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悪いのは親でも子どもでもない【書籍紹介:10代の脳】(移行版)

子どもの行動は、脳の発達段階と関係があります。発達途中の子どもは脳の活動が大人と違うため、時として突飛な行動をとってしまうのです。我が子の反抗期を体験した著者が、自らの専門である脳科学の知識を活かして反抗期と向き合うなかで培った、脳から見た反抗期と対応についてまとめた1冊です。本記事はnote記事を移行したものです。

1 本書の特徴

 本書の特徴は、章末にある親へのアドバイスです。著者のジェンセン氏は、シングルマザーとして二人の息子を育てるなかで、自身の専門である脳科学を活かして反抗期と向き合ってきました。その経験をまとめたものが本書になります。そのため、それぞれの章で解説された内容をまとめ、親が我が子の行動をどう理解するべきかのアドバイスが掲載されています。
たとえば、以下のようなアドバイスがあります。

・20歳になっても脳は完成しない(第2章)
 10代の脳の完成度は80%で、つながりの弱い領域が20%も残っている(後略)
・10代は伸びる才能を見出し、投資する時期(第4章)
 (前略)10代で学んだことは、おとなになってから学ぶことより記憶しやすく、記憶が長く持続する(後略)
・成長途中の脳は速く、強く中毒になる(第10章)
 多くのドラッグが作用する、脳の報酬システムの中心「側坐核」は思春期ではまだ成長途上。そのため活発に働いて、少ない報酬で多くの興奮を得ようとするために、10代はおとなより速く、強く中毒になる。

 本書から以下にいくつかの話題をピックアップして紹介します。

2 ティーンの脳は未完成

 10代の脳は、環境に適応するために刺激に対してとても敏感である一方で、興奮を抑えて理性的な行動を促す前頭葉の働きが未成熟です。
 刺激に対して鋭敏であることは、興味関心を高めて学習につなげるために有利に働きます。つまり、10代はさまざまな学ぶのに適した時期なのです。一方で、刺激によって興奮した行動を鎮め、理性的・合理的な判断をするための前頭葉の働きが未成熟であることは、学習の継続には不利に働きます。地道で刺激に乏しい学習を続けていくためには理性による行動が必要ですが、10代の脳は刺激を求める傾向が強いため、興味を持ってもすぐに飽きてしまうのです。
 つまり、宿題などの基礎的な能力を養成するための訓練は、親の支援なしに継続することが難しい傾向にあります。著者は子どもが家に帰ったらまず宿題のリストアップをする、頭を使う数学などの宿題を先にやるなどの、行動への親の支援の必要性を説いています。

3 タバコ・アルコール・ドラッグの悪影響

 10代の脳は発達中であるため、タバコ・アルコール、そしてドラッグの影響が速く、強く現れます。そのため、大人よりも遥かに少ない量で中毒になる可能性があります。
 これは前述の刺激に対して敏感であることと関係しており、おとなよりも刺激を強く受ける上に、大人と異なり「無制限に刺激を求め続ける傾向」が強いため、より依存度が高くなるのです。だからこそ、未成年のタバコやアルコールは危険なのです。一方で、10代であれば回復も期待できます。早めの対応が子どもの将来を守ります。

4 スポーツと脳震盪

 脳が発達段階であることは、脳震盪の影響も大きいのです。米国では、男子はアメフット、女子はサッカーが盛んですが、これらのスポーツは試合で脳震盪が起こりやすい傾向にあります。一方で、10代の脳震盪のダメージからの回復は大人より遅いため、脳震盪後の回復期間を長く取る必要があります。そのままプレーを続けたり、短期間の休養後にプレーを再開した結果、後になって脳の障害が現れることが問題になっています。

5 未成年の罪と罰

 刺激に対して強く反応し、理性的な行動が難しく、同調圧力に屈しやすい未成年は、適切な環境が与えられない場合、過ちを繰り返す傾向にあります。一方で、発達段階にある10代の脳は、適切な支援があれば更生の可能性が高いとも言えます。近年の日本でも話題になる未成年の犯罪に対してどう向き合うのかについて、著者は神経科学の観点から知見を述べています。

6 まとめ

 悪いのは親でも子どもでもありません。脳の発達によって起こる行動の変化なのです。子ども自身も戸惑っているので、粘り強く子どもと対話をしていく必要があります。10代は見た目は大人に近付きますが、脳はまだまだ発展途上です。IQすら30歳まで変化していくと言われています。だからこそ、親は子どもを支援する必要があるのです。著者は、たとえ子どもがウザがっても繰り返し正論を述べ、話し合ってきたことが、子どもにとって大事だったと述べています。
 本書は神経科学の知見を用いて解説が進むため、神経や脳の機能についてやや専門的な説明がありますが、高校生物の触り程度で理解ができます。とくに前半に学術的な説明が集中しますが、以下の2点を抑えておけば大体は理解できます。

側坐核 脳の報酬(嬉しい・楽しい)を司る場所。働くと興奮する。
前頭葉 脳の抑制(理性・合理的判断)を司る場所。働くと鎮静する。

 子どもを持つ親が一度は感じる、「この子はどうしてこんな突飛なことをするのだろう」という疑問に神経科学の観点から解説した一冊ですので、ご一読をオススメします。


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