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(後半) なぜ、職域開拓は難しいの?

障害がキャリアを積む上で”障害”にならない社会をつくる会社Connecting Pointの阿部です。

後半では、「なぜ、職域開拓は難しいの?」という問いの前提として、
私が考えていた社会福祉学の実践をご紹介したいと思います。
その上で、日本の障害者雇用の"今"を振り返り、
"これから"を考えていきたいと思います。

私が、問いの前提に考えた社会福祉学の実践は、
「ソーシャル ロール バロリゼーション(Social Role Valorization:社会的役割の実践)」です。

1983年にアメリカでノーマライゼーションを発展させた「ヴォルフ・ヴォルフェンスベルガー(Wolf Wolfensberger)」が提唱した概念であり、
社会的にマイノリティな立場にいる人たちが、
保護や哀れみの対象として、一般市民から認知されるのではなく、
社会的意識の面で一般市民と対等な立場となるように、

社会福祉サービスが、留意すべき点が記されています。(下記)

①適切なサービスの「場」の設定
例:人通りのない山奥にある障害者入所施設は、「障害者」への更なる偏見を強めないだろうか?

②同質集団の集団的処遇ではなく、一般の人と同じようにサービスを利用するようにすること
例:障害のある人だけが就労支援の場/作業所等。区別することで助長される「偏見」はないだろうか? ユニバーサルデザインなサービスの提供。

③意義のある生活リズムの保障
生きがいを感じられる日々、自分らしく、楽しみを感じられる一日一日を地域の中で送ることが出来ているだろうか?

④肯定的・ポジティブなイメージをもつ呼称/サービス名称を用いること
例:より多くの支援を必要とする障害のある人が利用する「生活介護サービス」。
若年層の障害のある人も多く利用しているが、「介護サービス」という名称から、高齢者のデイサービスを彷彿させる余地はないだろうか? 
「生活介護サービス」を利用している障害のある人の中には、1日1杯分のコーヒー豆を焙煎して事業所のカフェ事業に貢献している方もいる。「居場所」だけではなく、その人らしい「働き方」が「生活介護サービス」の場にもあることを連想できるサービス名称だろうか?

⑤体験の増加による適応力(総合的生活能力)の向上
例:福祉施設で、毎日、同じようなサービスメニューが提供された場合、新鮮さに欠ける毎日を送る人たちは、「経験不足症候群」に陥っていないだろうか? 可能性に蓋をされていないだろうか?

こうした日々の社会福祉サービスの取り組みと、実践の振り返りが、
社会の偏見や誤った見方によって社会的に価値が奪われた状態にある
Socially Devalued Role の人たちを、
Socially Valued Role な人たちへと、
エンパワーし、社会の認知を変革していくとヴォルフェンスベルガーは唱えているのです。

しかし、この実践は、きっと「障害者雇用のこれから」を考える上で、
私たちに何かしらのヒントを与えてくれるものだと思いませんか?

以下に考えてみようと思います。
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適切なサービスの「場」の設定
=適切な就労場所の確保
例えば、障害のある人が働く執務スペースが、他社員の目には触れないオフィスビルの「地下室」に用意されていた場合、「地下室」&「障害者雇用」の組み合わせから連想される「障害のある人」へのイメージはポジティブなものだろうか?

同質集団の集団的処遇ではなく、一般の人と同じようにサービスを利用するようにすること
=障害のある社員もない社員も、混ざり合って働く場
日本では、障害者雇用を進めるにあたって、特例子会社の設立や障害のある人がメンバーとして多数働く社内チームを組織することが多いですが、障害のない社員は、その区別された就業環境から「障害のある人と対等な立場で、ともに働いている感覚」を抱けるのだろうか? 障害のある人への理解と共感に基づき、”違い”を尊重する風土は生まれるだろうか?

意義のある生活リズムの保障
=やりがいのある仕事の保障
障害者雇用枠で働く社員は、日々の仕事を通じて、お客様や他社員のお役に立てていると実感出来ているだろうか? 少し難しい仕事に挑戦できるような環境はあるだろうか?

肯定的・ポジティブなイメージをもつ呼称/サービス名称を用いること
=社内における障害のある「社員」の呼称、障害のある社員が働く「場」や「チーム」の名称、障害のある社員をサポートする「支援者」の呼称等に対する配慮
例えば、障害のある社員が働く場を「なかよしファーム」とした場合、障害のない社員に対して、「障害のある人と”対等”に働く」というメッセージを与えることは出来るのだろうか? 障害のある社員を子ども扱いしていないだろうか?

体験の増加による適応力(総合的生活能力)の向上
=成長実感を得られる仕事/機会の提供
障害のある社員が、少し背伸びをした個人目標に向かって、周囲のサポートを得ながら頑張ってみようと思える環境はあるだろうか? または、社内で自らのキャリア開発を振り返り、考えるような機会はあるだろうか?
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こうした一つ一つの取り組みと、実践の振り返りが、
障害のある人が、職場内で体験する機会の幅を広げ、
一人ひとりの能力と可能性を開花していくきっかけ
になるのだと思います。

そして、

障害のある社員が、多様な”体験”を積み重ねることで、

職場へのエンゲージメント:「やっぱり私は、この会社で働き続けたい!」

を高めていく。

そのプロセスにおいて、

障害のある人も、職場内で様々なチャレンジをし、
社会人として活躍する「自信」を手に入れたとき、

障害のない人と対等な関係の上に成り立つ
インクルーシブな職場づくりに繋がるのだと思います。

もちろん、日々の実践だけでなく、
前提となる社会システム(法定雇用率や特例子会社を含む障害者雇用制度・分離教育を主とする日本の教育制度等)によって、
障害のある人に対する「私たちの偏見」や「誤った見方」
が強められてきた側面も否めません。

しかし、だからこそ、障害者雇用に関わる人や、関心を寄せる人たちが、
前例踏襲のスタイルで、障害者雇用に取り組むのではなく、
これまで当たり前と認識されている日本の障害者雇用システムや
職場における障害者雇用の位置づけについて、今一度、振り返り、

私たちが、無意識に蓋をしてしまっている人の可能性はないだろうか?

と、自らに問いかけながら、職域開拓をしていけば、

いつか

「障害のある人を雇用するにあたって、職域開拓が難しい…」

という意見を聞かない社会が訪れるのではないかと思います。

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