〜創作〜 先生は私のお守り

入学式の後の担任紹介で、初めて先生を見た。

「この人 本当に教員免許持ってるの?
 私達と歳、あまり変わらないかも?若いなぁ…」

第一印象って、忘れないよね、ず〜っと。

スリムスーツって言葉は聞いたことあったけど、
ピチピチで裾が短いような気がするけど…
サイズが合ってないのかもね。
借り物なのかな?ちょっと色も微妙。
紺でも黒でもグレーでもない。
表現が難しい…迷彩色?が近いかなぁ


先生は見かけ通り(⁈)、担任と言うよりはクラスの
アニキの様な存在で、男子からも女子からも均等に好かれていたね。

担任は1年だけ。
2年はちょっと離れたクラス
3年はすご〜く離れたクラスだった。


でも、なぜかずっと話しをしていた気がするな。
教務員室に用もないのに、お菓子とジュース持って押しかけてよね。
「早く帰れよぉ〜俺帰りたいんだからぁ!」
って言っても、友達とワイワイしながら居座ってたよね。

ねぇ先生知ってる?先生って結構私達のグループに
モテてたんだよ。


3年の時、教室が3階になった。
よく外が見える場所だった

窓側の1番前の席に決めた。
真面目に授業、受けたかったんだ。
絶対入りたい大学があったから。
人生、リセットしたかったんだ。

その席に座るとね、先生が職員室と
教務員室と行き来するのがよく見えたんだ。


予鈴が鳴ってる。ファイルと教科書持って、ちょっとだけ小走り。
あ、急いで戻ってる⁈ 忘れ物?しっかり!


受験対策で忙しくて、もうお喋りはできなかったけど、この席から見える先生は、私だけのもの。
独り占めしてたんだ。毎日幸せだったな。
目なんか合うはずなくて、気づいてくれるはずなんてないのに
『こっち見て♡』のうちわ揚げてる気分で見てたの
知らないよね…

大学に受かった時、電話しちゃった。
休日だったのに。
担任よりも先にかけたんだよ、
コレ、今初めて言うけどナイショだよ…


友達より早く大人になりたくて、馬鹿な恋愛でつまずいてた。
辞めたいのに辞められない。離れなきゃいけないのに、離してくれなくて、身も心もボロボロだった。
受験を頑張ったのも、ボロボロだったからなんだ。
ボロボロじゃ、ダメだと思ったんだよ。
大学には受かったけど、まだどうして良いか分からなかった。

【自分さえ我慢すれば、全てが上手くいく】

と言う呪いにかかっていたから。

でもこのままじゃいけないっていうことは、
分かってた。
キッカケが無いと動けなかったんだよ、先生。


ーー来月、学校の門の前ね。
 うん、ありがと先生。忙しいのに。
 車変えたんだ、何色?黒?
 ワンボックスなんだ。
 遅れないように行きますね。
 じゃあ、その時に…ーー


4月の平日、学校終わりに待ち合わせをしたんだ。
軽く食事をした後、先生は海を見せてくれた。

初めて乗った先生の車の助手席から見る夜の海は、とても綺麗だった。
車の免許、取りたいな…

自分が少し、大人になった様な気がした。
少し、頑張れそうな気がした。

大人のデートって、こんななんだね。
今までの付き合いが、急に陳腐なものに思えた。
…でもまだ、呪いは消えていなかった。


家の近くで、先生は車を停めて 車内にあった
『交通安全』のお守りを、私にくれた。


「オレはお前のお守りになってやる。
お前は優しすぎるんだ。
こんな風に、簡単に男と2人で車に乗るんじゃない。
もっと自信を持って、言いたいこと言いなさい。
分かったね?」

授業の時の話し方と一緒だ。
諭すような話し方、ほっとするよ。
また涙が出ちゃうな。
もうとっくに分かってるんだ、
言わなくちゃいけない言葉は。

ありがと、先生。
きっと言える、言わなくちゃ何も進まない。

そっと抱きしめたりしないでよ
そんなに優しい手で包まれたら、
また頼りたくなっちゃうでしょ!
(女心が分かって無いな〜まったく!)


私は、今日のいろいろと、ファミレスとお守りの
お礼を言って車を降りた。

ーー先生、その後のお話しできなくてごめんね。
お守りの効き目とってもすごかったよ。
無事に人生リセットできたよ。
交通安全だけど、神様は神様だもんね。

恋愛って難しいね、先生。
今も悩み多き女子大生をやっているんだよ。

  また連絡してもいいですか…ーー


  先生は私のお守り