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【「地下芸人」とはどのような存在なのか?】おぎぬまX先生インタビュー

おぎぬまX『地下芸人』の発売を記念して著者インタビューを公開します。

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おぎぬまさんのジャンプ小説新人賞受賞記念インタビューはこちらから。


――そもそも「地下芸人」とはどういう存在なのでしょうか。
TV出演やブレイクとは無縁で、世間的には全く知られておらず、芸人界のピラミッドの底辺にいるようなイメージです。
かといって蔑称という意識で使用しているわけでもなく、地下芸人の中には、世間的には無名であっても、芸人だったら誰でも知っているという面白い芸人も大勢いて、そういう面白い人達が華やかな光を浴びることもない場所にいる、という感じでしょうか。

――なぜ初小説の題材に地下芸人を選んだのでしょうか。
僕自身が芸人をやっていたこともあり、身近な題材だと思ったのが大きな理由でした。もし今まだ自分が芸人を続けていたら今年で芸歴10年目になるので、その響きが重く感じられるなと思った部分もありました。

――登場人物にモデルはいるのでしょうか。
いろんな芸人を見ていたので、いろんな方の要素が詰まっているかなと思います。 全く日の目を見ることがなくても、みんな情熱をもってライブをやったりしています。すごく楽しい時間も沢山あるんですが、苦しいことも当然多い日々で、どんどん人が辞めていく、その人間としての儚さを表現できればなと思いました。

――芸人のあり方があまり美化されていない印象を受けました。
「お笑い芸人って美しいよね、熱いよね」っていう感情は間違いなくありますが、反対にどれだけ情熱を傾けて人生を賭けても売れないっていう、地下芸人のそうした儚さを描くという意味では現実的なところも意識しました。

――作中のエピソードも実体験に基づいているのでしょうか。
全てを赤裸々に語ることはちょっと出来ませんね(笑)地下芸人っていう世界がやっぱりアンダーグラウンドなものなので……。小説で書けなかったこともたくさんありました。作中のエピソードでは、深夜の清掃バイト、先輩の引退、「三ツ星」のライブ、などは説得力があると言われましたが、実は当初はページ数の関係で省いた部分でした。こうした部分を書くことで物語に説得力が出せたのかなと思います。
あと少し話は変わりますが、劇中の芸人の名前を考えるのが大変でした。実際にいそうで居ないっていう芸名を思いつくのって結構難しいんですよ! この世のほぼ全ての名詞は誰かのコンビ名になっている確率が高く、お笑い芸人は星の数ほどいるんだなと改めて思いました。

――周囲の人に作品の感想をもらいましたか。
周りの人や昔の芸人仲間から感想を聞いたのですが、まず「小説を書いた」という事実に圧倒される人が多いということを一番感じました。 その1点をもってして「凄い」と言われてしまうと、感想とはちょっと違うな、と思ったので、そこからさらに鋭く突っ込んでいきました。その上で、概ね好評だったかなと思います。 ただ芸人仲間からは劇中のネタにダメ出しを食らったりもしました。

――劇中のネタはおぎぬまさんの芸人時代のネタなのでしょうか。
僕はピン芸人だったので、作中のピン芸人は当時の僕のネタを披露しています。ただ、これまでピンネタしか作ったことがなく、まさか小説を書く過程で初めての漫才ネタを3本も書くとは思っていませんでした……

――おぎぬまさんは漫画家としても活躍されていますが、漫画と小説で表現したいことは異なりますか。
僕自身は、コンテンツによってジャンルを絞ることはないと思います。それはマンガに対しても同じで、マンガと小説で表現したいことはそんなに違わないかなと思います。 マンガはギャグで賞をいただきましたが、もっとシリアスなものも描いてみたいと思っていますし、それは小説でも同様です。

――今後の展望を教えてください。
今回はちょっと儚い、切ない作品になりましたが、それは結果にすぎません。 「地下芸人」が自分の作風だとは思っていないので、次作は全く違うものを書くかもしれません。 個人的には推理もの、探偵ものが書いてみたいという欲求もあります。


『地下芸人』は集英社文庫より発売中です。