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【バルセロナ育成】 危険な街クラブ特徴とパワポ100ページの衝撃 【実体験談】

みなさんこんにちは。バルセロナでサッカーの指導者をしている高田純です。

自分が指導者としてのキャリアを歩むために18歳の時にバルセロナに来てから早くも10年が経とうとしています。10シーズンもこちらの育成現場に関わり、生を観察していると数々の”衝撃”に出会うわけです。

「あ、これがこっちでは基準なんだな。」という衝撃が。

そこで今回の記事では、これまで出会ってきた数々の衝撃の中から指導者として特に記憶に残るエピソードの1つを紹介できたらなと思います。

こちらの記事を動画で視聴されたい方はこちらから。

この記事を書いてる人↓


19歳でバルセロナ最大の街クラブで指導すると決まった日

時は8年も前に遡りますが、バルセロナの指導者学校で無事に指導者ライセンスを取得し終えた翌シーズン、とにかく早く現場に出て自分で監督としてチームを持ちたいと考えていた自分は中々指導ができるチームが見つからず焦っていました。

そんなある日、当時通っていた指導者学校で一番に仲良くしていたスペイン人の親友から一通のメッセージが。

「CORNELLA (カタルーニャ州ではバルサ,エスパニョールに次ぐ最高レベルのセミプロクラブ)で1チーム監督枠に欠員が出たからjunどうかな?」

このクラブの規模を熟知していた自分は、少し呆然としながらもいつの間にかYESの返事を返し、早速翌日にクラブのオフィスに来るよう伝えられたわけです。

翌日、19歳の若造は心臓をバクバクさせながらオフィスに向かい扉を開けると、当時の担当コーディネーターのdaniが笑顔で歓迎してくれました。少しホッとした自分ですが何か違和感が…

写真右がdani. 今では共に仕事をする仲間でもあります

満面の笑顔で出迎えてくれた彼の両手には、大きなパソコンと100枚はあるであろう分厚い用紙が準備されていました。

「かなり具体的な面接が行われるんだろうな」と思っていたのですが、その予想は良い意味で裏切られ、

dani 「国籍は?」高田「日本だよ」
dani 「指導者ライセンスは?」高田「Level 2まで持ってるよ」

この2つの会話だけで終了。

自分が日本人で、現地ライセンスも持っていることを知った瞬間に彼の目つきが変わり、「じゃあ明日からよろしくね」と言われたわけです。

このような場面でも海外で生きていいる人ほど日本人としての誇りを感じ、恩恵を日々受けているわけです。

100ページに凝縮されたクラブ所有のプレーモデル

この流れだけでも当時の自分にとってはかなりの衝撃というか、「え、それだけ?」と戸惑いが生じたわけですが、今回みなさんに共有したかった衝撃はここからです。

この会話で面接が終わり、帰らされると思ったわけですが次にdaniが片手に持っていたパソコンを机に開き、もう片手に持っていた100枚はあろう用紙を自分に渡し、何かの説明を始めたのです。

当時の自分はまだスペイン語がパーフェクトではなかったので、パソコンの画面を注目しながら彼の話を集中して聞いているとどうやら、パソコン画面に映し出された内容はクラブが所有するプレーモデルのようです。量が多ければ良いということでもないですがその内容パワーポイントざっくり100ページは超えていました。

そこにはクラブが扱う基本システムの話から、ビルドアップやプレッシングのバリエーション案。年代別に指導したいコンセプト、アクションの一覧図や年間のプランニングまでぎっしりと詰まれたものでした。

かれこれ30分ほどかけて画面に沿った彼のプレゼンが始まりました。

※ちなみに、コルネジャには7,8歳カテゴリーのコーディネーター,9,10歳カテゴリーのコーディネーター,11,12歳カテゴリーのコーディネーター、13,14歳カテゴリーのコーディネーター,15,16,17歳カテゴリーのコーディネーター,18,19歳カテゴリーのコーディネーターに加え、GK専門のコーディネーターが7人制,11人制それぞれに存在し、それぞれが今回のdani
のような資料を作成するわけなので、それだけでもとんでもない量になるわけです。

18歳まで日本でサッカーに携わっていたものの、このような裏の話を見たこともなかった自分にとっては当時かなり衝撃で、同時にやっぱりこのような大規模なクラブでは明確なクラブのモデルが言語化されているんだなと感じた部分でもありました。

2つのプレーモデルと2つのクラブスタイル

少し話を変えますが、プレーモデルといったワードが出てきたので少し触れます。個人的にはいろんなところで散々に発信している内容ですがプレーモデルというものは1括りに考えることはできません。2つのタイプに分類して考えなければいけません↓

つまり今回登場したdaniのプレーモデルというのは前者であるクラブ所有のモデルに当てはまるので、コーディネーターであるdaniが作成しているものです。

ここで何が言いたいかというと、バルセロナの中でもこのプレーモデルのテーマを巡って大きく2つのタイプの街クラブに分類がされます。

1つ目は、バルサのようにクラブとして1つの固定されたモデルの所有し、それらを各カテゴリー各チームの監督に半ば強引に与え、実行するよう促すタイプです。(バルサが大好きで真似をしようとするような街クラブもあるわけです)

つまり、①のモデル量が大半を占め②の量が減少し、各監督が持つプレーアイデアの表現がしづらいような現象が起きます。

2つ目のクラブタイプは、同じく①のモデルもクラブとして所有しますが、一定のラインからの過度な介入はせずに各監督のアイデアを尊重をしながら現場での自由度を設けるようなタイプのクラブです。

具体的な内容はこちらの動画で話しています↓

この2つのタイプにクラブタイプを分類してみたときに、当時の自分は前者の固定したモデルを持つクラブに対して賛同をしていたわけですがここ数シーズンで考えは変わりました。

例えばそのクラブがバルサやレアルのようないわゆるカンテラで、クラブの1つ目標として「トップチームに選手を昇格させる」を掲げているようなクラブなら1つの流れとして前者のような考えは良いのかもしれませんが、大半の指導者はトップチームも抱えていないような街クラブでの指導を行う中で、我々指導者の責務の1つは彼らが異なった指導者のアイデアを吸収し、色んなゲームの戦い方、ビルドアップのバリーエーション、プレスのタイプなどいわゆる多くの戦術メモリーを異なったプレーシュチュエーションの中で発揮する力をつけさせることだと思います。

彼らの中にはもちろんプロ選手を目指してる選手もいる中で、そんな彼らが上のカテゴリーにたどり着いたときにどのような指導者でもどのクラブでも適応してプレーができる力、苦労しないためには後者のクラブタイプの方が適切なんじゃないかと思います。

スペイン育成サッカーの強さ

最後に、今回の自分の体験談を含め話をしたプレーモデルと絡めて改めて、スペイン育成の強さを紐解くとそれがどんなに小さな街クラブであろうが、そのクラブ内で共通化された言語が存在し、それらをしっかりと視覚化するための資料作りができていること。ここは1つ明確な強みとしてあります。

これらのクラブとしての基盤となるモデルがやはりないと、そこから発展した監督ごとのアイデアも存分に発揮できないようなことが起きます。

プレーモデルはそもそもで選手が中心に周り、加えてその国やクラブの文化や国籍なども含めて考えないと話にならないので、当たり前にその内容は日本とスペインでは異なることではありますが、今回も話したようにしっかりとクラブの人間が軸となりモデルを作成することについては日本だろうがスペインだろうが同じく体現できることだと思うので少しでも伝わるものがあればなと思います。

ということで今回の記事はここまでです。引き続きバルセロナ育成のリアルを発信していくのでまた次回の記事でお会いしましょう! 

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