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GOOD BYE APRIL『もうひとりの私』ライナーノーツ。/ 新曲「サマーレインと涙の跡」と「人魚の鱗」のことも。

GOOD BYE APRILは今年結成10周年。ということで、コロナ禍にあってもいくつかの動きを見せている。

4月には初期の2つのミニアルバム『夢見るモンシロ』(2012年)と『もうひとりの私』(2013年)を配信リリース。5月からは6ヶ月連続で新曲を配信するシリーズがスタート。また8月には初の7inchアナログ盤「木綿のハンカチーフ / リップのせいにして」発売に伴いRECORD STORE DAY2020参加。こんな世界状況であってもこうして動きを止めない彼らを感じることができるのは、ファンにとっては嬉しいことであるはずだ。

とりわけ5月に始まった6ヶ月連続配信は、現在進行形のGOOD BYE APRILを強く感じることのできる好企画。5月6日に第1弾の「サマーレインと涙の跡」が、6月10日に第2弾の「人魚の鱗」が配信リリースされ、7月上旬に第3弾の配信が控えてもいる。

昨年10月の4thミニアルバム『I MISS YOU SO LONG』は、倉品翔がソングライターとしての自分に深く向き合って制作したもので、特に彼のセンチメンタリズムが強く反映された曲ばかりを収録。「自分にしか書くことのできないメロディを書くということ」に徹底的に拘って作られた、完全に倉品主導の作品だった。

あのミニアルバムで自身の内面に向き合い、自分らしさとは何かを突き詰める作業をしたことで、彼のなかでひとつの決着がついたのだろう。だから気持ちとして、今度はもっと遊びたくなった。冒険したくなった。開かれた気持ちで、自分(たち)らしさに拘り過ぎることなく曲を作りたくなった。もっと外の風に吹かれたくなった。

新曲「サマーレインと涙の跡」と「人魚の鱗」を聴くと、そういう現在の彼(とバンド)のモードがビンビン伝わってくる。

「サマーレインと涙の跡」をまず聴いたとき、「おっ!」と思った。嬉しい吹っ切れ感があった。いきなりシンセ音で始まり、打ち込みのビートが鳴りながら進んでいった。そのエレクトロニックよりのサウンドがなんたってフレッシュだった。ポップスにおいて、フレッシュであることは何よりも大事なこと。なんなら「いい曲」であることよりも「フレッシュな曲」であることのほうが、重要度が上にくる(ただの「いい曲」なんて面白くない)。それがポップというものだ。

そういう新しいサウンドに挑戦しながら、しかしもちろん倉品くんの歌を真ん中にして、APRILらしく爽やかでメロディアスなポップスに仕上げていた。それはめちゃめちゃ風通しがよく、初夏を感じさせるポップスだった。


続く第2弾の「人魚の鱗」もまた新しいサウンドを纏っていて、その響きがまずは新鮮だった。その上メロディ展開は「サマーレインと涙の跡」よりも動きがあり、自分的にはよりツボに入るものだった。そのメロディには昭和感というか、例えば杏里だったりオメガトライブだったりといった夏向きのシティポップを想起させる”爽やか切ない”というような感覚があった(27日の初の配信ライブでこの曲のときに倉品くんが80年代っぽいサングラスをわざわざかけたのは、あの頃の杉山清貴オマージュでもあったのだろう)。

エレクトロニックなサウンドと、昭和感ありの“爽やか切ない”メロディ展開。そのバランスが実にグッドで、これぞまさしく彼らが標榜するネオニューミュージックであるなと、そう思った。それは例えば、Night TempoがDJで打ち出していることともそう遠くないもので(Night Tempoが昭和の歌謡曲のなかにこれを挿しこんでかけても違和感なさそう)、またサカナクションが「忘れられないの」でトライした試みにも通じるもの。そういう意味では”今っぽい”曲であり、APRILの楽曲のなかでは珍しく時代とリンクした曲とも言えるだろう。

延本文音の手による歌詞もいい。根っこに哀しみがあり、その裏腹の気持ちとして美しかったあのときの夏に想いを馳せている。えんちゃんの歌詞においての夏は過ぎ去った夏なのだが、倉品くんのメロディとヴォーカルはそんな郷愁と共にまさにこれからくる新しい夏も予感させるようで、そのふたつの合わさりの塩梅がとてもいいのだ。会心の1曲であると、そう思う。

さて、新しい2曲の感想を書いたところで、時代をぐっと遡り、今日は2013年に彼らが発表したミニアルバム『もうひとりの私』のライナーノーツをアップしよう。

先にも書いたが、4月に『夢見るモンシロ』(2012年)と『もうひとりの私』(2013年)が配信でリリースされた。どちらもCDは廃盤になっていたのだが、これで改めて誰でも聴くことができるようになったわけだ。

この2作に関しては、CDリリース時にライナーを書いた。それを今回の配信にあたって改めて読んでいただきたいと思い、ここにアップすることにした次第だ。

『もうひとり私』は上田健司(ベーシスト/プロデューサー)のプロデュースで作られた意欲作。外部プロデューサーを迎えて作られたAPRIL唯一の作品でもあり、それを通して学べたことは多かったようだ。

MVも作られた初期代表曲「パレードが呼んでる」、彼らのなかではずいぶん大人っぽい印象があった「ブルー・ライト・ブルー」などを収録。えんちゃんの手によるジャケ(と裏ジャケ)もいい。

『もうひとりの私』ライナーノーツ

 空気の清んだ早い朝。GOOD BYE APRILの2nd Mini Albumの音が届いたので、さっそく携帯型デバイスに入れ、イヤホンで聴きながら近所の緑道を歩く。1曲目「パレードが呼んでる」の軽やかなピアノの音につられて知らずと早歩きになり、気がつけば走りだしている自分がいた。弾むメロディがカラダを軽くし、木々の緑はいつもより鮮やかに見える。こんなに気持ちのいい天気の朝にこんな音楽が流れていたらきっと、音痴を恥じていた王様だって表に出てくるんじゃないか。そんなことを考えて走りながら、ぼくは季節の移り変わりを実感していたのだった。

 いつのまにか季節が変わっていたように、気づいたらGOOD BYE APRILも新しい季節を迎えていた。勝手にどこからか新しい季節がやってきたわけじゃない。4人は新しい季節をちゃんと呼び込むための取り組みをここしばらく続けていたのだ。と、そう思った。

 言葉。メロディ。音。その選び取り方に妥協がない。曲の着想を得たときの気持ち(衝動)を少しも殺さず、いかに普遍性を獲得できるか。そのことに真摯になり、丁寧にじっくり磨いていったメロディや言葉たちなのだということがわかる。なぜそうするのかといえば、そうじゃなきゃ世の中に対して声をあげられないから。戦うことは好きじゃないけど、でも負けも弱さもよく知っているひとりとして自分(たち)なりの勝利宣言を声にしたい。そうした思いが純粋に音楽を奏でる喜びと相まって、その取り組みに向かわせるのだろう。

 若さは強みだがあっさり弱みにも反転する。ピュアである美しさは動かし難くあるが、それを「青いね」と笑う人もいる。だけどピュアであることの尊さを信じているから……信じたいから……忘れてどこかに置いたまま大人になることにはどうしても抵抗があるから……それをちゃんと主張するために4人は言葉もメロディも音も磨くのだ。それは自分(たち)との戦いでもあるが、徹底してそれをやっている彼らは崇高にも思える。
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 収録された6曲全て、フロントマンの倉品翔が作曲を手掛けている。練られた展開のメロディばかりだが、同時にどれも瑞々しい。歌とサイドギターに加え、今作では彼のピアノがまた心の温度の上昇効果を担っている。ヴォーカリストとしての成長が如実に見て取れる曲をひとつ挙げるなら、やはり「ブルー・ライト・ブルー」になるだろうか。“僕”ではなく“私”としての想いをはっきり「愛」と意識した上で延本文音が綴ったその歌詞を、倉品はエモーショナルになり過ぎぬよう、静かに気持ちを込めて歌っている。故にジワジワと沁み入ってくるこの曲は、これまでの彼らのファンより少し年上の層にも浸透していくに違いない。

 ベースの延本文音は、今作ではこの曲を含む5曲の作詞を担当(「te to te」は倉品との共作)。前作から驚くほどにスキルと言葉選びのセンスをあげ、情景描写と感情描写(または抽象と具象)のバランスも絶妙だ。傷みと向き合い、それでも必死に何かを掴み取ろうとのたうちまわる、その様が例えば「かくれんぼ」や「バイタルサイン」の歌詞から見て取れる。もちろん本能的なベースも健在だ。

 つのけんのドラミングは、定評のあったパワー・ドラムだけでなく、むしろニュアンスに富んだ表現が今作では多くされている。ある種の柔らかさも獲得したようで、それによっていくつかの曲にまろやかさが加味された。

 ギターの吉田卓史はさらに色彩表現の幅を広げている。曲によって静かに揺らめく炎のようだったり、寄せては返す波のようだったり、吹き荒れる風のようだったり。空間を作ったり、ザクッと切り込んだり。

 このようにメンバー全員が前作からの数ヶ月で新しい何かを掴み取り、それを曲群に反映させている。プロデューサーは上田健司(PUFFY、GOING UNDERGROUND、長渕剛、ももいろクローバーZ、ほか)。4人の潜在的な能力を最大限に引き出し、バンドの世界観を大きく、かつ深くしているのがさすがだ。

 喜びを共有して歩き始めた4人が、もどかしさや苦しみや傷みを知り、その上で「ここから」と決意を新たにしている……これは言わば大人になるためのアルバム。“もうひとりの私”を知り、それとどう折り合いをつけるか考えながら、人は、バンドは、成長する。

                        (2013年4月、内本順一)

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