見出し画像

『真実の航跡』文庫化記念特集【人間発電所日誌】第一〇三号

伊東潤メールマガジン 無料登録はこちらから

こんばんは。伊東潤です。
今夜もメールマガジンをお届けします。


〓〓今週の人間発電所日誌目次〓〓〓〓〓〓〓

1.はじめに
2. 次世代に伝えるべき物語を書く
3. 法律だけを武器に戦った男たち
4. 日本人の過去の犯罪にも直面してほしい
5. 結論から言っても届かない
6. 読者をその場につれていく小説を
7. おわりに
8. お知らせ

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

1.はじめに

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 今回は12月17日に刊行される『真実の航跡』(文庫版)について書いていきます。

 皆さんは12月8日が何の日かご存じですか。日本軍が真珠湾を攻撃し、太平洋戦争が始まった日です。
 その後、多大な犠牲を出した末に日本は敗れ、全く新たな国に生まれ変わっていくわけですが、その過程においても、時に不条理とも思える事件が多々ありました。とくに戦犯裁判は、連合国の復讐のために行われたようなもので、事案の多くが事後法で裁かれたのはご存じの通りです。

 A級戦犯を裁いた東京裁判はまだしも、戦後に香港やシンガポールで行われたBC級裁判は、最初から結論ありきの形式的なものでした。しかし日本から弁護士として派遣された若者の中には、法の正義を盾に敢然と立ち向かっていく人たちがいました。

 たとえ国家がすべてを失おうと、法という戦う術を持った彼らによって、日本はアイデンティティを取り戻し、それが日本人たちに勇気を与えたのです。
 本作に登場する主人公鮫島のモデルは小谷勇雄という実在の人物で、彼の日記と香港の新聞記事などを基に小説として再構成したのが、本作『真実の航跡』になります。彼は一人の弁護士にすぎず、全く無名のまま生涯を終えましたが、彼のような若者によって日本は繁栄を取り戻していくことになります。
 
 今回は12/17に発売される本作の文庫版を記念し、集英社のPR誌「青春と読書」2019年4月号に掲載されたインタビュー記事を短縮版にて再掲載します。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

2. 次世代に伝えるべき物語を書く

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

太平洋戦争末期、洋上の重巡洋艦で、イギリス人とインド人の捕虜が虐殺されるという事件が起きた。戦後、この事件の首謀者として、二人の将校が香港の戦犯法廷で裁かれることになった。日本からやってきた若き弁護士、鮫島と河合はそれぞれの被告の弁護を割り当てられる。戦勝国が主導する裁判で、はたして真実は明らかになるのか?

ここから先は

5,290字
この記事のみ ¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?