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PEPジャーナリズム大賞の受賞者発表 ーーの裏側で、 ジャーナリストはオリンピアンのようだな・・・と思った話。

PEPジャーナリズム大賞、ついに結果発表!!!

(という当日にモデルナ2回目を摂取したら寝込んで書くのが遅くなってしまいました・・)

私がシンクタンクでプログラム・ディレクターを務めさせていただいているPEP(Policy Entreprenur's Platform:政策起業家プラットフォーム)の一環で今年創設した「PEPジャーナリズム大賞」の受賞者の発表が一昨日7月30日に行われました。

主催するシンクタンクの理事長であり、ジャーナリストとしても「通過烈々」「カウントダウン・メルトダウン」など数々の名著を書かれている船橋洋一氏が「ジャーナリズムの賞を作りたいんだよね」と呟いてから約1年半。0→1でスクラッチから賞を構想し、やっと発表にたどり着きました。

普段あまりシンクタンクでの仕事のことを発信してこなかったのですが、今回は、この賞を作る過程、授賞式を通じて「インターネット上のジャーナリズム」というものを考え、その未来に希望をくれるような素晴らしいジャーナリストの方々に触れ感動したので、この賞をより多くの方に知っていただきたいと思い、書くに至っています。尚、こちらは主催者や選考委員会の公式見解を何か示すものではなく、また、自分はジャーナリズムの専門家ではなく、企画運営者として賞を通じた感想、呟きですことご了承ください。

まず、「PEP」とは、霞が関以外の民間・NPO/NGO・アカデミアなど様々なプレイヤーが永田町や霞が関と協力しながら政策に影響力を与えていく、「政策起業家」を応援するプラットフォームです。普段は、政策起業のケース・スタディを通じた研究やコミュニティづくり等をしています。

なぜそこでジャーナリズムの賞を主催するのか?

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私たちが何かを判断する時、本当にジャーナリズムの力は大きい。社会で知られていなかった課題に光を当てたり、権力を監視し政権までも倒すことまであり、そのアジェンダ形成は、私たちの意思決定に大きな影響を及ぼしています。

新聞やテレビの時代からインターネット・SNS・アルゴリズムの時代になって、誰でも情報を発信することもできれば、得ることもできるようになりました。それは時に分断を生じさせたり、フェイクに塗れることもある。だからこそ、質の高い情報の重要度が今までにないほど増している。誰もがそう思うのではないかと思います。

しかし、じゃあ、ジャーナリズムの賞を、いちシンクタンクが、PEPがやる意味がどこにあるのか?PEPがやったとして、この広い世の中で果たしてインパクトあるのか?非常に悩むこともありました。

「これってマスゴミの報じ方が悪いよね」
そうやって一蹴するは簡単だけれど、公共に携わる一員として、読者として、ジャーナリズムのあり方に疑問を持つことが少なからずあるのならば、少しでも良い方向に持っていく努力をしなければいけないのではないか。

従来のジャーナリズムのあり方から変わってきた時代だからこそ、新聞協会賞や日本記者クラブ賞のような伝統的な賞ではカバーしきれない部分にも光を当てていくべきなのではないか。独立した第三者の立場から、「より良い公共を作りたい」と考え、自由主義や民主主義を重視している立場だからこそ、外からできることもあるのではないか。

そう思い至って「PEP」という冠で走り出しました。

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スクラッチからの賞づくり

今回、選考委員長を引き受けてくださったのは林香里東京大学情報学環教授/副学長をはじめ、メディア・政策・実務に精通した選考委員の先生方です。スーパーお忙しい方々ばかりにも関わらず、この一年間、何度も集まって、賞のあるべき方向や何を対象とし何を評価すべきなのかについて議論を重ねていただくことで賞の形を作ってきました。初めての賞なので、綺麗にお膳立てした選考委員会…というより、本当に皆さん親身に運営にも様々なアドバイスやご支援、鋭いご意見を下さいました。

また初年度なので、賞自体(主催者たる我々も・・)の認知度の低さにひと苦労。しかし、蓋を開けてみたら、組織・フリー・媒体問わず、大変多くの方にご応募いただき、本当に有り難かったです。ご応募いただいた作品は、林委員長のお言葉を借りれば「ジャーナリズムの高みを競う力作揃い」。3時間以上の白熱した最後の選考委員会では、本当に多くの素晴らしい記事の中で、我々として重視する点は何なのかについて喧々諤々の議論が交わされました。

その結果として発表したのが今回の受賞作品です。

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「時代の転換点に挑戦し続けてきたのがニュースの歴史ではなかったか」

そして、今回大賞を受賞された石戸諭さんのスピーチはとても象徴的でした。新聞社からフリージャーナリストになられた石戸さんはジャーナリズムには歴史に裏打ちされた基本があると言い、良いニュースとは何か。時代や歴史に堪えるニュースとは何か。ご自身で試行錯誤されながら発信している姿が伺えます。

"ニュースの世界は、これまで以上に、誰かがどこかで楽をしようと思えば、ゲームそのもの自体が終わってしまう状況になりかねません。

感情を満たすばかりのニュース、憎悪を駆り立てるフェイクというのが、世の中を覆っていき大きな影響力を持っていく。そんな時代にもかねないという、それなりの危機感を、僕も有しているわけです。

ただし、希望がないわけではないと思います。こうした良いニュースの書き手が、また一人また一人と増えていき、その一本一本が出ていき、クオリティの高い形で流通し、そういうニュースの存在を待ち望む人が一人でも増えていくこと。

そうした良いニュースを発信するメディアーーあるいは書き手一人一人もメディアですがーーそういうメディアが、経済的な利益もきちんともたらされる世界。そういった健全な世界を待ち望んでいるわけです。

一介のフリーランスのライターが言っても変わっていかない。僕一人ではできませんが、これ以上良いニュースを発信していく書き手を増やすこと、発信する媒体を増やしていくこと、そして市場を開拓していくこと。これは、エンジニアと呼ばれるような技術者の人達ーーニュースアプリやホームページの開発者の人達を含めてーーそうした一人一人がある意味では多様なニュースの世界の担い手になっているわけです。

何も僕たちジャーナリズムの発信者だけがニュースの発信者ではありません。色々な人たちが関わっています。それぞれの分野にプロフェッショナルと呼ばれる人たちがいます。それらのプロフェッショナルな仕事を高い次元で融合させていくこと。"
"いつの時代もジャーナリズムは大きな危機に直面してきました。むしろ、そういった時代の転換点に挑戦し続けてきたのがニュースの歴史ではなかったか。...技術者も、編集者も、多くの人が支え、何より読者がいました。"

                        石戸さん受賞ページ 

他受賞者の皆さまも、本当に素晴らしいスピーチでした。ご覧いただくと、本当に希望がもらえます。

ジャーナリズムを「わがこと」として語れるようなフォーラムに

林先生の最後の言葉に泣きました。

林先生

”選考委員会は、PEPジャーナリズム大賞を通して、ジャーナリストは社会に新たな風を呼び込む、社会のイノベーションの鋭意だということを強調したいと思います。

それだからこそ今日ここに集まった高い能力を持ったジャーナリストの作品を広く世の中に知ってもらいたいと願っています。

そうすることで、ジャーナリズムの力、未来社会のあり方を、多くの人たちと、共に考えていきたいなと考えています。

こうしてPEPジャーナリズム対象は多くの皆さんとジャーナリズムを「わがこと」として語れるような、そんなフォーラムに育てていきたいと思います。”

今回、一連の過程を通じて心に沁みたのは、世の中には素晴らしいジャーナリストの方が沢山活動されているということです。扇動的で安易な情報を流すようなことはせず、現場に赴き、丁寧な取材やデータに基づいて、時には反発も覚悟して、様々なアングルから記事を書く。個人的には、受賞数少なすぎるよ!!と横から叫びたいくらい受賞に至らなかったものも本当に素晴らしい記事だらけでした。

そして、時節柄、オリンピック競技の放送を見ながら、「あぁ、孤独の中で自らを律し、質の高い記事を紡ぐジャーナリストの方々はオリンピアンのようだ。。」とふと思ったのでした。

そして、今回の受賞者のスピーチからは、孤独な戦いでありながらも、オリンピアンがコーチやチームに支えられているのと同様、ジャーナリストも編集者からエンジニアまで、その発信に至る過程で多くの方に支えられているのだと想像できました。

オリンピアンには明確な目指すべきゴール、ルールや順位があります。しかし、ジャーナリズムは読者一人一人に問うものです。我々がどんな情報を選択するのか、その情報をもとに何を考え、どんな意思決定をするのか。

これからも、時に孤独に、自分と、社会と戦っているジャーナリストの方々やそのチームを応援する賞でありたい。

そして、そうしたジャーナリストの方々が喚起する内容について真摯に考え、議論し、アクションに繋げていけるような「政策起業力」を持てる社会にしていきたい。その為に、超微力ながら、引き続き尽力してまいります。

受賞されました皆様、おめでとうございます。
そして、皆様、これからもPEPジャーナリズム大賞をよろしくお願いいたします。


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(*改めて、この発信は個人の見解であり、所属する組織の意見ではありません。)

特設サイトには、受賞者のスピーチ動画の他、記事のリンクもありますので受賞作をお読みいただけます。是非是非ご覧ください。

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