第5回(全7回) 気候変動の原因と対策を、科学的手法の知識をもとに整理して、すとんっと腑に落ちるようにしたい
書籍やネットで情報は見つけられるけれど、もうちょっと掘り下げたことが知りたいなぁだったり、嘘か本当かわからないものだったり、出典が英語のため読む気力が失せたりします。
自分なりに知ったことをここで皆さんと共有したいと思います。
16. いつやるべきか
第一の最善な時期は、気候変動が生じる前です。
第二の最善な時期は、今です。*1)
放っておけば気候変動は指数関数的に悪化します。
これはコロナウィルスが流行し始めた状況と似ています。
放っておけば感染者は指数関数的に増えて医療崩壊する、という話は当時よくニュースに出ました。
数十人の感染者だったときは患者を隔離したりして感染スピードを抑えました。
数百人に増えたときは、より強い外出規制を行ないました。
それでも抑えきれず、最後は把握しきれない数の感染者が出て病床はいっぱいになり、医療崩壊が起きました。
状況が厳しくなるほどそれに費やす労力は何倍も必要になるのです。言い換えると、後回しにするほど対応は何倍も大変になるのです。
IPCCの報告書を踏まえると、現状の社会では気候変動は止められず、むしろ悪化しています。つまり現状維持で何もしなければ、リスクが指数関数的に増加するだけです。
気候変動の影響は数千年にわたって続くので、自分だけではなく子供、孫、年下の親戚、友達の子供など、あとの世代の生存を脅かします。そのような世代がいま私たちが下した選択を振り返り、どのように評価するかを考えると、憂鬱になります。*2)
*1)「現代気候変動入門」アンドリュー・E・デスラー著、神沢博監訳、石本美智訳、名古屋大学出版会。第10章, 10.3項
*2)「IPCC第6次評価報告書(AR6)総合報告書(SYR)の概要」環境省 地球環境局 (https://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/index.html より、統合報告書の概要(簡易版)【2024年11月更新】 - [PDF:1.6MB]。2024年11月参照
17.誰が率先して取り組むべきか
現在の気候変動には、日本を含めた先進国に大きな責任があります。
それは二酸化炭素は長期間気候に影響を与えるという性質があるからです。地球に影響を与えている二酸化炭素の70%が大気中から除去されるのにかかる時間は、約500年です。*1)
そして海洋に溶け込んだ二酸化炭素を除去するには、より長い期間を要します。
以上の理由から、過去に排出した分も考慮して気候変動の責任の割合を出す必要があります。
最も責任が重いのは米国の40%で、EU加盟28カ国は29%、EU以外のヨーロッパは13%、日本も含めたグローバル・ノースに分類される国は10%の責任を負う義務がある、と試算されています。*2)
現在は中国の排出量が大変多くなっています。大量排出を止めることはもちろん必要です。しかしそれだけに着目するのはバランスが取れていません。
歴史的な日本の責任について目を逸らすことはできない、という認識が重要です。
*1) 「現代気候変動入門」アンドリュー・E・デスラー著、神沢博監訳、石本美智訳、名古屋大学出版会。第5章, 5.6項
*2) Jason Hickel; “Quantifying national responsibility for climate breakdown: an equality-based attribution approach for carbon dioxide emissions in excess of the planetary boundary”, (THE LANCET, 2020) https://www.thelancet.com/journals/lanplh/article/PIIS2542-5196(20)30196-0/fulltext
18.まとめ
気候変動問題への取り組みは「いつやるの?いまでしょ!」という状況です。
気候変動の責任は、過去の排出量も考慮してその割合を決めるのが妥当です。
その考え方で検討すると、日本を含めたグローバルノース全体は、気候変動問題の92%について責任があります。
そして米国、EU、EU以外のヨーロッパ諸国を除いたグループで構成される日本を含めた各国には10%の責任があります。
つづく・・・
次回は
19.何を緩和するか
の予定です。