マガジンのカバー画像

僕のひこうき雲

197
とある広告会社の総務部に勤務するしがない中年男です。このまま化石になりたくはないと日々足掻いています。
運営しているクリエイター

#家族

僕のひこうき雲    14(揺れる手術への決意2)

僕のひこうき雲    14(揺れる手術への決意2)

某月某日

週末なので、今日は息子も自宅で一緒に過ごしている。

妻の今後の予定は、週明けの月曜日には手術前のMRI撮影と麻酔科検診があり、木曜日に入院し、金曜日に手術とされているのだが、未だに手術を受けるかどうか、僕ら家族の意思を固めることはできない。

妻は、身体の不調のポイントは貧血であると思っている、専門家の意見がすべて正しいと思うの?と僕に問いかける。

今回初めて倒れた原因はてんかんな

もっとみる
僕のひこうき雲   13(近況:外泊)

僕のひこうき雲   13(近況:外泊)

先々週から妻は外泊許可をもらえるようになり、週末は自宅で過ごしている。

家族三人で過ごせる週末を楽しみに、妻も息子も僕も、日常生活を乗り切るようにしている。

本記録は、自分が積極的に生きているか、意志を持って日常を送れているかを振り返るために始めた。

しかし、週末は、一時帰宅できるという始まりの幸福感と、病棟に戻らなければならない終わりの現実感があるため、両者の狭間で、否応なく24時間家族生

もっとみる
僕のひこうき雲   12 (揺れる手術への決意)

僕のひこうき雲   12 (揺れる手術への決意)

某月某日

妻と手術の話し合いに時間をかけている。

先日、縁あって、妻の昔からの知り合いである足裏マッサージ師の方が、遠路はるばる東京から大阪までお越し下さり、施術を受けることができた。

その方は常に生きる力にみなぎり、博識で、自然と周囲に人が集まる方だが、施術をしながら、「手術は受けなくてよいのでは」との言葉を何度も妻に投げかけていた。

施術後になって、あまりに軽く無責任な言葉に、妻のこと

もっとみる
僕のひこうき雲 11(近況:入院中の妻を愛しく思うとき)

僕のひこうき雲 11(近況:入院中の妻を愛しく思うとき)

現在も入院している妻を愛しく思うとき

看護師さんが用意してくれた簡易用のゆるいニット帽から、僕が買った黄色のニット帽に着替えて、病室でとびきりの笑顔で僕を出迎えてくれるとき

普段は左手足のリハビリのためにひとりで服や靴を着脱することを頑張っている妻が、僕には時々甘えてくれて手伝うことを許してくれるとき

雨の日に、今日は無理して来なくていいよ、と気遣うショートメールを送ってくれるとき(必ず会い

もっとみる
僕のひこうき雲   10

僕のひこうき雲   10

某月某日

昨夜、妻が朝食後と夕食後に服用している、痙攣どめの薬が不足していることに気付いた。

慌てて昨夜中に病院に連絡したところ、退院時に次回外来時か入院時までの薬を処方し忘れた病院側の不手際なのだが、夜間に薬の調剤は対応しておらず、明日脳外科の受付に来てくださいとのことだった。

明日の朝食後服用分まではあるので間に合うため、言いたいことは山ほどあるが、無用なやり取りはせずに電話を置いた。

もっとみる

僕のひこうき雲  9

某月某日

今日は、主治医から手術についての説明を受け、その後CT撮影を行うために病院に向かった。

主治医からは、手術方法について、具体的な説明をもらった。

僕自身は、妻が受ける手術だから具体的に内容は知りたかったし、知る必要もあったが、隣にいる妻には酷だった。

こうして文字にして振り返るのは、自分が今を積極的に生きているのかを確認するためなのだが、今でも動悸を自覚するし、歯を食いしばって自

もっとみる
僕のひこうき雲   8

僕のひこうき雲   8

某月某日

朝は午前5時に起床する。

まず、洗面台でぼさぼさの髪を水で押さえつけながら歯磨きをして、傍にある洗濯機のスイッチを入れる。

その後、仏壇のお水を取り替えて、お線香を焚いて手を合わせる。今日一日の家族の無事をお祈りする。

その後、寒さに手を擦り合わせながら、極寒の台所に向かう。

まずお湯を沸かす。

湯が沸いたらお茶を入れて、まず妻のポットに注ぐ。その後自分のコップにも注ぎ、一口

もっとみる
僕のひこうき雲   7

僕のひこうき雲   7

某月某日

妻が一時退院してくれた。

今後は、手術に向けて、未だてんかんが起こる可能性がある妻の容態に気を配りながら、生活に関わる各所について対応を相談していかなければならない。

まずは勤め先の会社に連絡した。

事情を説明して、有給消化後は介護休業を取得させていただく旨の了承いただいた。

今回、介護休業の取得というわがままを聞いて下さった会社の皆様には本当に感謝している。

介護休業給付金

もっとみる
僕のひこうき雲   6

僕のひこうき雲   6

某月某日

今日、妻は一時退院となる。

救急搬送されてから五日、

その日その日を、妻の容態を案じながら病院に通い、家ではできる限り息子に寄り添い、慣れない家事をこなし、関係各所に連絡をしながら過ごした、嵐のような五日間だった。

これからは手術に向けてスケジュールが動き出すことになる。

来週前半に再度MRIを撮り、来々週に麻酔科を受診し、その次の週に手術を受けるため約二週間の入院する。

もっとみる
僕のひこうき雲  5

僕のひこうき雲  5

某月某日

主治医の先生、脳外科の部長先生から、先日から妻が頑張ってくれて、いくつもいくつも行われた画像検査をもとに、病院としての治療方針の説明を受けた。

はじめに主治医の先生より画像検査での病院の診断は脳腫瘍(神経膠腫)であることが告げられた。

続いて部長先生から、脳腫瘍には他の癌のようなステージ分類はなく、良性、悪性はいずれも期間の問題であること、つまり良悪問わず、このまま放っておけば白い

もっとみる
僕のひこうき雲 1

僕のひこうき雲 1

某月某日

私は広告会社の総務部に勤務している、ごくごく普通のサラリーマンである。

その日は中途採用に関する資料作成のために、朝から社内を走り回っていた。

慌しく各部署との折衝を行っていた昼前、携帯に中学二年生の息子から着信があった。

「お父さん。僕。」

「うん、どうした?何かあった?」

「お母さんが倒れて、いま救急車の中にいるの。」

「えっ?」

息子からの突然の電話に即座に状況を飲

もっとみる

僕のひこうき雲  4

某月某日

消極的な感情は無視され、否応なく時間は流れ始める。

僕達は日常生活を始めなければならない。

今日から息子(中学二年生)に登校を再開してもらった。

妻の病院にはお昼過ぎには到着して、何ができないかもしれないが、どうしても気持ちが不安定になりがちな妻の側についていたくて、必然的に午前中に家事や事務作業を集中させなければならないことになる。

朝はまだ夜が明けない午前5時前に起床する。

もっとみる