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激動の一年の振り返り④「経済政策の大転換」

(この記事は、「激動の一年の振り返り①」〜「同③」に続く内容です。①から続けてお読みいただくことをお勧めします)

3.経済政策の大転換

(1)過去30年の経済状況
日本経済は過去30年間、危機対応の連続でした。
1990年台初頭のバブル崩壊以降、1995年の阪神淡路大震災、90年代後半〜2000年台初頭には金融危機、やっと一段落して成長軌道に乗るかと思ったところで2008年のリーマンショック、その後も2011年の東日本大震災、2020年以降の新型コロナなど、数十年に一度の危機が立て続けに起こったのがこの30年でした。
この間、金融政策は、低金利からゼロ金利、量的緩和、マイナス金利、YCC(イールドカーブコントロール)など、基本的に緩和的な対応を深化させてきました。
為替レートについては、輸出によって景気が拡大する経済構造であることを背景に、円高基調を抑え、どちらかと言えば円安を指向する政策をとってきたように見受けられます。
こうした政策対応にもかかわらず、日本の経済成長力は低下傾向を続け、デフレ的な状況が慢性化し、物価も賃金も上昇しない経済状況が続きました。
この間、財政面では、危機対応・景気対策などの名目で拡張的な傾向が続き、これを支える国債の増発により、国債残高は1990年の166兆円から2021年末には約1000兆円へと、30年間で6倍になりました。

(2)近年発生した新たな状況と認識
・世界的なインフレ
新型コロナ感染症の世界的な蔓延により、生産現場の混乱が物資の供給の不足を誘発しました。
その後の景気回復の過程で、人員や物資の不足により各国で数十年に一度という大幅なインフレが発生しました。
・急激な円安
各国ではインフレ対策として急激な政策金利の引き上げを実施しました。
一方で、景気回復力が弱い日本では、低金利・緩和的な金融政策が継続したため、金利差が拡大し、こうした状況の長期化を予想したファンド等により急激な円安がもたらされました。
こうした状況下、3月に115円程度だったドル円レートは、10月には150円を突破する水準まで円安が進みました。
・日本でも物価上昇
日本においても、新型コロナ禍での海外生産の混乱による物資の不足、ロシアによるウクライナ侵略を受けたエネルギーや小麦・とうもろこし等の価格高騰、円安による輸入品の高騰などの複合的な要因と、そうしたコスト上昇を販売価格に転嫁する動きが広範化したため、11月には3.7%と、40年振りの物価上昇を記録しました。
・国債の増発は継続
こうした経済の混乱等を受けて、新型コロナの発生以降、経済対策などの名目で3年連続で大型の補正予算を組成することになりました。
この財源の過半は国債の増発により賄われたため、国債の残高はさらに増加することになりました。
・30年振りの「利上げ」
最終的には、12月20日に日銀が突如、金融緩和の運用の一部修正を発表しました。
具体的には、長期金利の誘導目標を、これまでの0%を中心に±0.25%から±0.5%に拡大するというものでしたが、市場では実質的な「利上げ」として認識され、長期金利は0.25%から0.48%へと一気に上昇しました。

(3)来年以降に向けた考察
・物価が上がる世界への備え
今年の物価の高騰は、その要因の多くは海外や為替にあり、当初は一時的なものと考えられていました。
ところが、物価の高騰が広範な商品に拡大し、値上げが何度も行われる中で、国民の間に広く「物価が上がること」を受け入れるという行動変容が起こっているように見受けられます。
こうした変化を踏まえると、今後は物価が年率1〜2%で上昇していく「健全な経済」になっていく可能性が高まっているように思われます。
つまり、「デフレの解消」です。
こうした状況に変わることで、経済には大きな変化が予想されます。
例えば、少子化や人手不足の中で賃金を上げられない企業には働き手が集まらなくなり、淘汰されていく可能性があります。
また、個人の金融資産も「貯蓄から投資へ」という動きが本格化すると思われます。
物価が上昇する世界の中では、預金はどんどん目減りするため、「インフレに強い資産形成」として、例えば株式などがあらためて有力な資産運用先として認識されると予想されます。

・円安への備え
一時1ドル150円を超えていた為替レートは、現在は130円台前半で推移しています。
一方で、日本が他の主要国に比べて低金利・低成長であり、財政リスクが高い国であることは大きくは変わっていません。
そうした相対関係の中では、円安基調が継続する可能性が高いと思われます。
このために、円安に強い産業構造への再転換が求められると考えれます。
具体的には、輸出の再拡大や海外調達の抑制、国内生産への回帰です。
消費面でも、地産地消や生産基地としての地方の重要性が再認識され、地方への投資が活発化するものと思われます。

・金利上昇への備え
デフレの解消により、金融政策は徐々に正常化していきます(いわゆる「出口戦略」)。
金利上昇や量的緩和の巻き戻しの流れが、政府・日銀によって慎重に進められることになります。
その過程で、これまでの超低金利・超緩和的な環境下で生き延びてきた産業や企業のうち、淘汰されるところが出てくるものと思われます。
それと同時に、金利上昇に負けない成長力の高い分野へ資金も人もシフトする流れが本格化すると考えられます。

・増税への備え
経済の回復・正常化や金利の上昇と共に、財政の規律への意識が高まります。
防衛費や社会保障費の拡大を支える抜本的な税制・財政のあり方についての議論も必要になります。
もちろん、経済の地盤沈下を防ぐためにも、少子化対策の抜本的な強化が喫緊かつ最優先の課題としてあらためて認識されます。
そのための財源も含めて、「高負担・高福祉」への転換に関する議論が強まる可能性があります。

上記のような変化には大きな痛みを伴うものも多く、こうした転換にどのように対応すべきか、国民を巻き込んだ議論が必要になります。
私は、そうした議論を正面から進めていく「政治家の覚悟」が問われる時代になると考えています。

(「激動の一年の振り返り⑤ 地方の重要性の再認識」につづく)


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