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【小説】ダーツとフリースロー

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#ダーツ

【小説】ダーツとフリースロー 1.『8月31日』

 
 20グラムのタングステンの塊がプラスチックのボードに突き刺さっていた。

 セグメントと呼ばれる、細かくカットされたピザのような領域のひとつに2本の矢が刺さっている。いずれも同じ形で同じ重さをした、20グラムのタングステンの塊だ。尻尾のような羽をお尻に揺らし、彼らは最後の1本が突き刺さるのを待っている。

 ダーツだ。突き刺さっているのは壁に備えられたダーツボード、2本のダーツが寄り添うよう

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【小説】ダーツとフリースロー 5.『よくもそんなことを』

 
「どうした少年」

 スマホがそのように訊いていた。

 ずいぶんと長い間覗き見をしていたものだ。家を出てから不審に思われるほどの時間が経っていたらしい。三浦大地は大きくひとつ息を吐き、「お散歩がてらにちょっと遠くのコンビニまで行こうとしたら迷っちゃった。ご心配なく」と返信の文面を作る。

 姉の友人から送られてきた迷子の間抜けさを煽るようなスタンプを無視すると、三浦大地は急いでコンビニへと足

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