能性があります。

課題5:組織運営のあり方
組織運営が創業者に依存し、その手法が属人化している可能性があります。
そのため交代後に、組織運営が停滞する可能性があります。

課題6:ファンドレイジング
創設者の存在感やネームバリューが資金調達(ファンドレイジング)に大きく影響しがちです。そのため、ファンドレイジングに苦労するかもしれません。

課題7:創業者の愛着
創設者は組織や事業への愛情が強く、交代後もよかれと思って過剰に関与し続けがちです。しかし、後継者のリーダシップを阻害し、組織の成長を妨げるかもしれません。

2.事業承継を円滑に行うための準備と実行時のポイント

創業者から後継者への代表交代(「事業承継」とも言われたりします)を安心して完了させるには、綿密な準備と手厚い交代期間が必要になります。

2-1.代表交代に向けて準備すべき3つのステップ

まず、準備についてみていきましょう。最低限必要な事項を3つのステップにまとめました。

STEP1:理事とスタッフからの協力を取り付けましょう。

理事およびスタッフ(必要に応じて外部招聘したメンバー)数名からなる「代表交代準備委員会」といったタスクフォースを立ち上げて、サポートしてもらえるような体制にすると、負担の分散ができます。さらに、積極的に関わり、交代後も支えてくれる理事(内部にいない場合は、外部から招聘)を委員長として、責任と権限を持ってもらうと、交代後も安定した経営を行いやすくなります。

STEP2:外部専門家を依頼しましょう。

財務(特に負債)の整理、引継ぎのための業務フローの整理やマニュアル化、関係者との最適なコミュニケーションなど、後述の計画書作成も含めて、効果的に行うためにアドバイザーとして関わってもらえる人を招聘しておくとよいかもしれません。

STEP3:後継者と一緒に「事業承継計画書」を作成しましょう。

移行時の課題(実務及び財務上の懸念点やステークホルダーとの関係性、メンタルヘルスなど)を抽出し、対応方法をスケジュールに定めます。ここでのポイントは、創業者の役割及び責任の範囲を徐々に狭めていくこと、業務上で接する関係者の範囲を徐々に広げていくこと(最初はスタッフや理事、次いで仕事上の関係者や助成財団、大口寄付者、といった具合に)。なお事業承継計画書の例としては、米国のFederal Reserve Bank of Kansas Cityの下記が有名です。
https://www.kansascityfed.org/publicat/community/nonprofit-executive-succession-planning-toolkit.pdf

通常は、ここまでを3-9か月間で進めます。

2-2.交代期間中に気を付けたいこと

事業承継計画書に沿って徐々に引継ぎを行います。このプロセスは通常1-2年で完了するように進めていきます。

この時のポイントとしては、以下のようなことがあります。

POINT1:後継者の自信を育て、リーダーシップを発揮するサポートを必ず行いましょう。

POINT2:創業者と後継者にそれぞれコーチングやメンタリングを依頼し、感情面のサポートを行いましょう。

POINT3:衝突を恐れず、放置せず、丁寧に解消していきます。
一般的に、創業者と後継者は「水と油」と揶揄されるように、両者が衝突することもあれば、後継者の事業方針や仕事の進め方に対してスタッフが反発することもあります。それは起こるべきものとして、時には外部者の協力を得て、丁寧に解消していきましょう。

もし後継者が外部者の場合は、9-12か月程度は理事やスタッフと密にコミュニケーションをとるポジションを用意して、信頼の醸成を図るようにしましょう。

一方で、失敗する例としてよく言われていることが、
・理事やスタッフの協力が得られない、もしくは一部に反対がある
・経営者が役割を越えての口出しが多い、または早期に離職してしまい何もしない
・経営者と後継者の、ビジョンや方針に絶望的な乖離がある
などがあります。

3.代表交代をチャンスに変える

代表の交代は、ともすればネガティブに捉われやすいものです。NPOやソーシャルベンチャーでは「代表の想い」が原動力になって活動を加速させることが多いため、ことさらそう思われがちです。しかし、実はこの機会をチャンスと捉えることもできます。

Chance1:組織運営力の強化
組織運営や各種プログラムを、今までよりもはるかに高いレベルに移行する絶好のチャンスとも捉えられます。属人化していた業務を平準化することで、効率性と効果性が高まるきっかけになります。

Chance2:理事会の強化
理事会を強化できるチャンスです。理事会が本来もつ役割であるガバナンスの強化につながるとともに、新陳代謝が進むことで、新たな経営資源を獲得し、組織内外にこれまでにない価値を提供できるようになります。

Chance3:ファンドレイジングの強化
ファンドレイジングの幅を多様化し、また強化できるチャンスです。創業者に依存した寄付集めから、持続可能な財務基盤を構築することができるようになります。

代表交代をネガティブに捉えず、組織がぐんと成長し、創業者にとっても、また後継者にとっても新たなキャリアとして可能性が拡がる、そんな素敵なことを多くの組織で起こしていきたいものです。

参考
『Replacing the Founder – Challenges and Opportunities for Nonprofits』
https://morancompany.com/replacing-founder-challenges-opportunities-nonprofits/

『Succession Planning for Nonprofits - Managing Leadership Transitions』
https://www.councilofnonprofits.org/tools-resources/succession-planning-nonprofits-managing-leadership-transitions

『Leadership Succession Model for a Nonprofit Board』
https://www.boardeffect.com/blog/leadership-succession-model-for-nonprofit-board/

『Executive Director/CEO Succession Planning for Nonprofit Organizations』
https://www.boardeffect.com/blog/executive-directorceo-succession-planning-for-nonprofit-organizations/

『Key Steps In Navigating The Succession Planning Process』
https://www.forbes.com/sites/forbeshumanresourcescouncil/2019/01/03/key-steps-in-navigating-the-succession-planning-process/#4c1975b857e2

『NPOの代表交代を憂うなかれ、新たな可能性と展開を広げるのだ!』
http://akimotoshoji.blog.jp/archives/51524994.html

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