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スピード、変化への適応を重視する組織とは:NETFLIXの衝撃。

【『働く』を考える】 v.1

日本が「デジタル敗戦」と言われる状況。
なぜそうなったのか?を掘り下げていく時に、私が感じている課題の一つは、組織のあり方・ガバナンスだ。

GAFA5社の時価総額が、東証1部全体の時価総額が上回っている。過日の日経新聞で、デジタル敗戦の要因をGoogleの社員へのインタビューを通じて探るという主旨の記事が出ていた。

テクノロジーの変化のスピードはとても早い。

いかに価値を生み出すのか、いかに意思決定のスピードを早くするのか、いかに良い人材を惹きつけるのか。世界の多くの経営者が頭を悩ませている。

とはいえ、私も日本の大企業出身であるし、「間違いなくその方向だが、実際のところ、どうやってスピードって上げるのかよく解らず」と思っていた時に、読んで衝撃を受けたのが、Netflix共同創業者のリード・ヘイスティングスとINSEADの教授であるメリン・メイヤーの著「No Rules:世界一『自由』な会社、NETFLIX」だ。

この本は、あらゆる意味で日本人にとっては衝撃を与えるのではないかと思う。

「イカゲーム」など、自社制作をはじめ様々なコンテンツを、テレビからスマホまでデバイスフリーでどこでもストリーミングができるネットフリックス。コロナ禍の「巣篭もりの必須アイテム」と思った方も多いのではないか。

No RulesではNetflix社が、クリエイティビティを失わず、イノベーションを生み出し、グローバルに良いサービス・コンテンツで席巻するために実践しているガバナンスについて説明されている。その方法論は非常に日本企業からすると結構ドラスティックと感じるかもしれない。例えば、以下の通り。

ルールが無い:組織、人を「コントロール」するための、休暇規定、経費規定、KPI設定、承認プロセス等が無い。
分散型意思決定:承認・決裁プロセスなどはなく、コンテキストが一致していれば、「現場が一番情報を持っている」との信念で末端の社員でも重要な意思決定を行う。

ルールがない、と聞くと、それってガチでカオスになるのでは・・・と日本人的には感じ、そして、そんなの機能するのか?と目を疑う。

しかし、ネットフリックスではそれを担保する、機能させる仕組みがセットになっている。彼らはそれを"コントロール型より「コンテキスト型」によるリーダーシップ"と呼んでいる。例えば、以下のようなことだ。

徹底的な情報公開:意思決定を行うために必要な「コンテキスト」を提供するために、財務情報や会社の方向性などの情報は、徹底的に社内に公開する。
「賭けにでる」ことを推奨:意思決定する人は、様々な意見を聞くプロセスを経たうえで、最終的に自分でリスクをとって決断する。その時の意思決定では「賭けにでる」ことが期待される。掛けについては、一度失敗したからクビになるということではなく、失敗は分析・公表し、その過程を周りに共有し学ぶことが求められる。
・率直なフィードバック:360度評価を含めて、個人への頻繁かつ率直なフィードバックを行う。
・報酬は市場価値+αで支払う:給与バンド、ボーナス規定は無い。その人材の市場価値を徹底的に調べて、報酬は市場価値よりも高く払う。
・キーパーテスト:最高でなく凡庸な人材であればであれば、退職金をたくさん払って、他の最高な人に席を空けてもらう。→プロスポーツ選手のような考え方。

特に最後のポイントは、日本では考えにくいかもしれない。

しかし、ビデオレンタル屋のブロックバスターという一世を風靡し資産も人材もある会社が、ストリーミングに取って代わられて敗れた。「変化しなければ生き残れない。」それを身を以て知っているへースティング社長が、イノベーションを起こし、クリエイティブでスピード感のある組織を実現するために・・・を究極に体現した結果が、彼らの、「自由と責任」のカルチャーだ。

同書に記載されている詳細なインタビューやケースを読むと、「自由と責任」のカルチャーは以下のような効果を生み出して(少なくとも生み出すことを目的として)いることがわかる。

・圧倒的に社員の当事者意識を生み出す
・ルールに縛られて創造的指向を阻んだり無駄な仕事をさせず、クリエーティブな仕事をしてもらう(無駄な仕事をさせるとイノベーティブな社員ほど離れていく)
・環境が変わった時に組織が迅速に対応できるようにする
・プロジェクトや人材の新陳代謝を促す

ちなみに、同社は、このようなん考え方を誰でも見れるスライド会社のページで公開している。

これを日本の大企業との対比で見ると非常に興味深い。

大企業の若手で作るOne Japanの「大企業ハック大全」という本が最近出た。

そこでは、大企業は「『資産』は豊富だが、社内調整コストがかかりやすい」であり、「ベンチャー企業は、資産は少ないが社内調整コストはとても少ない」と表している。また、大企業病として以下の項目を挙げている。

1. 内向き・社内至上主義
2. 縦割り・セクショナリズム
3. スピード欠如
4. 同質化・新陳代謝不全
5. 挑戦・仮説検証不足

Netflixは、ベンチャーから組織を大きく成長する過程で、上記のような所謂大企業病に陥るのを、極限まで排しようとした形と言えるかもしれない

(尚、念の為、Netflixは創業1997年、社員数12,000人、時価総額20兆円、売上2兆円超、世界11カ国に支社を持つ。社員の幸福度ランキングも高い。/2021年時点)

「日本の会社とアメリカの会社は違うんだ。」
「当然、クビになどできないし、カルチャーが違う、こんなことできるはずも無いし、したくも無い。」

そう断じてしまうのは簡単だ。しかし、現実にNetflixの会員は世界で2億人を越して、テレビを見る代わりに動画ストリーミングを見る人々は増えている。インターネット企業はグローバルなフィールドで戦い、そしてそのサービスは、日々私たちの国のお茶の間までやってくる。

トップのリード・ヘイスティングスが、様々な社員とのフィードバック面談のためにかける時間は年間500時間。

この本を通じて私が衝撃を受けたのは、このモデルが直接的に日本に適用できるかどうかという話では無い。

グローバルトップ企業が、良い人材を惹きつけその能力を引き出し、組織のスピードを高め効率的な組織運営を行い、変化に適応するために、ここまで試行錯誤を繰り返しながら果てしない努力をしているということ直視しなければならない、ということだ。

スピードが早い、テクノロジーの変化が激しい世界。
その中では組織そのものも進化していかなければ生き残れない。


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