清と濁【サイダーガール】【レディクレ】

12/25 FM802 RADIO CRAZY 初日
Official髭男dismとKing Gnuという紅白出場アーティストの裏に放り込まれたにも関わらず、入場規制をかけたバンドがいる。

ネクストブレイクが集まるSpotify Early Noise LIVE HOUSE Antennaで初日のトリを飾ったサイダーガールだ。

自らを「炭酸系ロックバンド」と称する彼らは、その名に恥じない爽快なサウンドを持っている。
透明感のある歌声、疾走感あるメロディ、青春の全てを表現したようなMV……
あまりの爽やかさに、20代前半男性こと僕は目がくらんでしまう。

その日も僕は、どんな爽やかな音を聴かせてくれるのかと期待して彼らのステージに足を運んだ。
その期待は、半分は超えられ、もう半分は裏切られた。

誰でも乗れるポップさが特徴の『メランコリー』に始まってオーディエンスを踊らせてから、心地よい気だるさを醸し出す『なまけもの』へと続く。
中盤、切ない片想いをポップに歌い上げた代表曲『パレット』が、会場を軽やかな雰囲気で包み込む。
そこに青春をこれでもかと詰め込んだ『エバーグリーン』でたたみかけると、あっという間に爽快感一色。
「最後は僕らもCRAZYな一曲をやりたい」そう語ったラストの曲は、最新アルバムのリードトラック『週刊少年ゾンビ』
”狂った”というよりも”熱狂的な”という意味合いのCRAZYがそこにはあった。

計5曲、爽快に駆け抜けた。生で聴くサイダーガールは、音源以上の疾走感に溢れていた。
メンバーが退場してからも、アンコールが鳴り止まなかった。それぐらいみんなにとって心地よい時間だった。


まさか、このステージで爽やかさ・ポップさよりも印象に残ったのが「泥臭さ・暑苦しさ」だと言っても、誰も信じてはくれないだろう。

繰り返しになるが、サイダーガールは「炭酸系ロックバンド」であり、彼らの代名詞は爽やか・ポップ・青春である。
メディアに顔を出さない彼らの代わりにイメージガールを務める通称CIDER GIRLの透明感を見ても、それは明らかだろう。
サイダーガールのルーツはNUMBER GIRLにあるという話を聞いたことがあるが、にわかに信じがたい話で、むしろNUMBER GIRLを反面教師にしてるんじゃないかと邪推さえされた。
彼らの持ち味である、まさにサイダーの炭酸が弾けるような爽快なメロディーや、向井秀徳とは比べ物にならないほど力の抜けた歌声は、それぐらい爽やかさを醸し出している。

だが、目の前でライブをする彼らを見ると、真実が分かった。
このステージでは、炭酸系の爽やかさで隠しきれない、熱いものに駆り立てられるサイダーガールの一面が垣間見えた。
金髪、サンバーストのストラトキャスター、使い古された煽り。
彼らがロックを愛し、ロックに突き動かされている様がひしひしと伝わってきた。
元歌い手や元ボカロPという経歴、「炭酸系」という売り文句、力の抜けた歌声とメロディー。自分が、そんな上っ面の情報だけで色眼鏡をかけて見ていたことを思い知らされた。
ポップでこそあれ、彼らが突き進んでいるのは、紛れもなく王道のギターロックだった。

彼らの曲を改めて聴いてみると、爽やかでキラキラしているだけではなく、影の部分もはらんでいるように聞こえてくる。
特に、胸がキュッと締め付けられるような「切なさ」と、体の力が抜けていくような「気だるさ」は、彼らの爽やかさと調和し、曲に深みを出すスパイスとして効いている。
それに加えて、ライブではじめて感じられる、コテコテのロックに根付いた泥臭さや暑苦しさである。
彼らの真の魅力は「爽快感」「ポップさ」ではなく、それとは対極にある影や熱量も併せ持てる深みなのではないだろうか。

そうやって清濁を併せ吞む強さを持った彼らは、今まさにとんでもないスピードで進化している。
次はもっと大きなステージで、暑苦しくもひょうひょうとロックを奏でる彼らを見てみたい。

願わくは、彼らの音楽が一番似合う季節に。

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