とんねるず@日本武道館
2024年11月9日(土)
日本武道館で、とんねるず。
ライブのタイトルは「とんねるず THE LIVE」。
木梨憲武……ノリさんがYouTube「RED Chair」のインタビューで、「今後、とんねるずの活動はどう考えていますか?」という質問に対して次のように真剣に話していたのは2年半くらい前だったか。
この動画を見たときの胸の高鳴りは今も覚えている(その興奮を定食屋でツイートしたくらいだ)。石橋貴明……タカさんがどう考えているのかは計り知れなかったが、少なくともノリさんは「とんねるずのライブ」をやりたいと思っている。いつか実現するかもしれない。しないかもしれない。してほしい。してくれるんじゃないか。
その週末だったかに妻のクルマで出掛けたときには、もしとんねるずのライブが実現したとしたら何の曲で始まるだろうか、本編最後は何の曲で、アンコールには何の曲をもってくるだろうか……そんなことをふたりで話して、やたら盛り上がってしまった。「1曲目は何だろう?」「何だったら嬉しい?」「どの曲で始まったら一番盛り上がるかなぁ?」……。何曲か言い合って、ふたりともが「これだったらいいね」と同意し合ったのがこの曲だった。「情けねえ」。その場面、景色を、ふたりで想像し合った。電気が落ち、数秒の沈黙時間があって緞帳が上がると、そこにふたりが少しの距離を置いて立っていて、いきなりこのフレーズ……「なーさけねえー」と歌って始まる。「それ最高でしょう!!!」「なんか泣けちゃうね」とふたりでその状態を想像してはしゃいでいたら本当に涙が出てきてしまって、「やべえ涙出てきた」と言ったら妻が「私も」と言い……そう、僕たち夫婦は「とんねるずがライブをやってくれたとしたらどの曲で始まるだろうか」の「想像」だけで楽しくなって盛り上がって嬉しくなって泣いてしまったのだった。ばかだ。
そこから2年くらい、とんねるずの復活話は特に何もなく、やっぱりタカさんは「うん」と言わなかったのかなぁ……などと時々考えていたところ、今年の春だったかに突如届いたのが「とんねるずが武道館でライブをやる」という報せだった。「キタ~~!」ってなもんだ。何が何でも観たい。しかし武道館2days。チケットは獲れるだろうか。いくら休止期間が長かったとはいえ、というかむしろ長かっただけに、このときを待っていたという人は大勢いるはずだ。チケット獲得は相当の倍率になるだろう。やがてチケットに関する情報が発表され、どうやら前売りの抽選販売の初っ端がぴあカードのプレミアム会員の資格を持つ人のみということだったので、このためだけに僕は会員となってカードを作り、応募した。日にちと席種を第3希望まで書く欄があったので、第1と第2を両日のS席にして第3希望を土曜のA席にした。結果、第3希望のA席が当選となった。Sではないが、とにかく獲れたことが嬉しかったし、ホッとした。実際、チケットは当然のことながら即完。とんでもない倍率だったようだ。
そうして迎えた公演当日。ふたり揃ってステージに立つのは実に29年振りの、待ちに待った「とんねるず THE LIVE」。果たしてその1曲目は…………「情けねえ」だった!!!!
せり上がりでステージに登場したふたりは、真っ白な衣装で少し間隔をあけて立ち、動かぬままおよそ1分(そのときのノリさんのポーズはマイケル・ジャクソンのよう)。そして無伴奏(イントロなしの曲ゆえ)のなか、ふたりの揃った歌声で……「なーさけねえー」。9000人の観客たちが一斉に興奮と喜びの声をあげ、僕と妻もよくわからない声をあげて思わず抱き合った。緞帳こそなかったが、ほぼ僕たちが想像していた通りの景色がそこにあった。なんだか夢みたいだった。
その1曲目「情けねえ」の終盤では金テープもバーンと放たれた。「最後の曲みたいだね(笑)」と妻につぶやいたら、歌い終わったふたりはそのままステージからはけてしまい、「以上を持ちまして、本日の”とんねるず THE LIVE”は全て終了でございます。ご来場いただき、誠にありがとうございました」というアナウンスが。いきなりの大ネタぶっこみ。今まで考えた人はいたかもしれないけど誰もやらなかった(やれなかった)演出。観客たちは笑いながら「アンコール」の声をあげて手を打ち、そうして数分経過したところでようやく全身黒の衣装に着替えたふたりが出てきて、アンコール……というか2曲目「みのもんたの逆襲」の演奏が始まった。
2年前の僕たちはクルマのなかで、1曲目はきっと「情けねえ」じゃないかと話しながら、「いや、でも、あの曲は本編最後かアンコールでって可能性もあるんじゃ?」とも話していた。そういう重要曲であることは間違いなかったし、だからこそ『とんねるずのみなさんのおかげでした』の最終回(2018年3月22日)で歌われたのだ。タカさんは、公の場で歌をうたったのは、その2018年3月22日が最後だったと言っていた。「そのとき、自分が歌うのはこれが最後になるんだろうなと考えていた」とも。これはあくまでも自分の想像に過ぎないが、初めはその曲を本編最後かアンコールにもってこようとタカさんは考え、だからその曲で金テを飛ばすことも考えたのではないか。けれども2018年3月22日放送のそれがある意味とんねるずの終わりの曲だったなら、やはりもう一度の始まりの曲もそれにしないわけにはいかないという気持ちになったんじゃないだろうか。
と、この調子で順を追ってライブを振り返ると、この文章はとめどのないものとなる。ライブレポート的な記事が既にいくつかネットにアップされているので、ライブのあらましはそれらを読んでいただきたい。
以下、改めてこのライブの感想をざっと書いていくが、その前に。自分が初めてふたりをテレビで見たのは『お笑いスター誕生!!』に貴明&憲武の名前で出ていたとき(1980年か81年あたり。グランプリを獲得したのは82年4月だった)。だが衝撃だったのはやはり『オールナイトフジ』初期のレギュラー出演だ。何より彼らのコーナーを楽しみに見た。鮮烈だった。音楽で言うならセックス・ピストルズのように、彼らはそれまでのお笑いのあり方・スタイル・常識をぶち壊していった。痛快そのもの。お笑いの世界にもピストルズみたいにそれまでの価値観が古く思える、そういうやつらが出てきたと僕は思った。やがてとんねるずは「一気!」でレコードヒットを出し(オールナイトフジではその曲の途中でタカさんが千数百万円のテレビカメラを倒し)、85年3月に1stアルバム『成増』を発売。レンタルの友&愛でそれを借りて友達と聴いたらいきなり「ダビングすんじゃねーよ!」の声が聴こえて、驚きつつ笑い合ったものだった。以来、今に至るまで、所謂お笑いを軸とする人たちで僕がもっとも好きでいたのがとんねるずだ。因みに、妻が生まれて初めて自分で買ったチケットでコンサートを観に行ったのは高校のときで、それがとんねるずだったらしい。
そんな僕たちにとって本当に待ちに待ったのがこのライブであり、そして結論から書くとそれは、こういうとんねるずを観たいと思っていた僕たちの期待に300%応えてくれる内容だった。大満足。大感動。とんねるずと同じ時代を生きていてよかったと、そう思ったほどに。
ライブは、とんねるずの「音楽」を好きだった人たちを完全に満足させる内容だった。セットリストも、とんねるずの「音楽」を聴いてきた人たち、所謂ヒットシングルだけでなくアルバムも聴いていた人たちを完全に満足させるものだった。今振り返っても不満だった点が何一つない。パーフェクトだ。
彼らが声をかければどんなゲストだって喜んで出るだろうが、へたげにゲストをまじえて単ににぎやかなライブになるのは嫌だなと思っていたところ、最後まで誰も出なかった。矢島美容室はともかく野猿の再結成はなくもないかなと考えていたのだが、それもなかった。全編、ステージにいたのはとんねるずのふたりとコーラス隊を含むバンドメンバーだけ。演奏されたのは、とんねるずの楽曲だけ。ユニットの曲も、ソロ曲も、一切なし。コントを挿んだりも一切せず。MCでさえも想像よりずっと少なく、控えめだった。唯一の笑い的演出が先述した「情けねえ」1曲でひっこんでライブ終了のアナウンスが流れたあの場面で、それ以外はただただ「とんねるずの音楽」をしっかり届けるというものだった。それがよかった。それが素晴らしかった。
そういうライブにしようというのは、タカさんが考えたことだった。購入したパンフレットのなかのインタビュー「独白、石橋貴明。」に書いてあった。「今回のライブ、歌の時間が長いんです」「ワンフーが座るタイミングがなくて(笑)。それなのにたくさん喋りすぎてしまうと、観ている側はきついしーー」。音楽監督にとんねるず楽曲に多数関与してきた後藤次利を指名したのもタカさんで、その後藤氏のインタビューでは、正式に音楽監督としてのオファーを受けたのが昨年11月頃で、まずはふたりでライブのテーマを決めることからスタートしたと明かされている。選曲と曲順にはかなりの時間をかけたそうで、最終的にセトリが決まるまでに約半年を要し、最後のジャッジはやはりタカさんがしたという。因みにどういうセトリになっているかをノリさんが知ったのはライブの1週間前だったようだ。前々からセトリをわかってそれに備えるのではなく、直前に合流して短時間で合わせることでノリさんの爆発力が本番で発揮されることをタカさんもノリさん自身もわかっているからだ。凄いな、ノリさん。タカさんも。本当に。
バンドメンバーは、後藤次利(B)、阿部薫(Dr)、今剛(G)、大西克巳(G)、松本圭司(Piano)、井上薫(Piano)、藤井尚之(Sax)。2階からでも今剛のことは髪型ですぐにわかって「おおっ!」となったし、今剛と大西克巳のダブルギターは聴きものだった。また尚之がここにいたのも多くの観客にとって嬉しかったことだろう。メンバー紹介の際には「みなおか」でお馴染み、チェッカーズ「ONE NIGHT GIGOLO」のサックスによるイントロ部分からの「Kill you!」でノリ男の頭ハタきも再現され、みんな大盛り上がりだった。また九段下ガールズと名付けられたコーラス隊(佐々木詩織、二宮愛、オリビア・バレール)も厚みありの歌声を聴かせていた。
セトリは、基本的には2曲目から10曲目までがアルバム収録曲。86年の主演ドラマ『お坊ちゃまにはわかるまい!』の主題歌だったシングル曲「やぶさかでない」もそのなかでやってくれたのは嬉しかった。「天使の恥骨」のあのフリもみんなで一緒に。一方「After Summer」はけっこう意外な選曲で、おおっ! これやるか!となった。そして後半11曲目以降はシングル曲・代表曲を連発。「雨の西麻布」「歌謡曲」「人情岬」と昭和歌謡~演歌方面の曲を3曲並べたのもよかったし、「一気!」「嵐のマッチョマン」「炎のエスカルゴ」「がじゃいも」とアップナンバーを4曲続けたセクションは最高の盛り上がりを見せた。2024年の今、アウトとされている「一気!」でみんなで盛り上がれるのは痛快な気分だったし、「嵐のマッチョマン」のディスコなあり方はむしろ今だからこそかっこよくてノレた。ディスコ好きだったふたりにディスコナンバーは最高に合うのだ。「炎のエスカルゴ」では前にいた男性客がここぞとばかりに持参のホイッスルを吹き鳴らしていた。「がじゃいも」は当時は子供向けの曲とナメていたのだが、ビートはスカ的なもので想像以上にこれも楽しめた。
そうして盛り上げるだけ盛り上げた4曲のあと、一息入れて始まったのが屈指の名曲「迷惑でしょうが…」だったのでもうたまらなかった。もちろんこの曲は後半のどこかで歌われるのだろうと予想はしていたが、それでもふたりの歌が胸に染み入りすぎ、映された歌詞を目で追いながら聴いたこともあって涙が溢れ出てきてしまった。「前略 八代亜紀の唄っていうのは本当に哀しいわけで……」。その八代亜紀も今はもういないんだなと思いながら横を見ると妻も泣いていた。
次の「どうにかなるさ」を歌う前には、タカさんは「大好きだった伊集院静さんにこの曲を捧げます」と言った。ふたりが出演していた1990年のドラマ『火の用心』(脚本は倉本聰)の主題歌で、作詞の伊達歩は伊集院静(昨年死去)のペンネームだった。因みにタカさんが北海道の倉本聰の自宅を訪ねて「ドラマに出してほしい」と直談判した…という逸話があるが、『前略おふくろ様』をリファレンス元とした「迷惑でしょうが…」から「どうにかなるさ」へと続けたところには、そうしたタカさん自身のドラマも含めた意味性があって、それを思いながらグッときた。『火の用心』、また見たいな。どっかで見れないかな。
次の「おらおら」ではコール&レスポンスもあり、そして本編最後にはちょっと意外で「こうきたか」という曲を持ってきた。92年のアルバム9作目『がむしゃら』収録の名曲「セブンスコードを天国にくれ」だ。これも勝手な想像だが、タカさんはこの曲を”誰か”に捧げる意味合いでここに持ってきたのではないだろうか。亡くなったか別れたかした誰かのために。わからないけど。尚之のサックスがむせび泣き、ふたりの歌にはそれぞれの思いがこもっていて、これもめちゃくちゃグッときた。
ここからは本当のアンコール。手を叩きながら「あとやってない曲は何があったかな?」と考えていたところ、妻が「きっと、”ガラガラ蛇がやってくる”で盛り上げて、最後は“一番偉い人へ”だよ」と言った。的中。まさしくその2曲を歌ってくれた。そして「一番偉い人へ」で終わりかと思ったが、しかしふたりはまだそこにいて、もう1曲歌おうとしていた。最後の最後に相応しい曲がまだほかにあったっけ? なぜか完全に忘却していたのだが、あったのだ、最後の最後に最も相応しい曲が。そう、「星降る夜にセレナーデ」。一時期「みなおか」のエンディングテーマでもあった玉置浩二作曲のこの優しいバラードのことを僕たちはなぜか忘れていたこともあって、これにまたやられてしまった。
ところでタカさんのショーケン・リスペクトは昔から有名で、「みなおか」でも『傷だらけの天使』や『前略おふくろ様』のパロディを早くにやっていたものだった。「やぶさかでない」の会話部分は『傷だらけの天使』のショーケンと水谷豊から来ているし、「迷惑でしょうが…」や倉本ドラマへの出演希望は『前略おふくろ様』のショーケンから来ているし、「おらおら」はショーケンの「ぐでんぐでん」がリファレンス元だし、それを歌う際のタカさんの動きと声の出し方はショーケンのそれだし、そう考えると「セブンスコードを天国にくれ」はどこかショーケンの「ローリング・オン・ザ・ロード」を想起させなくもない。つまりショーケンのライブからの影響がこのライブの随所に感じられ、そうなると最後の最後に「星降る夜にセレナーデ」という優しいバラードを持ってきたのもショーケンがいつもライブの最後に歌っていた「さよなら」をイメージしてのことだったんじゃないかと思えたりもするのだった。わからないけど、どうだろう。タカさんが後藤次利とセトリを考える際、不器用な自分のイメージにショーケンの不器用さをどこかで重ねていたんじゃないかと僕には思えたのだが。
タカさんは不器用に、しかしまさしく一生懸命といった感じで歌っていた。終盤では声も枯らしていた。が、それでも思いをワンフーみんなに伝えようとしていた。一方、器用なノリさんは力むことなど微塵もなく、50~60%の力の入れ具合で、実に表現力豊かで伸びやかな歌を聴かせていた。最後まで歌が少しも揺らがず、安定感抜群の泳ぎ方をしていた。悪ふざけをするのもたいていノリさんで、タカさんは昔のような悪ふざけをすることがまったくと言っていいほどなかった。楽しませよう、楽しもうとして進めるノリさん。どちらかというとエモく、「泣き」方面に向かいがちなタカさん。まったくもって対照的なふたりの個性、その合わさり方が最高に素敵で、もう一度改めて、なんていいコンビ、なんて絵になるコンビ(ふたりしてたっぱもあるからね)なんだろうと思った。
「みなおか」の最終回で「情けねえ」を歌ったとき「自分が歌うのはこれが最後になるんだろうなと考えていた」と話し出したタカさんに、横からノリさんは「え、そうなの?」と突っ込み、「今回のライブを卒業式のように思っていて」と続けたタカさんに、「え、聞いてないんだけど」とまた突っ込むノリさん。「でも昨日と今日ライブをやって、そんなふうに考える必要はないのかなと思い出して……」みたいな言葉で「またいつか」の思いをタカさんが伝えると、「そうだよそうだよ」と軽い感じで肯定するノリさん。また、思いあまって「ワンフー、愛してまーす」とタカさんが叫ぶと、「オレも」とのっかるだけのノリさん。これがとんねるずなのだ。
「ありがとうございます」と何度も観客たち=ワンフーたちにお礼を伝えるタカさんは本当にどこまでも素直な笑顔を浮かべていた。よく怒っていた昔とは全然違う、丸くなった優しき60代の純粋な笑顔。それがとても印象的だった。タカさんが本当に嬉しそうで、幸せそうで、それがとてもよかった。ノリさんは心配せずともこれからも今までと同じように精力的に好きなことを自由にやっていくだろう。タカさんは……これを機会にまた何かに対するモチベーションがあがるといいな。そして願わくば、とんねるずとして、いつか新しい曲も……。
そう、「RED Chair」のインタビューでノリさんはこうも言っていた。
ライブは実現した。次は、その言葉を実現に向けて動かしてほしい。すぐじゃなくてもいい。でも、いつか。待っている。
今回のライブを観て、僕はもう一度、とんねるずを好きになり直したから。