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イスラエルに反対するユダヤ教徒に直接会って話を聞いた。ネトゥレイ・カルタ2016年インタビュー(後半)


はじめに

前半に引き続き、イスラエルに反対するユダヤ教徒、ネトゥレイ・カルタへのインタビューを記事にまとめています。後半は、ラビ・ウェイスの残りのお話です。
イスラエルでは、昨年10月以降、兵力増強のため、国内外の予備役兵に徴兵の呼びかけがなされています。これまで兵役を免除されてきた正統派ユダヤ教徒たちにも徴兵の現実が迫っています。

そもそも、国民皆兵のイスラエルで、なぜ正統派ユダヤ教徒たちは徴兵を免除されてきたのか
イスラエル建国にあたり、分裂した正統派ユダヤ教の過去から、ジレンマを抱えながらもシオニストへの抵抗を続けるネトゥレイ・カルタの今について、ラビ・ウェイスにお話しを聞きました。

(左)ラビ・ウェイス(中央)ラビ・ベック

イスラエル国家と、正統派ユダヤ教徒の微妙な関係

―――イスラエルにはたくさんの正統派ユダヤ教徒がいますね。
とくに、アグダ(Agudat Yisrael)という組織について言えることだと思いますが、もともと彼らは反シオニストの立場を取っていたと思います。しかし、彼らはイスラエル国家を認める代わりに、妥協関係を結び、イスラエル政府も彼らに対して、徴兵免除や諸々の特権を与えてきました。
シオニストに反対するあなたたちのような正統派ユダヤ教徒でさえ、そこに住み続けることによって、イスラエル自体に「ユダヤ性」なるものを与えてしまっているのではないでしょうか?


まさにその通りです。私たちは全くそういった立場をとるつもりはありませんが、あなたは的を射ています。

イスラエル建国以前、皮肉なことに、アグダとエーダ・ハレーディト[ネトゥレイ・カルタも含む宗教共同体の中核組織]は共にありました。それは「アグダ・エーダ・ハレーディト」という一つの名でした。

パレスチナでシオニストたちが力を持ち始めたとき、建国反対を訴えましたが、宗教共同体が圧迫されていくなか、支援の多くは他の国に暮らすユダヤ教徒からの慈善金でした。シオニストはこのお金の流れを止めようとしました。それによって、[反シオニズムの]ユダヤ教徒たちは文字通り餓死しそうになったのです。

瀕死状態の共同体の対処になす術がなく、イスラエル建国期のアグダは、「我々はここにいても、建国を祝うことも認めることもない。それでも代表権はもつべきだ」と考えました。

現在イスラエルにアラブの代表政党があるのと似ています。
支持者のために代表を立てるべきと主張したのがアグダ一派の思考でした。

では、エーダ・ハレーディトはどう対応したのか。不正な実体相手にはいかなるも行動も許されず、代表権は持つべきではないとしたのです。

政治参加はもとより存在を承認してはならず、今なお数十万の同胞を持ちながら、投票に行くことはありません。

私たちのラビは、「それはまずユダヤ教徒に禁じられた行為であり、次に[政府への協力姿勢の見返りとして]利益を受けた時点から堕落の一途を辿るであろう」と言いました。

トーラーはこう述べます。
「わずかな賄賂であろうと、それは独立した正しい裁きを歪めてしまう」

裁きを曲げず、偏り見ず、賄賂を受け取ってはならない。賄賂は賢い者の目をくらませ、正しい者の言い分をゆがめるからである。

申命記16章19節(新共同訳)

二人の人間が論争にあり、判事であるラビたちの前にやってきたとします。あるラビが一方の側から1ドル僅かのお金を受け取ったとき、そのラビはたちまち判事として不適格とみなされます。それがどんなに少額であったとしてでもです。だから私たちは、何も受け取りません。

残念ながら、私はなぜアグダがその考えに賛同しなかったのか、お答えできません。彼らは、ともかくそこに入り、自らの権利を守ろうとしました。この傾倒は初期に始まったことです。

かつて、メイル・カハネというアメリカのシオニストが創設した団体がありました。いわゆる宗教シオニストと呼ばれる人々です。

私はこのような人々について話しているのではありません。私が話しているのは、かつて信仰者の権利を守るために、まったく宗教と相いれないシオニストに参加した者たちについてです。いま、彼らの多くは、右極化しています。

彼らは、贖罪の始まりを主張する者たちと協力し、パレスチナに帰還することの利点を説き始めました。

ミズラヒやメイル・カハネなど、宗教共同体から追放された者たちがいたように、かつて同志であったアグダは今、完全に異する者たちとなってしまいました。

あなたがおっしゃったように、事実、ベン=グリンは述べました

アグダのようなユダヤ人は、自分たちに力を付与するのだと。なぜなら、彼らは孤立した社会[イスラエル]に堅実性と正当性を与えるからです。

聖地から立ち去ることを訴えた続けたラビ・タイテルボイム

パレスチナのチーフ・ラビであり、聖者、そして私たちの亡き師である、ラビ・ヨエル・タイテルボイム(Joel Teitelbaum)は、アメリカに移住し、ここからそう遠くないキリヤット・ヨエル(Town of Kiryas Joel)※に彼の共同体を築きました。

(※ニューヨーク州南西のオレンジ郡に位置する村。村単位に占めるユダヤ教徒の割合は、世界一位である。居住者の大半がイディッシュ語を話す。)

キリヤット・ヨエルにイスラエルの国旗は一つもありません。シオニストの傘下になることを拒否したラビ・タイテルボイムは、イギリス委任統治下のパレスチナを離れ、ニューヨークに住みながら、長年パレスチナのチーフ・ラビを名乗り続けました。

また、現地の同胞にパレスチナを離れるべきだと助言し続けたのです。
しかし、出国のためのビザや資格を得ることができなかったり、親族全員が聖地に住んでいたりする一部の者たちにとって、移住は困難を極めました。

ラビ・ベックは移住しましたが、イディッシュ語[とハンガリー語]を話す彼は、英語を話すことができないにもかかわらず、5人の子を連れ、ニューヨークの小さなアパートに移り暮らしたのです。

しかし、エーダ・ハレーディトの中には、ラビ・タイテルボイムに反対する者がいました。彼らの言い分は、

”もし我々が立ち去ることになれば、聖地は完全に奪取されてしまう、その場にとどまって対抗していかねばならない”

というものでした。ネトゥレイ・カルタのラビの中にも多少の仕切りが存在します。彼らはシオニストに土地を掌握されないために、聖地からの移住を積極的に肯定しません。

ラビ・タイテルボイムは、これらの人々を見捨てたわけではなく、敬い、個人的な支援をしました。エーダ・ハレーディトとネトゥレイ・カルタはほとんど同じです。

しかし、アグダはシオニストに反対しながら、なかばシオニストに飲み込まれつつあります。

次世代への取り組み

―――パレスチナ問題に関して、街頭デモは知られていますが、他にどのような活動をしていますか。その際、政治活動と宗教活動とのバランスをどう取っていますか。
 

私たちの共同体では、子どもへの教育に力を注いでいます。

例えば、子ども用のカードゲームは、それぞれのカードに色があり、色合わせゲームのようにシオニストに矛盾するユダヤ教の教えを伝授するのです。

様々な問題について、子どもたちはイメージを掴みます。例えば、イランでユダヤ教徒がどのように守られ、互いに敬ってきたかを示しています。ユダヤ教徒は違う国の中で平和に暮らしています。

ネトゥレイ・カルタのカードゲーム (拙者撮影)
「賛美する…私たちの土地から偶像崇拝を根こそぎにすることを」


また、私たちは自分たちの学校制度を持っています。毎年のようにオープン・スクールを開いています。シオニストの信念に子どもたちを送らないよう、また共同体の中にシオニストを生み出さないよう、気を付けています。

共同体内部に向けては、大きな発展があります。なぜなら、私たちには、家族計画がなく、一家族の子どもの数は平均7人です。ホロコーストによって、何百万ものユダヤ人が殺害されました。しかしそれ以来、漸進的ではありながらも、人口上の目覚ましい発展を遂げてきました。

イスラエルにおいてさえ、シオニストたちは宗教コミュニティや正統派の数が増していることを恐れています。しかし、[数が上回るのは]時間の問題でしょう。

政治的観点においては、ラビ・ベックが述べた通り、私たちは政治の世界とは繋がっておりません。けれども、世界中の政治指導者に向けて、この悲劇が宗教紛争ではなく、シオニズムの目的を達成するために、ユダヤ教の名を乗っ取った政治運動であったことを理解すべきだと語りかけるのです。

この点において、南アフリカには長年、アパルトヘイトという制度が存在しました。アパルトヘイトに終止符が打たれた真の理由は、同国の政府に起因するのではありません。彼らはその立場から多くを享受していました。それは国連がその状況を最終的に認め、世界の首脳に対してアパルトヘイトの黙認をやめるように、圧力をかけたからです。

パレスチナの政党について

―――オスロ合意で、イスラエル国家を認めたPLO(パレスチナ解放機構)の立場をどう評価しますか。
 
非政治的主体である私たちできることは、問題の核、このナクバと呼ばれる悲劇の根源が、シオニズムにあるということを世界に知ってもらうための活動です。

解決策は、シオニズム、イスラエル国家の平和的な解体です。たとえパレスチナ人のすべてがイスラエルの土地所有に同意しようとも、私たちが同意することはありえません。

パレスチナの人々に言えることがあれば、それは、彼ら自身が指導者や政治家にどのような人物を求めているのかということを、彼ら自身で決めねばならないということです。

ネトゥレイ・カルタは少数派なのか

―――同じ、または同様の信念を持つユダヤ人はどのくらいいますか。メディアは故意にあなたたちを少数派として扱っているのでしょうか。
 
信仰深いほど、より反シオニズムの立場にある、これは明らです。数は分かりませんが、あなたが世界中の宗教共同体を尋ねれば、この意味が分かるでしょう。

パレスチナのチーフ・ラビ、タイテルボイムは、ユダヤ教の信仰による反シオニズムの価値観を広め、人々にデモに参加するよう促しました。

問題の内容によって、デモ参加者の数は変わります。
しかし、反シオニズムの数となれば、数百万人に及びます。

先に述べた通り、アグダは困惑しています。彼らは権利の保護が必要だと訴えますが、すでに罠に陥っています。

しかし、彼らでさえ、パレスチナ人にかけられた苦悩を見過ごしたいなどとは思っていません。また、無信仰の多くのユダヤ人も、人権の観点からイスラエルに反対しています

現地において、絶えず苦しみを与えられるパレスチナ人を前に、また自分たちの名前によって、争いが行われていることに、憤りと屈辱を感じずにはいられません

アラブ地域からのユダヤ移民と「戦うユダヤ人」像

 ―――イスラエル政府は、建国以来、ハレディーム(超正統派一派)に対する兵役を免除してきましたが、ハレディームの男性にも兵役を課すような法整備が進んでいます[2016年当時]。これについて、ネトゥレイ・カルタ内部で議論はありますか。
 
ネトゥレイ・カルタは軍への徴兵を強制しようとする現在の状況に対してデモを行っています。しかし、残念ながらこういった圧力のなかで、若者を軍へ入隊させるアグダのような一派から、過激な思想をもった人々が生み出されることがあります。理性を失った反抗的な若者が生まれるのです。

一つ例を挙げましょう。
イスラエルにはイエメンやイラク、その他の中東地域からの移民がいます。

彼らは根こそぎイスラエルに連れて来られました。そして、既存のユダヤ教徒の居住区ではなく、”専用の入植地”に住まわされました

彼らの子どもたちはユダヤ教の教育を受けさせてもらえず、また、信心深い両親からも引き離され、軍に入隊させられました。これはほとんど誘拐と言えるものです。おぞましいことです。

ベン=グリオンのスキャンダル ハガナとモサドがユダヤ人を排除した方法という本には、イスラエルへの移民を促すために、シオニストがイラクのユダヤ教徒のコミュニティで爆弾事件を起こしたことについて書かれています。

イエメンにも、モサドによるイスラエル移住の働きかけを拒否したラビがいましたが、ナイフによる殺傷事件を契機として、数千年も続いてきたイエメンのコミュニティから人々は脱出を開始しました。

イスラエル移住のために、”ユダヤ教徒を騙す方法”はいくらでもあるのです。

1950年代は、ユダヤ教徒を「掌握し易い」(grab-able)環境だったとラビ・ベックは言います。

イスラエルへ集団移住した多くのイエメン系ユダヤ教徒は、国境を越えたところで直ちにパスポートを取り上げられました。
再出国が不可能となった彼らは、入植地に押し込まれました。イスラエルは、宗教教育を与えないことによって精神的に彼らを破壊しました。

トーラーに代わる、ガリラヤのダビデなど、世俗的物語のつづりを教え込み、聖者の代わりに、神のために戦う強い人間像を創り出しました。
そして、トーラーを完全に堕落させました。

これがシオニストに抵抗する根本的な理由であって、徴兵の問題についても私たちは継続的に抗議していきます
 

戦争と、高揚感と、ナショナリズム

―――現地のネトゥレイ・カルタにも影響が及んでいますか。
 
そうです、それ故に多くの者が現地を去るのです。脅威を感じているのです。
「6日戦争」(第三次中東戦争)の後、外に流れる人々の波がありました。 [勝利によって]強い高揚感に飲み込まれたイスラエル社会は、子どもたちに影響を及ぼすおそれがあったからです。

多くの者が現地を去りました。徴兵制による影響があるか。もちろん、それは何らかの形で影響を及ぼします。でも私たちは立ち向かおうと、挑戦しているのです。

アメリカという”居住国”でのユダヤ教徒の立場

―――ニューヨーク市長がBDS活動団体を逆ボイコットする決議[2016年当時]をしましたが、どのように捉えますか。
 
何をお伝えできるでしょうか。私たちユダヤ教徒に義務付けられているのは、居住国の指導者に敬意を表すことです。

アメリカ人には民主主義という概念があり、国の指導者や政治家に対する軽蔑的な態度が許されます

けれどもこの態度はユダヤ教徒には許されていません。善良な政府や、良き指導者がもたらされることを祈る、それが私たちの宗教の教えです。

私たちのやり方は、常に謙虚さと敬意をもちながら、シオニストの罠に陥らないような要求によって働きかけることです。

イスラエルの存在が、反ユダヤ主義の最大の要因―反ユダヤ主義を誇張する製造所―となっている、この矛盾を説明しようとしているのです。脅威を振りかざすことによってではなく。
 

おわりに:パレスチナへの「帰還」とは

 パレスチナへの帰還は、ユダヤ教にある基本的な願いです。しかし、パレスチナがシオニストの権力下にある限り、承認も支援も望みません。

この問をめぐっては、私たちの中にも論争があります。

シオニズムに反対する同胞を支援するため、パレスチナの学校やコミュニティに赴く多くのユダヤ教徒がいます。一方、何十万もの同胞はパレスチナに赴くことさえ拒否します。イスラエルに対していかなる支援を与えることも忌避するからです。

しかし、その日を切望すること、祈ることはユダヤ教の中核をなします

私が帰還を望むのは、すべての人類に向けて、神の栄光によって、神殿の丘に神殿が築かれるときです。

ムスリムと神殿の丘に対する考え方に大きな違いがあるからといって、それが憎悪の理由になったことはありません

なぜなら彼らは私たちが危険な存在でないことを知っているからです。

ムスリムとユダヤ教徒、またキリスト教徒の間には、メシア(救世主)が誰であるかについても、異なる概念が存在します。

けれども、その相違が三宗教間に危険な関係を生み出しますか。いいえ、私たちユダヤ教徒は終末と神を信じ、そこに人的な介入はなさないのです



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