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「伝わる」から「感じる」へ

同じ場所にいる感じ

昔から、ピカソでもダリでも、美術館に行くと、素描や習作に見入ってしまう。

同様に、音楽のデモ音源も、好物だ。荒削りな演奏、酔っ払っているかのような歌声に、スタジオ収録音源にはない、生々しさを感じる。

それらからは、すぐそこで描いていそうな感じ、すぐそこで歌っていそうな感じがして、作者と同じ場所にいる感覚になる。

それってすごくいいことだなあって、メディアに身を置いている者として思う。

これまでインフォグラフィックを使って、情報発信をしてきたのだけれど、インフォグラフィックはかっちりと作り込んだ成果物であるがゆえに、それを作っている僕と、受け取る人(読者)の間に距離を生んでしまうのが気になっていた。

郵便みたいに届ける人と受け取る人が、別々の場所にいるように感じるのだ。

「伝わる」から「感じる」へ

インフォグラフィックや図解に関する本を書いていることもあって、情報を伝える技術とかって文脈で講義やワークショップをする機会も多かったけど、「伝わる」とか「伝える」って感覚がちょっと古いと思うようになって、情報をもっと「感じる」ものにできないかと考えるようになった。

「伝わる」「伝える」というのは、発信者と受信者の構図ありきで、教師と生徒みたいにフラットじゃないので、一度それをなくして考えたいと思った。そうして、1年ほど模索した結果、たどり着いたのが「スケッチノート」。

スケッチノートは、手描きのイラストや文字で情報をまとめるノート型コンテンツ。絵日記とも近くて、インフォグラフィックと比べると私的なものなので、情報を伝えるという点では劣るかもしれない。でも、インフォグラフィックよりも、情報を感じる表現だと思う。手描きというプライベートなアウトプット手段から、描き手の存在を身近に感じながら、情報と接する。隣の席からのぞいている感じ。

生々しさを残す工夫

それで、スケッチノートに可能性を感じて、新しい本『たのしいスケッチノート』を書いた。スケッチノートに生々しさを求めただけでなく、執筆においてもそれを大事にしたいと思って、推敲する際も細かく修正したい箇所があった時に、できるだけ部分的に直すよりも、前後の文を含めて、まるっと勢いを込めて書き直すようにしていた。

その中でも「序文」と「あとがき」は、入稿ギリギリまで何度もゼロから書き直して書いたので、感情がこもった文章になっている。

せっかくなので、ここに全文公開する👇

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『たのしいスケッチノート』序文

チャットツールやSNSが絶え間なく通知してきて、いつでも情報に追い立てられているようで、落ち着きません。すでに一生かけても読みきれない本と、観きれない映画があるというのに、情報の山はうず高く積み上がり、なだれのように崩れてきます。きれいに分類してみたところで、すぐにグシャグシャになっていくことへの苛立ちと、「何か大事なことを見落としているんじゃないか」という不安が、僕たちを苦しめます。

Googleは「世界中の情報を整理してアクセスしやすくする」というミッションを掲げ、成功を収めているかのように見えても、情報にまつわるストレスは、解決するどころか増大しているようにも感じます。

少し落ち着いてものを考えたい。ひとつひとつの情報としっかり向き合いたい。コーヒーチェーンに対するカウンターカルチャーとしてサードウェーブコーヒーの流れがあったように、情報に対してもそうしたアプローチを求めてしまいます。ただ漠然と消費するんじゃなくて、味わいたい。

僕がスケッチノートに期待するのは、情報界のサードウェーブ。いちいち手描きするのも面倒だし、見る側も人のクセ字を読むのは骨が折れるんだけれど、温もりや安らぎを感じさせてくれる存在。非効率かもしれないけど、温度のある情報が増えたらいいのに──そう思うようになりました。

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『たのしいスケッチノート』あとがき

2010年に、Webサイト「ビジュアルシンキング」を立ち上げるのと同時にインフォグラフィックや図解の制作を始めて、もうすぐ10年が経ちます。同じ頃に生まれたのがInstagramやPinterestで、その後のこの2サービスの成長が示すように、オンラインの世界におけるビジュアルの存在感が大きく増した10年だったと言えます。さらには動画表現も5G導入で盛り上がりを見せていて、ビジュアルを使った情報表現の流れは今後も続いていくでしょう。

この10年の変化を支えたひとつが、スマホの普及と進化です。カメラが身近になり、人々はそれを使ってビジュアルで情報発信をするようになりました。ツールやテクノロジーによって、コミュニケーションはいつの間にか変化します。スケッチノートも例に漏れず、タブレット端末とスタイラスペンの使い勝手が上がったことで、「手描き」というとアナログ中心だったのが、デジタルでも誰もが描けるものになりました。今後、機械学習の研究開発が進んで、テクノロジーが自動で絵や文字を描いたり、情報をまとめることが当たり前のようになってくると、僕たちは否応なく「人間らしさ」とは何か?という問いと向き合う機会が増えるでしょう。

「人間らしさ」と一口に言っても、いろんな人が存在するので、より解像度を上げると、「自分らしさ」と言い換えることができます。それは無理に見つけるものではなくて、自然と内面から醸し出される佇まいのようなものです。佇まいは、表面的な行いからは醸成できません。一歩立ち止まって、自分と向き合ったり、物事を見つめることから生まれます。スケッチノートの一番の効能は、性急な超情報化社会において、ゆっくりと内省する機会をもたらすことにあるのではないかと思います。

本書を書くにあたっては、スケッチノートを表面的なハウツーとして扱わないように気をつけました。また一方で、実践の伴わない理念だけを語ったものにもしたくないと思い、思想書と実践書の混ざった本を目指しました。

そのためには、自分自身との対話だけでなく、他者との対話も重要でした。一年以上にわたり伴走してくれた編集者の村田純一さん、2018年3月に立ち上げたコミュニティ「ビジュアルシンキングラボ」のみなさんとの会話やワークショップを通じて得たインスピレーションのおかげで、本の形にたどり着くことができました。ありがとうございました。そして、書籍執筆のたびに、一年ほど部屋にばかりいて外に出たがらなくなる僕をそっとしておいてくれる家族にも感謝しています。

2019年10月 櫻田潤

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そして本日、発売に至りました。あらためて、協力いただいたみなさんに感謝🙌


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インフォグラフィック・エディター/ソーシャル・エディター🦓NewsPicksで働きつつ、個人でも活動中。サイト『ビジュアルシンキング』運営。コミュニティ『ビジュアルシンキングラボ』主宰。📚著書に『たのしいインフォグラフィック入門』『図で考える。シンプルになる。』 ほか。