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日常の不思議を見つけよう!

 空に形はありませんが,四角い窓から見上げれば四角く見え,丸い窓から見上げれば丸く見えます。ちょっとだけ視点を変えて,別の窓から見上げるだけでも,空はまったく違って見えるでしょう。
 あなたの生活の身近なところに,不思議はたくさんあります。ちょっと視点を変えるだけで,この世界はとても複雑で豊かな顔を見せてくれるのです。不思議な世界の謎に挑戦する。それが科学のおもしろさであり,それを解決しようとする活動が研究なのです。ちょうど雨に濡れるアサガオを見つけたので,アサガオで考えてみましょう。

アサガオの花弁(花びら)で気づくことは?

 アサガオの花弁が雨に濡れています。あなたは,どんな不思議に気づくでしょうか?

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 花弁に水滴がついている部分に注目してください。すべてではありませんが,いくつかの水滴がついた部分のが,青紫色から赤紫色に変わっています。どうして花弁の色は変わるのでしょうか?

花弁の色が変わる秘密

 アサガオに限らず,多くの植物が持つ色素にアントシアニンがあります。アントシアニンはpHで色の変わる物質として良く知られていて,小中学校の理科の教科書にも色の変化が載っています。アントシアニンの色は,中性では紫色ですが,酸性になると赤くなり,アルカリ性になると青や緑,黄になります。下の画像は,以前にサンゴかいわれ大根の葉から抽出したアントシアニン溶液の色の変化です。

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 アサガオの花弁の色は,アントシアニンによるものなのでしょうか。花弁の色がアントシアニンだと仮定すると,花弁の色が水滴によって,青紫色(右から4番目)から赤紫色(左から4番目)に変化したのは,弱アルカリ性から中性への変化かもしれません。

仮定に含まれる事実

 この仮定を証明するためには,ふたつの証拠が必要です。
 ひとつはアサガオの花弁は弱アルカリ性になっている。
 もうひとつは雨水は弱酸性である。
 では,どうやって証拠を集めればいいでしょうか。いろいろな方法があると思いますが,ここで,もうひとつの画像を見てみましょう。隣りにあった,萎れたアサガオです。咲いているときは上の画像と同じ青紫色でした。

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 萎れたアサガオは,花弁の色が紫色(中性)に近くなっていますね。アサガオは蕾のとき(写真を撮っていませんでした)と,萎れたときには,紫色に近くなり,咲いているとき青紫色になりました。この観察結果は,先の仮定において,何を説明し,どのような意味を持つのでしょうか。

興味を持つと不思議が見える

 自然現象を観察してを見出し,その解決を目指すのが,研究です。いま,あなたは研究の端緒,研究テーマの探索とそれを解決するための計画に辿り着いたのです。いま,あなたが感じた(かもしれない)不思議を,研究者は感じて,それを解明したいと望んでいるのです。
 研究者と,そうではない人たちに大きな違いがあるわけではありません。しかし,研究者は,ちょっとだけ視点が違うのです。そして,その人にしか感じられないちょっとの違いを,私たちは独創性と呼んでいます。
 アサガオの秘密について興味が出たでしょうか。幸いなことに,アサガオの秘密については,先人たちの努力によって,それなりに解明されています。
・アサガオの花弁の色はアントシアニンです。
・花弁が蕾と萎んだときに紫色になるのは中性に近くなるからです。
・咲いたときに青紫色になるのは弱アルカリ性になるからです。
・雨水は空気中の二酸化炭素を吸収していますので,弱酸性です。
 これらの事実を組み合わせると,アサガオの秘密に迫れそうですね。

手を止めてはいけない

 これですべてわかったと思うなら早計です。たとえば,なぜアサガオが咲いたときだけpHがアルカリ性になるのかは説明されていないのです。わかりやすい部分だけを説明していることは忘れてはいけません。誰かが言っていたことや,どこかに書いてあったことが「ほんとう」かどうかは,自分自身で確かめなければなりません。「手を動かす」ことが,もっとも重要です。別の例で考えみましょう。さきほどの説明には,あなたの常識と違う部分はありませんか。学校では水は中性と習ったはずです。雨水が弱酸性なら,水道水も弱酸性かもしれません。なぜ学校で習ったことと違うのでしょうか。
 「わかった」「知ってる」と思う気持ちが,目の前にある不思議を見えなくするのです。まだまだ謎が残されています。そして,専門的になればなるほど,説明できない部分が増えていくのです。次々に現れる謎に挑戦する,これが科学のおもしろさであり,科学の謎は私たちのごく身近なところにあるのです。

日常の不思議を見つけよう!

 どうでしたか。日常の不思議から,科学のおもしろさを少しでも感じてもらえたなら幸いです。クイズではないので正解したかどうかは重要ではありません。あなたの目に映るものに「当たり前」はありません。すべてに「なぜそうなるんだろう」という疑問を感じることが重要です。広く人文・社会科学も含む科学では,そうした疑問の解明を目指しています。そして,その研究成果は,私たちの暮らしに新しい考え方や不思議をもたらしてくれるのです。
 もしかしたら,あなたは「当たり前」「知ってる」もしくは「わからない」のフィルターで,いろいろなものを見えなくしているのかもしれません。そう。子ども時代に,この世界が複雑で豊かで不思議に満ちた世界だと感じられたのは錯覚ではなかったのです。
 空に形はないことを思い出し,もう一度空を見上げて見ませんか?
 きっとそこには,前とは違う空が広がっていると思います。

参考文献

 中谷宇吉郎「科学の方法」岩波新書

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いつもより,少しだけ科学について考えて『白衣=科学』のステレオタイプを変えましょう。科学はあなたの身近にありますよ。 本サイトは,愛媛大学教育学部理科教育専攻の大橋淳史が運営者として,科学教育などについての話題を提供します。博士(理学)/准教授/科学教育