私がなぜ美大デザイン科受験生に、美術史上の 画家の作品模写を演習させたのか?

絵画とデザインの境界は自分の言葉を探す意味では同じと言える。

私はその意味をルネサンスのダビンチやミケランジェロが、絵画や彫刻以外に建築、図書館内観、衛兵のコスチューム、貴族の家紋、舞台装置、戦争兵器、都市計画、灌漑システム、ましてや医学解剖、飛行機、天体、工学、機械工学などをデザインした事実や、時代をさかのぼりロートレックやボナールなど画家がポスター、建築家のフランク・ライトやコルビジェなども椅子やテーブル、照明器具、ステンドグラス、インテリア、机、会社の受付、ビジネス空間と什器一式、キッチン関連、各種関連プロダクトデザイン、絵画や雑誌、ポスターデザイン、映画芸術などを見ると、純粋芸術という概念とコマーシャルアートとの境界の意味はもはやないといえるのではないかと考えている。

ダリ模写.大谷86


■受験生に模写の意味と意図。
1. まず修復ということを目的としていないので、サイズも大きい画面に挑戦する者には1メートル以上で原寸でなくモヂュールは合わせ、描画素材も油彩やテンペラでなく受験生が普段使用している用具を使用した。狙いは受験のためのデッサンではなく、やはり絵が好きな人間がもつ好きな画家へのリスペクトと、その画家が持つ内面的な価値観や精神性などに触れ作業を通じ感じることにあった。
2. また、全くの初心者には模写はできないということがあるので、時期は春に入学して基本的な様々なデッサンを学習し、秋の学内展覧会向けに自分の腕試しということで応用課題に組み込んだ。
3. この扉を超えると自分の才能に気が付き、自然に長時間毎日集中する姿勢が身につき自信を持ち自尊感情をもつことができることを目的とした。それが実際の入試で全国から集まるライバルとの個人戦への心構えになる。
4. またもう一つのねらいは、美術史上に残る偉大な作品は、みんなそれぞれ描き方が異なる事を識るということで、この意味はそれぞれの画家が一度の人生で「自分だけの視覚的なことば」を見出したということで、それは別の言葉ではスタイル、様式、テイスト、文体といった隣接芸術の音楽、文学、映画、身体芸術、情報芸術などでも同様の意味がある。だから、自分独自の言葉を探す旅が人生だと言える。

ダリ模写.佐々木.

大嶋美緖多摩美情デ+ダビンチ

ダビンチ模写大嶋

鈴木彩+東京造形大+安井木炭+素描鉛筆

石塚祥子多摩美GDイラスト水彩画

石塚デッサン風景


➡ だから、人まねは意味がないもので自分を誰でもない存在にしてしまうことを模写は教えてくれる。自分は自分でいいのだということを知ることが、もう一つのこの演習の隠された意味だと言える。
同じ空間で仲間が無言で絵を描いたりする工房的な雰囲気ができることで頑張ろうという気になる。中には人に見せずに自宅制作を希望する生徒もいるが自由に選択させた。結果的には1メートから1.8メートル大は自宅制作がむずかしいので、アトリエ制作に自然になった。イーゼルも大型のエレベーター型のイーゼルを使用。美大デザイン科の生徒が使用するのは日本の美大受験では初めてだったと思う。


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