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フリーの功罪

私の働く職場では、フリーアドレス(固定席がない)スタイルを導入しており、毎朝、出社した人からその好みによって座席が埋まっていく。

「どこに座っても良い」というルールなので、早めに出社している私は大きな窓を背にズラっと並ぶ執行役員席の目の前、しかもフロアのカドにあたる席に座るようにしている。固定席であれば、部長クラスが座るような、いわゆる「上座」だ。

以前は広報媒体の編集業務が多かったため、複合機エリアに近い、いわゆる「下座」の席を陣取っていた。そこへ、(私を頼りにしていたからだと思いたいが)部長が目の前か横の席にピッタリと座る図が出来あがっていた。私はそれを心の中で「監視」と呼びつつ、気にするヒマもないほど忙しなく働いていたけれど、いまはもう、その必要がない。

わざわざ上座に座りたいわけではない。ただただ、日々を気持ち良く過ごしたい。

フロアの窓は北側に面しているため日光浴とまではいかないけれど、それでも窓辺に近い席ならセロトニンの分泌も少しばかりは期待できるのではないかと思うからだ。そもそも、毎日8時間ほど社内にいるなら、明るくて、晴れた日には筑波山をも眺めることのできる席で過ごすほうがいい。    

それでも、日本人は同調圧力が強いせいか、自分の所属する組織のボス(=執行役員)席のレーンに座る人の多いこと。そもそも当社の執行役員は会議や出張でほとんど自席にいないのに、自席の近くに部下を座らせたがる傾向がある。「グローバル企業」を標榜し、執行役員のほとんどが海外駐在経験があるはずの人たちなのに、その思考は滑稽だ。

そんな矛盾を感じながら、最近気になることがある。50代の男性社員が、私のすぐ隣に座るのである。ほかの席がガランと空いていても。

その人は、数年前まで営業部門に所属し、平たく言えば “戦力外” になった人だ。まぁ、私が拒否できる権利もないし、あまり会話が得意な人でもないため黙って並んでいるけれど、彼は午前中に数時間、午後に数時間、席を空ける。

ノートPCを持って離席するなら「打ち合わせかな?」と思えるのだけれど、いつもPCは机上に置いたまま、何時間も戻ってこないのである。彼は一体、どこで、何をしているのだろう?

短い時間でも席にいる時は、PC画面を眺めながらジっとしている。ネットサーフィンというほどの動きもない。何か一つの記事をジーーーっと見ている。

私だって仕事は少なくても、小さなことを見つけて時間をつないだりしているし、仕事がないからとて、サボり方があまりにもあからさま過ぎやしないか?それこそ在宅勤務の日は、PCすら開いていないのではないか??もしかして、彼は社長直轄部門の部員だから、ものすごく優遇されているとか??それほどヒマなことに、耐えられなくならないのか??(私には耐えられん。)

むしろ、すごい。割り切り方が、私以上だ。

彼がどのような境遇にあるのか、調べるつもりはないけれど、少なからずこの状態が(彼の定年まで)あと数年は続くものと思われる。立派な「働かないおじさん」だ。いや、「働かされないおじさん」なのかもしれない。

それを放置しておく組織も、やっぱりどうかしていると思えてならない。

今日も、平和だ。