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「MTRというタイムマシン」 Eテレムジカ・ピッコリーノ総合演出による教科書に載っていない音楽のこと その2

MTRとは何なのかざっくり説明

マルチトラックレコーダーという言葉を聞いたことありますか?MTR(Multi Track Recorder)とか言われたりもしますけど。複数のトラックつまり、陸上のトラックみたいに、何本かのトラックが横に並んでいて、それぞれに別の音を記録して、最後は同時に再生すると言う記録の仕組みです。

いわゆる出回ってる音源はほとんどマルチトラックで録音されているものですね。ちなみにマルチトラックの対極にあるのはマイク一本一発どり。もちろんマイク一発でめちゃくちゃ緊張感のある録音だってありますから、どっちがいいってことでもないですが。

つまりマルチトラックレコーディングというのは、各楽器にマイクを立ててそれぞれ別のトラックに音を入れる仕組みですね。

音楽がより絵画的になっていくという感じです。一発録りだと、その場のノリというか緊張感みたいなものをいかに記録するかということが録音のポイントになると思うんですけど、マルチだと作り込めます。ま、一概には言えませんが。

バンドがいなくて、一人で演奏することも可能です。ひとつひとつ録音していけばいいわけですから。そんな一人マルチ録音の名演を紹介します。

天才宅録青年ジェイコブコリアーが名曲クローストゥユーを演奏してます。

MTRは、もうひとつ大きな影響をバンドシーンにもたらしました。それは、バンドが集まんなくても演奏できることと。実際ビートルズは後期、世の中のマルチトラックレコーディングの進化とともに一緒に演奏する必要がなくなり、解散した、とも言えるのかもしれないです。

MTRというタイムマシン 時を超えたセッション

MTRがあれば、同じ空間にいなくても一緒に演奏できる。
そのことについて、興味深いエピソードを一つ紹介させてください。

事実に少しだけフィクション織り交ぜて書きます。

先日、僕の大学の先輩が20年ぶりにアルバムをリリースしました。昔からひねくれた構成のポップスをチープなサウンドに乗せて演奏することが得意なグループでした。今回のアルバムも、相変わらずだなぁと思わせてくれる内容。

そんな先輩とお会いする機会があり、ランチをご一緒しました。
さらに、もう一人、バンドメンバーじゃない、別の先輩も同席しランチスタート。

何食わぬ会話をしていたら先日リリースしたアルバムの話に。
バンドメンバーじゃない方の先輩がこんなこと言ったんです。
「あのアルバムってさ、さっちゃんが叩いてるんだよね?」

さっちゃん??

急に記憶が蘇ってきました。

さっちゃんはおよそ15年前、彼女が25歳ごろ、理由は忘れましたが、バンドを脱退したんです。

今回リリースしたアルバムは実は15年くらい前に企画されていたものだったが、
ドラムを録音した時点で、さっちゃんの脱退などがあり、制作が頓挫していたとのことでした。

それから家族ができたりいろいろあって、40近くなってもう一度アルバムを作る気になったと。

つまり25歳のさっちゃんと、40近くになった他のメンバーがセッションしていると言うことなのです。
そんなことが起こりうるのかと、不思議な気持ちになりました。

マルチトラックレコーダーは、時を超えたセッションを可能にするマシンでもあるのかと気づいたのです。

今、家でコツコツマルチトラックを録音してる10代の少年がいるとして、
100年後、何世代か後の子孫が、そのトラックに別のボーカルを乗っけて新曲にする、なんてこともおこるかもしれないですね。

ムジカ・ピッコリーノのモンストロってそういうことなのかもしれないですね。


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