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届かない場所

所謂団塊ジュニア世代の私は、幼稚園に入る前に、それまでの小さな貸家から、新興住宅地の一軒家に引っ越した。

引越した先は、自衛隊の航空基地のすぐ近くで、宅地として開発している途中の区画だったため、少し歩くと、小川や草叢、削り出された丘の土の斜面が剥き出しになっていた。

新興住宅地に引っ越した子どもが、まずやるのは、友達作りと決まっていた。親に付いて引越しの挨拶回りをする傍で、友達になれそうな子を見つけるのだ。

幸い、同じ年の男の子2人と仲良くなった私は、いつも3人でつるんで遊んでいた。ファミコンもない時代、遊ぶのは決まって、近所の小川や草叢だった。当時の小川には、タガメやゲンゴロウ、アメリカザリガニ、タナゴ、アカハライモリなどがたくさんいたし、草叢に入れば、飛蝗、蟷螂、蜻蛉、蛇、蜥蜴などを捕まえて遊んでいた。

ある時、いつもより遠出をしようと、3人で川沿いを歩いて下ることにした。川岸には、自分たちより背の高い草が生い茂っていたので、すぐにそれぞれ虫取り網を手にして、川の中を歩いて下った。

しばらく行くと、見たことのない竹林が見えてきた。もう初夏だったこともあり、地面からたくさんの筍が背高く伸びているのが見えた。初めて見る筍に吸い寄せられて、3人で竹林に分け入って行くと、竹林の中は涼しく、さっきからうるさく川沿いの木々で鳴いている蝉の声だけが、夏の訪れを告げていた。

竹林をしばらく行くと、奥に朽ちかけている木造の建物が見えて来た。この辺りは、まだ戦争の名残があって、防空壕の後には、入口を木で塞いだ横穴も残されていたので、3人は怖いもの見たさに、近づいていった。

近づいてみると、建物の少し手前に、鳥居らしきものが見えて来た。きっと、もう使われていない、神社なんだろう。3人は構わず先を進むと、私が最初に鳥居をくぐることになった。

その瞬間、私はピタリと足を止めた。鳥居をくぐった瞬間、それまでうるさく鳴いていた蝉の声が止んだのだ。びっくりして、後ろを振り向くと、まだ鳥居の向こうにいる2人の姿が見えた。私は、蝉の声が止んでびっくりしたことを話してみた。すると、姿は見えるのに、彼らの声も聞こえない。声もなく口をパクパクさせている2人の姿に私は怖くなり、鳥居をくぐり2人の元に戻った。2人は、蝉の声がうるさくで、何を言っているか聞き取れなかったと、私に告げた。

怖くなった私は、ここには何もないから、川に戻って、魚を取ろうと提案すると、一度も振り返ることなく、来た道を戻った。

あのまま奥まで進んでいたら。

今でもふと思い出すことがある。


#私の不思議体験

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